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私たちが女性アイドルにハマる理由 急増する「女オタ」たち
乃木坂46の握手会はあちこちに女性ファン。
AKB48の総選挙が世間をにぎわせるなど、まだまだ注目を集める日本のアイドル業界。そんな「ドルオタ」といえば男性がほとんど……そう思いきや、女性のファン(通称女オタ)がここ数年急増中とのこと。果たして女性ファンは同性のアイドルに何を求めているのでしょう。同性を応援するって、どういう感覚なのでしょう。
6月、横浜市のパシフィコ横浜で開かれていた、人気アイドルグループ「乃木坂46」の握手会を訪ねました。
会場を見渡すと、たくさんの女性ファンの姿が目に入ります。オシャレな人、コスプレをした人……カップルで来ている人たちの姿も。実感として、全体の約2~3割ぐらい。男性ファンに比べて年齢層は若め。各メンバーごとのレーンに並び、幸せそうに握手をしていました。
女性ファンが特に多く並んでいたのが、人気メンバーの西野七瀬さん(22)と、白石麻衣さん(24)のレーン。2人とも、女性ファッション誌の専属モデルを務めています。友人同士で来ていた都内の女子大学生(21)は「なぁちゃん(西野さん)もまいやん(白石さん)も可愛すぎて正視できない。本当に憧れるし、握手会では常に美の秘訣を聞いています」。
会場の一角では、女性たち15人ほどが集まっていました。「衛藤女子連番 今からやります 参加者募集中!」と書かれたタブレットを持っています。メンバーの衛藤美彩さん(23)レーンに女性同士で一緒に並び、握手するそうです。SNSで参加者を募り、この日初めて会うファンもいるとのこと。
企画した早瀬めぐみさん(26)は、衛藤さんの大ファン。他のメンバーのファンが同様に「女子連番」を企画していることを知り、思い立ったそうです。この日の女子連番に対して衛藤さんは、「いつも以上に喜んでくれた」といいます。「美彩ちゃんの笑顔を見ることができて良かった。また企画します」
握手会場にいた50人の女性ファンに乃木坂46を好きになった理由を聞いてみました。「楽曲が良いから」(10人)「清楚だから」(4人)を抑え、「カワイイから」(32人)が断トツでトップに。そこを入り口として、徐々にアイドルの性格やキャラクターを知り、「応援したい!」という気持ちが芽生える人が多い印象です。
この日会場では、人気メンバーである深川麻衣さん(25)の卒業セレモニーも行われていました。
「卒業しても困難なことがたくさんあると思うけど、メンバーやファンの皆さんとのステキな思い出を胸に、マイペースに頑張ります」
深川さんが涙を流しながらあいさつすると、会場にいたファンからはひときわ大きな声援が送られました。
勝負澤妃華理(しょうぶさわ・ひかり)さん(23)もその一人です。岩手県在住の針灸師。深川さんの熱狂的なファンで、メンバーの誕生日や卒業を祝う際に中心となる「生誕委員」にも名を連ねています。毎シングルごとにCDを10枚以上買い、自宅の部屋には乃木坂関連のポスターが貼り尽くされています。ライブや握手会などのイベントは首都圏が中心となるため、その度に岩手から通っているとのこと。
アイドルにはまったきっかけは、高校生の頃。元AKB48の高橋みなみさんのファンでした。幼い頃から「モーニング娘。」が学校でもはやっていたため抵抗なくアイドルを応援することができ、紆余曲折を経て、3年ほど前に深川さんにたどり着いたのだと話してくれました。
深川さんはメンバーやファンの間から「聖母」と呼ばれ、その優しい性格が人気の一つでした。勝負澤さんは時に嫌なことがあっても、深川さんの性格を見習い、心穏やかに過ごすことができるようになったといいます。「人間としてまいまい(深川さん)を尊敬しているし、彼女と出会って私は変われた」
時折、周りからは「(女性なのに)何で女性アイドルが好きなの?」と言われることもあるそうです。女性が女性アイドルを応援することって、変じゃないですか? ちょっと意地悪く、そう聞いてみました。すると、大きく首を横に振ってこう答えました。
「全くそう思いません。輝いて頑張っているアイドルを応援することに、性別の違いはありませんから」
山口百恵、松田聖子、おニャン子クラブといった1970~80年代の女性アイドルは、男性ファンがほとんどでした。ところが近年は、乃木坂46だけでなく、AKB48やももいろクローバーZなど、アイドルグループには女性ファンが数多くいて、決して珍しい存在ではなくなりました。
女性アイドルのライブでは「女性専用エリア」があることが一般的で、グループによっては、「女性限定ライブ」が開かれることもあります。「ドルオタ=男性」という従来の概念は、崩れつつあると言えそうです。
その中でも乃木坂46は、特に女性ファンが多いことで有名。その最も大きな要因が、ファッションモデルを務めるメンバーの存在です。
白石さんが女性ファッション誌「Ray」(主婦の友社)の専属モデルを務め始めたのは、2013年5月号。同社によると、読者アンケートでも常に上位を争う人気で、白石さんが着た服が洋服店などで人気となる「まいやん売れ」という現象も起きているそうです。今年の10月号から3号連続で表紙を飾ることも決まっていて、同誌の守屋美穂編集長は「アイドルの枠を超えた上品でガーリーな雰囲気が、読者から高い支持を得ている」と話しています。
他にも西野さんが『non-no』、橋本奈々未さん(23)と松村沙友理さん(24)が『CanCam』というように、女性ファッション誌の専属モデルを7人が務めています。また、若い女性に人気の高いファッション&音楽イベント「ガールズ・アワード」に毎年2回出演。憧れを持つ女性から黄色い歓声を浴びています。
一般的に、女性アイドルのファン層は男女比が9:1かそれ以下と言われていますが、乃木坂46の握手会・ライブとなると、ファンの2~3割ほどを女性が占めます。モバイル会員(有料のファンクラブ)も2割ほどが女性。
乃木坂46運営委員会によると、白石さんがモデルに選ばれた頃から、「女性ファンの獲得」を意識し始めたとのこと。「これからも、老若男女問わず愛されるグループに育てていきたい」とスタッフは話しています。
女性アイドルを応援する女性ファンが増えている現象は、専門家の目にどう映っているのでしょうか。
アイドル業界に詳しく、自身もアイドルグループをプロデュースした経験のある社会学者の濱野智史さん(36)は、女性ファンが急増した理由について「『カワイイ文化』の対象が時代と共に変化したことが要因ではないか」と指摘します。
濱野さんによると、男性ファンがほとんどを占めていた女性アイドルに対し、女性が関心を持ち出したのが、1990年代に一世を風靡した「モーニング娘。」の存在です。今までの「アイドル」の概念を壊すかのような「歌って踊れるカワイイ女性集団」は、多くの女性を魅了。さらに2000年代には「会いに行ける」を標榜したAKB48の親しみやすさも加わり、女性ファンは増えていったといいます。
「昔と比べて、女性の『カワイイ』に対する意識が変わってきた。昔は男性ファンがほとんどを占め、『オタク』という言葉にはどこか侮蔑する響きさえあったが、アイドルが『カワイイ』ことに気付いた女性たちが、『アイドルオタク』になることへの抵抗はなくなりつつある」と濱野さんは話します。
女性にとっては、宝塚やファッションモデルに対しても憧れに似た感情を持ちやすいのですが、その中でも女性アイドルは「会いに行ける」という絶妙な距離感が好まれているとのことです。
また、今の時代はSNSの発達で、自撮り写真などを簡単にアップすることができるようになりました。女性たちはアイドルの姿を見て自分磨きに励み、『カワイイ』という言葉を友人同士で掛けあい、それが共通のコミュニケーションになっている、と濱野さんは指摘します。
「女性アイドルを応援する女性が増えることは、ある意味同質性の強い日本ならではの現象とも言える」と話し、こう付け加えました。「でも、男性だろうが女性だろうが、性別問わずアイドルを応援することって、素晴らしいことですよね」
昔ほどではないにせよ、男性アイドルは女性が、女性アイドルは男性が応援するものだという偏見は、いまだにあるのだと思います。
私の知り合いに、女性アイドルが大好きな女性がいるのですが、親から常々「何で女性アイドルを応援しているの?」と苦言を呈されて悲しい思いをしている、と聞いたことがありました。今回、握手会場で話を聞いた女性ファンの中には同様の意見や、中には「あなた同性愛じゃないよね?」と聞かれると語っていた人もいたことが、印象的でした。
だけど、一人ひとりの趣味は多種多様。男性が男性アイドルを応援したって、女性が女性アイドルを応援したって問題ないし、今よりももっと、趣味を尊重し合える世の中になれば良いな、と感じました。
女性アイドルを応援する女性ファンの勢いは、これからも続きそうです。
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