連載
#13 AV出演強要問題
AV強要「なぜ、断れなかったんですか?」女子大生の疑問に被害者は…
若い女性がアダルトビデオ(AV)に無理やり出演させられる被害が社会問題化しています。被害にあった女性は、少しずつ声をあげ始めています。「なぜ、断れなかったんですか?」「被害に遭う人が悪いという意見には?」。2月3日、被害にあった当事者の女性に、同世代の女子大生が話を聞くイベントが開かれました。会場にはAV業界で仕事をしている関係者も詰めかけ、被害を防ぐために何ができるか、様々な立場の人が議論をしました。(朝日新聞経済部・高野真吾)
イベント「メディアのタブーを超える~AV出演強要問題から見えたもの~」には、約70人が参加しました。
イベントを企画した朝日新聞のニュースサイト「withnews」では、昨夏から合計12本の記事を出し、被害当事者や支援団体、業界団体のインタビューなどを掲載してきました。
被害体験を語ったのは、ユーチューバーとして活動している、くるみんアロマさん(26)です。質問をしたのは、上智大学で学生新聞を発行している上智新聞の19歳と20歳の女子大学生2人です。2人はAV出演強要被害を同世代の問題と捉えていました。
くるみんさんは、大学4年生だった2012年夏、東京・新宿の路上で、スカウトの男性に「グラビアをできる人を探している」と声を掛けられました。
高校時代にバンドサークルに所属し、音楽活動を本格的にやりたいという夢を持ち続けていたくるみんさん。「音楽デビューさせる」という所属事務所「社長」の言葉を信じ、雑誌やイメージビデオでのヌード撮影に応じ、AVにも出ました。
しかし、結局、歌手デビューはできませんでした。
最初に質問した19歳の大学生は、被害に遭うまでの経緯などについて詳しく聞きました。
――私自身の経験でも、「モデルに興味がない?」と声を掛けてくる大人は都内に多いと思う。デビューのきっかけ以前にも声を掛けられましたか?
(声を掛けられた経験も)あったし、怪しいなと察したことも何回もあった。(所属した事務所につなげた)そのスカウトは巧妙で、手口がすごかった。この人に話せば夢がかなうんじゃないかなと思ったぐらい、うまかった。
――スカウトされたことや、AVを始めたことは周囲には言いましたか?
全然言えなかったです。ダメか、怪しいと言われると思っていたので。(AVに出ようと)説得してくる方が一生懸命だった。その人たちとのやりとりが全てだと思っていた。
――AVを撮影する前、嫌だという思いを友人や(支援)団体に相談できなかった一番の理由は?
その時は全く(支援団体を)知らなかったし、やっぱり恥ずかしいなと思ってしまう。(所属)事務所では、他の女の子と絡ませないように、情報交換させないようにしていたんですよ。(他の)女の子が居るときは、ちょっと待って、入らないでという感じで、絶対に会わないようにさせていた。(他の)情報が全く分からなかった。
――話しづらいと思うのですが、撮影の時の様子や周囲の大人の雰囲気はどうでしたか?
(女優ができない行為を示す)NG項目というのを最初に書かされたのですけど、結構無視されて、これもできるでしょ、あれもできるでしょ、と話がどんどん先に進んでいった。やれないと、何人もの大人の生活が失われるのと言われて。出血したりとか、トイレも痛かったりとか、身体、精神共に激痛が走っていた。(周囲の大人には)何か言えば怒られるので、(何も)言えない状態でした。最後は責任感という気持ちでやっていました。
20歳の大学生は、くるみんさんが訴えたいことや今の思いを聞きました。
――被害に遭う人が悪いという意見も聞かれますが、どうお考えですか?
(業界の人から)あなたはこれもできないの、あれもできないのと言われ、自分をずっと責めていたし、最後は自分が悪いという形に仕向けられていた。被害に遭った人は隠しちゃうと思う。私はこの事を言うことによって、たくさんの人に嫌われても、馬鹿にされてもいい。こういう気持ちがあることは知っておいてもらいたい。
――支援団体の人に会って助かったこと、良かったことは?
(ネット上でのDVDや動画販売を)停止するのを一緒にやって頂いて、すごい感謝しています。最近もツイッターに過去の画像が出回ったのですけど、(NPO法人「人身取引被害者サポートセンター」)ライトハウスさんが削除請求のことを一緒にお願いして助けてくれた。本当にありがたい。
――声を上げられずにいる(被害者の)人が多いと思うのですが、くるみんさんの訴えたいことや思いを最後にお願いします。
業界の人には、デメリットを伝えて欲しい。AV業界が悪いとか、それをつぶすとかではなく、(私は)被害に遭う方を減らしたい。時代が変わったとか、最初に脱げば後で脱がなくていいよと(私は)言われたので、口車にだまされる人を減らしたい。デメリットを伝えて、やりたい人だけ残る形にするのが一番じゃないかな。
イベント開催にあたり、昨年12月14日、AVメーカーらでつくる「知的財産振興協会」(IPPA)に、イベント参加を文書で申し込みました。しかし、IPPAは参加可否の判断について返信締め切りとしてお願いしていた12月21日に「お時間を頂戴することとなります」と返信して以降、連絡がありませんでした。
イベントでは、AV業界で働く2人の男性が発言しました。
業界歴30年となるAV男優の辻丸さんは、「今、内閣府を中心に法規制のようなものが行われようとしている。業界は法規制には反対の人が多いが、僕はこの半年ぐらいこの問題にかかわってきて、もう法規制もやむなしなのではないかと(思っている)」。
その理由を「業界の男たちは、相変わらず強要などない、見たことも聞いたこともない」「シンポジウムや記者会見すらも開かない」と説明しました。
「差別するな、表現の自由を認めろと自分たちの権利ばかり主張する有り様なんです」
その上で、シングルマザーも含め20~50代女性の「幅広い層でAVに出演したい人もいる」ことを紹介しました。
「何が彼女たちをAV女優にするのか。そこまで考えるとAV問題は、女性問題を基点にした社会問題ではないか。そこまで議論を進めれば、メディアのタブーを超えてもっと広く新聞にも載る」
そして、「残念ながら世間はAV問題を大した問題にはしていない。くるみんさんに対するバッシングのように、だまされる方が悪いのだという風な見方をする」とも語りました。
ベテランの安達かおる監督は、「確信犯としての強要は最初から排除すべきだと思うが、私があくまで現場で女優さんと毎日接している中で思うのは、強要問題は人間関係の中で生じてくるものではないか」と話しました。
深夜に及んだ撮影時に「頑張ろう」と声をかけることが、「モチベーションをあげていただけるケース」にも「強要になってしまうケース」にもなると言います。
「国への働きかけを積極的にやられているようですけど、国にいったん手綱を渡してしまうと、永久に表現(の自由)は帰ってこないということを危惧しています」
イベントでは、被害者支援に取り組んできたライトハウスの藤原志帆子代表が、AV関係での相談が昨年は100人に急増したことや典型的な被害事例を紹介しました。
AVの出演には多くの関係者が絡み、契約や権利関係が複雑になっていることから、「今の18、19、20歳の一般的な法律の知識では、全く太刀打ちできないことが起こっています」と呼びかけました。
最後に「組織的に(出演強要を)行っているような業者もいることを是非知ってもらって」「国としてこの問題にとりくんでいかないといけない」と訴えました。
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