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実家から「春画」が出てきた! 1億円のお宝も…春画市場の実態とは
人間の性愛を描いた浮世絵「春画」。展覧会は大盛況で、図録の売れ行きも好調です。春画コレクターとして知られる古美術商・浦上満さんに、春画市場の展望や楽しみ方を聞きました。
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人間の性愛を描いた浮世絵「春画」。展覧会は大盛況で、図録の売れ行きも好調です。春画コレクターとして知られる古美術商・浦上満さんに、春画市場の展望や楽しみ方を聞きました。
人間の性愛を描き、江戸時代に広く愛された浮世絵である「春画」が、注目を集めています。国内で初となる春画の展覧会には、既に14万人を超える人が訪れています。貸本屋を通じて広く普及し、かつてはお守りや嫁入り道具という側面もあったという「春画」。今も押し入れの奥に眠っている一品があるかもしれません。展覧会のヒットで「春画」市場は広がるのか。古美術商・浦上蒼穹堂の浦上満さん(64)に聞きました。
9月から東京都文京区の永青文庫で開かれている「春画展」(12月23日まで、2月6日からは京都の細見美術館に巡回予定)。18歳未満は入ることができませんが、連日大勢の人がつめかけ、来場者数は14万人を超えています。休日には、館外まで行列ができることも。4000円の図録も、すでに2万部ほど売れているといいます。
人気を集めている「春画展」ですが、開催会場やスポンサー探しが難航するなど、開幕まで苦労が絶えなかったそうです。性器が写実的に描かれていることの多い春画が、長くわいせつだと考えられ、展覧会を行うことが避けられてきたためです。一方で出版物としては、1991年に出版された学研の「浮世絵秘蔵名品集」をきっかけに、無修正の春画が流通するようになっていました。
「春画展」の実行委員を務める、東洋陶磁を専門とする古美術商「浦上蒼穹堂」の代表、浦上満さんは、春画展の盛況ぶりを「嬉しい誤算だった」と言います。「色々な心配事がありましたが、若い女性を含めて、訪れた方が和やかに笑いながら、楽しそうに見てくださっているというのが、何よりの答えだと思います」
春画が話題になることで、春画市場にも何らかの変化があるのでしょうか。そもそも国内市場で春画の流通が始まったのは、ここ20年くらいのこと。「今でも店先に春画を置くと、没収されるんじゃないかと思っている美術商もいるぐらい」だそうです。
浦上さんは「春画が市場でもまれていくのは、これからではないでしょうか。春画展が実現したことで、市場は広がると思います」と、発展に期待します。
「大学や美術館でも、春画のコレクションがあってもリストに載っていないということもありました。ほとんどの浮世絵画家が、春画を描いてる。画家の全体像を把握するうえで、春画を除くのは不自然です。これを機会に、春画が堂々と浮世絵の一ジャンルになれると思います」
春画展を見て、自分でも春画を買いたいという人が出てくるかもしれません。どのようにして買えばよいのでしょうか。
「まずは本物を保証してくれる、ちゃんとしたお店を見つけてください。そのうえで、自分の好みのものを買うことと、予算は自分のもの、という気持ちを持つことが大切です。なぜこの絵とこの絵で値段が違うのか、などをお店の人にどんどん聞いた方が良いと思います」
一般的な浮世絵と比べて、春画は流通数が限られているため、値段の幅に開きがあるそうです。高いものでは1億円以上する場合もありますが、安い豆判(手のひらサイズの版画)だと、1万円以下のものもあるといいます。
「春画だからといって、全てが良いわけではありません。線が良い、構図が良い、版画ではすりが早いなど、総合点はありますが、見て感動があるものを買うのが一番です。買っているうちに、目が肥えてきます。お金を出して買うというのは、真剣な行為ですから」
ただ、個人で楽しむには課題もあります。退色しやすいだけでなく、飾る場所を選ぶからです。
「豆版であれば懐に入れてもいいかもしれませんが、やはり場所やTPOが問われるものです。一般の人に春画を広めるうえで、そういう難しさはあります」
浦上さんは、かつて銀座のバーを一晩だけ借りきって「春画ナイト」という会員制のイベントを開いたことがあるそうです。お酒を飲む場であれば、基本的には集まるのは大人です。「バーであれば、飾りやすいかもしれませんね」
春画展に行った話を家族にしたことから、母方の祖母(85)の家にも、結婚の際に曽祖母から受け継いだ春画が残っていたことがわかりました。少なくとも曽祖母が結婚した90年ほど前にはあったもので、「かつて春画が嫁入り道具として普及していた」というのは本当だったようです。A5くらいのサイズの春本と、もうひとまわり小さいサイズのものの2冊が、祖母から送られてきました。
大きいサイズのものは、冒頭の8枚は多色刷りで緻密な印象を受けますが、その後は線が荒く、色の感じも違います。浦上さんに見てもらうと「これは合本ですね。違う本を合わせて1冊に綴じているものです。全然違うものが合わさっていますね。後ろの部分は、残念ながら後から色が塗られてしまっています」とのことでした。
一方、冒頭の多色刷りは、春画展にも展示されている初代歌川豊国の「絵本 開中鏡」(文政6・1823)の一部だということがわかりました。中でも怪談の牡丹燈籠をモチーフにした2枚は有名で、1枚は女と男が、もう1枚は同じ構図で骸骨と男が交わる場面を描いたものです。本来は上中下の3冊セットだそうですが、なんらかの理由で一部だけが合本にされているということでした。
「ここまでは値打ちがある、いい絵です。良かったですね」。浦上さんからは、予想もしなかった評価をもらうことができました。
祖母が「持っていても困るから、とっくに捨てたと思っていた」という春画。今回の取材がなかったら、存在すら知られないままでした。みなさんの家にも、ひょっとすると多くの春画が眠っているかもしれませんね。
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