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「こどもホスピス」って、どんな所?「どきっとする」施設名への思い
2016年4月、大阪市鶴見区の花博記念公園鶴見緑地内に「TURUMI こどもホスピス」が誕生しました。病院でも福祉施設でもない。小児がんや心疾患など、生命を脅かす病気を持つ子とその家族が不安や孤独を和らげ、くつろげる「第2のわが家」を目指しています。9月から年末にかけて通い、取材しました。(朝日新聞大阪映像報道部・細川卓)
青々とした芝生の中庭に臨む2階のバルコニー。頭上に舞うたくさんのシャボン玉に、車いすの男の子は目を少しだけ見開きました。驚いたのかも知れないし、楽しかったのかも知れない。初対面の私には、感情までは読み取れませんでした。
それでも笑い合う家族やスタッフの姿に、穏やかで温かい時間が流れるのを感じました。この空気を切り取りたい、とシャッターを切りました。
「TURUMI こどもホスピス」が目指しているのは、地域に開かれ、地域が支える「コミュニティ型こどもホスピス」です。
建設費は趣旨に賛同した衣料大手「ユニクロ」と日本財団が工面しましたが、年間6千万円の運営費は、すべて寄付で賄う計画です。運営を継続するためにも、まずは多くの人に知ってもらうことが必要。そう思って取材を決めました。
施設名にある「ホスピス」という響きからは、緩和ケアや看取り(みとり)の場を連想します。そんな言葉に「こども」が重なって、どきっとしました。それは、実際の施設を訪れて感じた明るさとは、そぐわないようにも思いました。
「今日は何をして遊ぼうか」。その日の家族を専任スタッフや地域のボランティアが迎えて「家」の1日は始まります。建物内にはドラムセットなど楽器をそろえた音楽室や大人も入れるボールプールのほか、富士山が描かれたお風呂やカフェスペースも用意されています。
利用する子どもの病名や症状はさまざまですが、人工呼吸器を付けている子や、頻繁にたんの吸引が必要な子もいる。
遊びもその子のペースに合わせて、ゴムボールに触れて感触を確かめたり、ピアノの音色に耳を傾けたり。天気のいい日はテラスで日なたぼっこをしてもいい。たった「それだけ」のようでも、子どもたちは成長の中にいて、大切な時間になっていました。
「ここに来る人たちは、普段、色んなことを我慢して生きているんです」。スタッフの言葉が胸に響きました。
こどもホスピスには、介護に追われる家族に休息してもらう「レスパイトケア」の機能もあります。「こんなにリラックスできたのは久しぶり」「外に出てきて世界が広がった」。そんな親たちの言葉に、闘病生活の苦悩が垣間見えました。将来的には宿泊も可能になるそうです。
なぜ、こどもホスピスと名付けたのか。運営を担う一般社団法人「こどものホスピスプロジェクト」理事長の高場秀樹さんに疑問をぶつけると、「言葉を濁して逃げたくなかった」と話してくれました。
高場さん自身も、難病の男の子を育てています。重い言葉に、「この場が必要だと知ってほしい」という願いを込めたといいます。
脳に障害のある15歳の男の子を育てる母親は、「子どもを連れて人前に出るのは勇気がいる」と言いつつ、「社会にもっと溶け込めたら」と教えてくれました。
つらい立場に置かれている人を取材し、写真として発信することで、相手を好奇や哀れみの目にさらしてしまうのではと考えることがあります。それでも、それぞれの生きる姿を写した一枚が、当事者と社会をつなぐ縁になってほしい。そんな思いも抱きながら取材を続けています。
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「TSURUMI こどもホスピス」への寄付やボランティア登録の詳細はホームページ(http://www.childrenshospice.jp/)へ。
この記事は2月18日朝日新聞夕刊(一部地域19日朝刊)ココハツ面と連動して配信しました。
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