お金と仕事
ライザップ社長が語った「野望」 英会話・ゴルフ…爆走の拡大路線
パーソナルトレーニングジムのRIZAPグループが、企業を次々に買収しています。最近ではジーンズメイトやフリーペーパーの「ぱど」の買収を相次いで発表。さらに昨年から英会話やゴルフ、料理教室も始め、急速にその事業範囲を拡大しています。ライザップは、一体何を目指しているのか。「軸は自己投資産業」と語る瀬戸健社長に話を聞きました。
――主力のライザップ事業は、5年間で累計会員が7万人になり、店舗も100を超えました。成功の要因は何ですか?
「極論を言うと、同じ値段で100回トレーニングをしても結果が出なかったら、努力だけして何なのということになります。1回で終わったとしても、それで本当に結果が出れば良いわけですよね。我々は手段ではなく、すべては『結果にコミットできるか』という覚悟をもってビジネスをしているんです」
――具体的には?
「まずはお客様が求めているものを明確にすることです。次にそれをかなえるためのメソッドを考える。そしてそれをやりきるためのサポート。私たちの場合、お客様がジムに通うのは週2回ですが、来ていない時間のほうが100倍重要です。その時間に何をするか。メールのやりとりなどで、そこに寄り添うのが我々なんです」
――どんな人がライザップに通っているのでしょうか。
「上を目指している、意識が高い人が多いです。現在地と目指す場所のギャップがあるから悩む。それがハングリー精神につながる。決して太めの体形の方ばかりが来るということはないんです」
――痩せるにあたって重要なことは何ですか。
「例えば、体形が太めであれば人柄がよく見える、優しく見えると思っていたとします。そうなると痩せることは、人柄が悪くなることと表裏一体になってしまう。痩せていく過程で、周りの人が1人でも前のほうが優しそうに見えた、と言われるとズカー、と来るんです」
――太っていた時を肯定してしまうんですね…
「そんなときにトレーナーがすごく力を発揮する。太っていたことを否定しないといけない。ぶっちゃけあのとき太っていましたよね、いまのほうが100倍かっこいい、全然違いますよ、などと伝える。そうしないと抜け出せないんです」
――なぜジーンズメイトを買収したのでしょうか。ライザップ事業との相乗効果が見えづらいとの指摘もあります。
「ライザップに通っている方は平均10キロ痩せます。昔着ていた服がほぼ入らなくなる。前向きな感じですべての服が使えなくなるんです。そういったお客様の声を取り入れてRIZAPアパレル、特に初心者の方からアスリート指数の高い方まで幅広く使用できるコンプレッションウェアを本格的に展開しているんですが、トレーニングを通じて自己投資にほとんど興味がなかった方が自己投資に目覚めるんですよ」
――体形の変化が気持ちも変えると?
「男性だったらプレゼンの練習をしたいとか、女性だったら歩き方の勉強をしたいとか。そして使っていた物の選択が変わってくる」
――そうした思考に合わせた服を作るということですか?
「そうですね。ワイシャツは首回りと胴回りが連動しており、首に合わせると、おなかが出ている人はダボッとなる。ライザップを経験した方は筋肉がつくところにつき、しまるところはしまってくる。体のラインを見せたくなかった人が見せたくなる。日本人離れした体になるんです。そういう方々向けのオーダーメイドによる服作りはすでに始めています」
――とはいえ、ライザップのロゴが入ったウェアを着たいと思う人がどれぐらいいるか少し疑問です。
「そこはおっしゃる通りなので、変化させたものを開発中です」
――ジーンズメイトでアパレル企業は6社目の買収です。アパレルでは、今後どんな事業展開を考えているのでしょうか。
「お客様の共通IDを作り、趣味・趣向、購買や行動の履歴などの活動データがたまる仕組みを作ろうとしています。共通の顧客基盤、究極のCRMを作りたいんです。3Dで自分のラインを取ることも考えている。その方が望んでいる服の提案や趣味・趣向にあった提案ができるようになります」
――業務提携ではなく、企業買収が目立ちます。提携ではダメなのでしょうか。
「そこはゼロから作っていくという考え方です。実際にユニクロ(ファーストリテイリング)でIT戦略を担っていた岡田章二が最高戦略責任者(CSO)兼最高情報責任者(CIO)として昨秋に入社。同じくユニクロ出身で、ソルトレイクとアテネ五輪では日本選手団の公式ユニホームの開発責任者を務めた宇山敦が今年2月に入社しました。これでSPA(製造小売り)ができるようになる」
――商品の製造から流通、販売までを管理するSPAといえばまさにユニクロです。
「私たちは基本的にゼロから自分たちで生み出していくという考え方がある。商品をゼロから作っていく過程に自分たちの思いがあるのであって、それを販売するだけという会社は目指していない。ライザップはトレーナーの外部派遣は一切していません。副業を禁止している。そこにフィロソフィーがあるんです」
――SPAを進めた先には?
「今後すべてを一体的に統合しようと思っています。『ライザップ経済圏』です。物流も一つの物流センターを作る。ジーンズメイトやライザップなど全部の商品を1カ所に集めようと動き始めています」
――現在、美容・健康、アパレル、住宅関連、出版・印刷、アミューズメントなどグループの子会社は多岐にわたります。分野を問わず事業を拡大しているようにも見えますが、軸はどこに置いているのでしょうか。
「自己投資産業です。つまり『人は変われる』という点でサポートができる分野です。そしてその分野の中でトップに立つのに必要なスキルは何かという点を考えています」
――起業してから間もないころ、ダイエット用の豆乳クッキーがヒットしました。
「ダイエット用の豆乳クッキーがヒットしたときに美顔器の会社を買ったんです。そしたらなんでクッキーの会社が美顔の会社を買うのか、とめちゃめちゃ言われたんですよ。消費者目線で考えると、クッキーを買いたくて買っているのではなくて、クッキーを食べて痩せたいという気持ちがその先にあると思うんですね」
――そこに他社との差別化があったと?
「美顔器の会社を買ったのは、美顔器を使ってきれいになりたい、美しくなりたい、という消費者が求めているものを見ていたんです。当時、豆乳クッキーだからと、豆腐や大豆関係の話がたくさん来ました。でも全然違うんですよ。ほとんどの会社がモノを見ている」
「見ないといけないのは、消費者がその商品に求めているものなんです。『結果にコミットする』と言っているのは、消費者が本当に求めているものは何なのかを追求しているということなんです」
「RIZAPでのトレーニング、RIZAP GOLFでの練習、RIZAP ENGLISHでのレッスンという手段に投資させるのではなく、理想のボディにしたい、ゴルフがうまくなりたい、英語を話せるようになりたい、といった結果に投資していただくことが我々のビジネスです。アパレルに関しても、理想の体を手に入れた自分をもっとよく見せたい、という目標に対して当社が提供するウェアでそれを表現していただきたいと、考えているんです」
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せと・たけし RIZAPグループ社長。1978年福岡県生まれ。2003年に健康食品の通販会社「健康コーポレーション」を設立。「豆乳クッキーダイエット」やどろ豆乳せっけん「どろあわわ」などの商品を開発・販売。2006年に札幌証券取引所に株式上場。2012年にライザップ事業を立ち上げ。3月末時点で国内115店舗、海外5店舗。累計会員は7万人を超える。
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