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父の葬儀、JASRACの壁 思い出の曲もダメ…著作権との関係は?

「葬儀に父が好きだった『江差追分』を流したいと言ったら、葬儀屋に著作権の問題が、と言われました」。2月に注目されたこのツイートの背景に迫ります。

シンガーソングライター、佐藤龍一さんが2月2日につぶやいたツイート
シンガーソングライター、佐藤龍一さんが2月2日につぶやいたツイート 出典: 佐藤龍一さんのTwitter

目次

 大事な人との最期のお別れ。思い出の曲でお見送りしたい、という気持ちが土壇場で著作権を理由に断られるケースが出てきています。多数の楽曲の著作権を管理する日本音楽著作権協会(JASRAC)が「音楽を流すのは葬儀会社の営利行為」としていることの影響です。葬儀と著作権の事情を探りました。

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ミュージシャンの佐藤龍一さん
ミュージシャンの佐藤龍一さん

JASRACの警告で「禁止」に

 千葉県八千代市に住むミュージシャン、佐藤龍一さん(64)のツイートが2月、ネットで注目を集めました。

葬儀に父が好きだった「江差追分」を流したいと言ったら、葬儀屋に著作権の問題が、と言われました。JASRACの存在が、その著作権解釈が、人々から音楽を遠ざけているように思える。
佐藤龍一さんのTwitter

 このツイートは7千回以上リツイートされ、「(葬儀会社の対応が)いき過ぎな気がします」や「哀しいです」などのコメントも多く寄せられました。

 佐藤さんが同居していたお父さんを亡くしたのは1月末。北海道の民謡、江差追分は、お父さんが第二次世界大戦で出兵していた頃、歌って上官に褒められたという思い出の曲だそうです。

佐藤さんの父親が好きだった民謡、江差追分の全国大会
佐藤さんの父親が好きだった民謡、江差追分の全国大会 出典: 朝日新聞

 結局、江差追分は火葬場を往復するバスの中で、佐藤さんの姉が携帯電話で再生し、流しました。しかし、「亡くなってから葬儀まで慌ただしかったので業者に従ったが、やっぱりおかしい」という思いは残ったそうです。

 後日、詳しく葬儀会社の担当者に聞くと、日本音楽著作権協会(JASRAC)の関係者に以前、「無断で音楽を流してはだめ」と警告されたため、遺族から持ち込まれる曲をかけない方針にした、と説明されたそうです。

 実は、江差追分は民謡なので、著作権はありません。著作隣接権という演奏家の権利はありますが、録音されたものを再生することはどのような目的であれ、法律的に問題はありません。ただ、葬儀会社は一律に、遺族が持ち込んだ音源をかけない方針だったようです。

葬儀会社に従い、会場では思い出の曲を流せなかった(写真はイメージです)
葬儀会社に従い、会場では思い出の曲を流せなかった(写真はイメージです) 出典:https://pixta.jp/

葬儀の音楽は「業者の営利」

 JASRACの広報担当者に聞くと、実際に葬儀会社に忠告することはあるそうです。JASRACは、自らが著作権を管理する楽曲を無断で業務に使うことを禁じています。その根拠は、非営利でない限り原則的に、著作権者に無断で音楽を使うことを禁じる著作権法です。

 葬儀で流す音楽は「葬儀を仕切るのは業者なので営利行為」だとして、JASRACは課金対象にしています。遺族が持ち込む音源でも「葬儀サービスの中で流せる装置を用意しているなら、流す主体は業者」という解釈なので、葬儀会社の契約なしには流せません。

 契約自体はそれほど高額ではありません。葬儀の音楽はBGMの扱いになり、500平方mまでの会場なら、かけ放題の契約で年間6000円です。

 関東と関西を中心に50以上の葬儀ホールを運営する燦ホールディングスは2009年以降、JASRACと契約しています。社内の法令順守の状況を点検した際、必要性に気づいたということです。

葬儀用の生花
葬儀用の生花 出典: 朝日新聞

JASRAC契約の葬儀会社「多くない」

 ただ、同様の契約をしている業者はそう多くなさそうです。

 葬儀業界誌の月刊「フューネラルビジネス」編集部によるとここ数年、勝手に曲を使ったとJASRACに指摘される業者の話をよく聞くようになったそうです。「著作権関係の知識が少ない業者が多い。推測だが、契約する業者は多くない」

 多くの葬儀業者がBGMに使っているのは、著作権フリーの業界向けクラシック音楽CDなどで、フューネラルビジネスも販売しています。関東の複数都県で葬儀ホールを運営する会社は「遺族から持ち込まれたCDはお断りしている」と話しました。

「営利」って何?

 JASRACの法律解釈に従えば、遺族が葬儀で希望の曲をかけたい場合、JASRACと契約済みの業者を探すしかありません。ですが、葬儀で音楽を流すことは本当に「営利」なのでしょうか?

佐藤さんはミュージシャンとして著作権に関わってきた
佐藤さんはミュージシャンとして著作権に関わってきた 出典:佐藤龍一の流星オーバードライブ

 「葬儀は喪主が行うもので、葬儀会社は手伝い。葬儀の音楽は営利ではないはず、と思うのです」

 音楽活動を通じて著作権にかかわってきた佐藤さんは、図らずも当事者になった今、疑問を感じています。

 著作権法を所管する文化庁に、JASRACの解釈の是非について取材すると、「個別の解釈の妥当性を判断する立場にない」という答えでした。適否は「司法の仕事」で、裁判で判断されるべきとの見方でした。

音楽は誰のものなのか
音楽は誰のものなのか 出典:佐藤龍一の流星オーバードライブ

 20歳でプロデビューし、途中で長期間の海外放浪や専門学校の音楽講師を経て、シンガーソングライターとして活動する佐藤さん。著作権管理が徹底されていない国で、誰もが好き放題、他人の曲でライブをし、音楽を心の底から楽しんでいる姿も見てきました。一方で、JASRACの著作権管理で作曲家の権利が守られ、ハイレベルな音楽が生まれてきたという日本の現状も理解しています。

 「音楽は本来、みんなのもの。JASRACが著作権を管理することで、現代の音楽の発展を支えたことも分かっている。でも、葬儀まで縛るのは行き過ぎではないでしょうか」

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