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イルカ追い込み漁の深刻さ 「弱すぎた英語発信」「五輪に悪影響も」
海外から批判されるイルカ追い込み漁。イルカ漁の映画作りを進める佐々木監督は「弱すぎた英語の発信力」や「東京五輪への悪影響」を指摘します。
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海外から批判されるイルカ追い込み漁。イルカ漁の映画作りを進める佐々木監督は「弱すぎた英語の発信力」や「東京五輪への悪影響」を指摘します。
イルカの追い込み漁をめぐり、日本動物園水族館協会(JAZA)が、世界動物園水族館協会(WAZA)から会員資格を停止された問題。海外の「残酷な漁」との批判に対し、国内の水族館からは「間違った考え」「合法的に行っている」など、反発の声も上がっています。クジラ漁やイルカ漁のドキュメンタリー映画の制作を進めている映画監督、佐々木芽生(めぐみ)さんは「イルカ漁がナショナリズムの象徴になっている。問題の深刻さを感じてほしい」と指摘します。
JAZAは2015年5月20日、WAZAへの残留希望を伝えることを決めました。これによって、会員資格停止の原因となった和歌山県太地町(たいじちょう)の追い込み漁によるイルカの購入はできなくなります。JAZAに加盟している日本の水族館のうち、太地町から入手したイルカがいると朝日新聞の取材に答えたのは18施設あります。今後、太地町からのイルカ入手を続けるため、JAZAを脱退する水族館が出てくる可能性もあります。
イルカの追い込み漁は、鉄棒をカンカンとたたき、複数の漁船でイルカの群れを入り江に追い込みます。太地町で銛(もり)を突き刺す漁師や血を流してもだえるイルカを映し、漁法を批判的に取り上げた米映画「ザ・コーヴ」が2010年に米アカデミー賞で長編ドキュメンタリー賞を受賞したことで、世界の注目を集めました。
映画監督の佐々木さんは、現在、朝日新聞が運営するクラウドファンディング「A-port(エーポート)」上で資金集めをしながら、映画作りを進めています。太地町がたびたび反捕鯨団体などの標的となってきたことに疑問を持ち、映画制作を思い立ちました。今回のJAZAの決定は何を意味するのか。国内外で取材を続ける佐々木さんに聞きました。
──なぜ、追い込み漁が批判されるのですか?
「ここ数年は、何と言っても映画『ザ・コーヴ』の影響だろう。イルカの血で真っ赤に染まった海、そこでもがき苦しむイルカの姿は、イルカを愛する人々の脳裏に強烈に焼き付いてしまった」
「『欧米人も豚や牛を食べるじゃないか。なぜイルカだけ特別扱いするのか』という反論を日本でよく聞くが、欧米人にとって豚や牛は再生可能な食の資源で野生動物のイルカとは違う。日本人にはない線引きが外国人にはある。アメリカ人は、(イルカが主人公の)TVドラマ『わんぱくフリッパー』を見て育っているので、イルカは人間の仲間という意識が強い。だから、追込み漁の手法そのものというよりも、イルカの群れを追込んで、親子を引離して水族館用に選んだり、残りを屠殺したり、その全てを含めたプロセスを残酷だと非難しているのだろう」
「反イルカ漁、動物愛護団体は、ものすごい組織力とメディア戦略であらゆる手段でイルカ漁反対のメッセージを世界に拡散している」
──なぜ日本の主張が伝わらないのでしょうか?
「海外からの批判に対して、英語で、即座に反論できる組織、しくみ、人材がないに等しい。英語でSNS発信したり、イルカ・クジラ問題への書き込みに反論する人が、反対派に比べると圧倒的に少ない。一般の人も、知識層も、マスコミもそう。日本政府としての海外へ向けての広報戦略が非常にまずい部分も多いと思う」
「クジラやイルカは、環境保護の象徴であり、絶対的な保護が常識になっている欧米に対して『日本の伝統的な食文化に介入するのはけしからん』という食文化論、または人種差別論で反発しても、説得力はない。伝統、文化に対する考えは、欧米と日本では違う。欧米は、長く続いたものでも良くないと思えばどんどん廃止していく。欧米人から見ると、イルカ漁は21世紀の『お歯黒』『切腹』なのです」
──クジラとイルカをテーマにした映画の狙いとは?
「海外に30年近く住む日本人として、環境活動家としてでもなく、日の丸を背負っているわけでもなく、ふかんしてこのテーマを描けるのはないかと思った。捕鯨やイルカ漁の是非を示唆するのではなく、自然感や価値観の衝突として描きたい」
「なぜ、クジラ、イルカのことで世界が分断し、いがみ合わないといけないのか。ファクトが無視され、偏見や、部分的な情報で語られがちなこのイルカ・クジラ問題を、できるだけ正確な事実をもとに描ければと思う。そして健全な対話が少しでも生まれれば嬉しい」
──イルカ漁批判の背景にあるものは?
「たかがクジラ、イルカの問題、と日本の多くの人は思うかもしれない。(多くの人は普段から)クジラもイルカも食べないし、どうでも良いと。(それが今は)ナショナリズムの象徴になっている」
「2020年の東京五輪でネガティブキャンペーンが起きる可能性もある。今年の2月、ロサンゼルスの日本大使館の前で、シーシェパードによる捕鯨反対のデモがあった。報道されていないが、その中に、東京五輪ボイコットというプラカードをかかげている人が何人かいた」
──日本は何をするべきなのでしょう?
「当事者である日本人は、ナショナリズムに偏らず、事実や科学的データを元に、健全で活発な議論をすべきだと思う。海外で、国内で、欧米人にこの問題を聞かれた時、どんな意見が言えるのか。その用意も必要だ。日本が捕鯨やイルカ漁を続けて行くなら、綿密な広報戦略を立てて、海外に向けて意思表示をしっかりするべきだと思う」
「今は、インターネットを通じて一瞬のうちに情報が拡散する時代。何よりも英語でのデジタル戦略を構築しなくては、どんどん反捕鯨勢力に押される一方だと思う」
──イルカ漁の問題に日本はどう向き合えばいいのでしょうか?
「今回のWAZAの勧告に納得しないのであれば、毅然としてその意志を表明するべきだったのではないか。WAZAに残留願を出した時点で、太地町のイルカ漁を否定したというメッセージとして、海外に伝わると思う。今回の決定に不満を持っている水族館も多いわけで、もし将来彼らがJAZAを脱退して太地町からイルカを買うとしたら、また非難の的となる」
「これまでも、映画『ザ・コーヴ』、ケネディ大使のツイート、アルビノのハナゴンドウ・クジラ捕獲への非難、など太地町には、厳しい世界の目が向けられていることを認識するべきだ」
「これからも、海外の反捕鯨勢力からの圧力は止まらないだろう。太地町という小さな町だけが、矢面に立たされているのは理不尽だと思うし、もっと国としてサポートするべきではないか」