連載
#8 夜廻り猫
「不満なんてカケラもない…」涙を誘う猫マンガが描く無償の愛
「不満なんてカケラもないって感じで、うれしそうに一緒に行くんだ」。自転車通勤に変えてから通るようになった公園で、よく見かける風景。おじいさんに寄り添うボルゾイ犬が、楽しそうに遊んでいる犬たちを見つめています。「ハガネの女」「エデンの東北」などで知られ、ツイッターでも作品を発表している漫画家の深谷かほるさんが、「無償の愛」をテーマに描きました。
「春の宵に、一人泣く子はいねが~」
きょうは、愛を見つけた涙の匂いをかぎつけた、猫の遠藤平蔵。
自転車通勤中の男性に声をかけました。
通勤路が変わり、公園を通るようになった男性。
「朝晩、散歩の犬たちが集まっていて楽しそうだったんだ」
そんな中、ある光景を目にします。
高齢の飼い主のそばに、一匹でたたずむボルゾイ犬。
遠くの仲間をじっと見て、時々しっぽを振ってやめます。「遊びたいんだろうなぁ」と思っていた男性。
けれど、おじいさんが立ち上がると、さっと向き直って、歩調を合わせて歩き出します。
「不満なんてカケラもないって感じで うれしそうに一緒に行くんだ」
男性はハッと気づき、「これって…愛じゃね!?」と遠藤に問いかけます。
遠藤は「おまいさんがそれを話せる相手に出会えますように」と笑うのでした。
このお話は、作者の深谷かほるさんの知人が実際に目にした光景だそうです。
深谷さんは「もしこれがシバイヌだったら、はじめから飼い主以外には目もくれないかも。このボルゾイには、『本当は犬たちと遊びたい』という思いがあって、でもやっぱり『飼い主が大好き!』という気持ちの動きが、素直に身体に出たんだと思います」
「自分の忍耐や払った犠牲を、まったく気にしないように見える犬は、飼い主を愛してくれているんだなぁと思いました」と振り返ります。
【マンガ「夜廻り猫」】
猫の遠藤平蔵が、心で泣いている人や動物たちの匂いをキャッチし、話を聞くマンガ「夜廻(まわ)り猫」。
泣いているひとたちは、病気を抱えていたり、離婚したばかりだったり、新しい家族にどう溶け込んでいいか分からなかったり、幸せを分けてあげられないと悩んでいたり…。
そんな悩みに、遠藤たちはそっと寄り添います。
遠藤とともに夜廻りするのは、片目の子猫「重郎」。姑獲鳥(こかくちょう)に襲われ、けがをしていたところを遠藤たちが助けました。
ツイッター上では、「遠藤、自分のところにも来てほしい」といった声が寄せられ、人気が広がっています。
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深谷かほる(ふかや・かほる) 漫画家。1962年、福島生まれ。代表作に「ハガネの女」「エデンの東北」など。2015年10月から、ツイッター(@fukaya91)で漫画「夜廻り猫」を発表し始めた。3月23日、講談社から新装の単行本1、2を発売する。自身も愛猫家で、黒猫のマリとともに暮らす。
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