話題
Norihisa Hakamayaさんからの取材リクエスト
正しいのはアギーレ?アギレ?外来語表記ってどう決まっていくんですか
正しいのはアギーレ?アギレ? 新聞社の外来語表記はどう決まるのか
サッカー日本代表の監督名は「アギーレ」か「アギレ」か。「フェースブック」と「フェイスブック」はどちらが正しいのか。外国由来の言葉について、新聞社などではどう決めているのか、取材リクエストにお答えします。
話題
正しいのはアギーレ?アギレ?外来語表記ってどう決まっていくんですか
サッカー日本代表の監督名は「アギーレ」か「アギレ」か。「フェースブック」と「フェイスブック」はどちらが正しいのか。外国由来の言葉について、新聞社などではどう決めているのか、取材リクエストにお答えします。
本日発表されたサッカー日本男子代表監督。ところが報道媒体によって「アギーレ」「アギレ」と表記がバラバラになっています。また過去の例だと「フェースブック」と報道されていたものが、いつの間にか「フェイスブック」に変更されていたりします。こういった外国由来の人物や物などの表記やその変更はどういった基準によって決められているのでしょうか?朝日新聞だけではなく、できれば他社でもどういった基準で決定しているのかを取材していただけると幸いです。 Norihisa Hakamaya
新しく就任したサッカー日本男子代表の監督名は「アギーレ」?それとも「アギレ」?
「フェースブック」と「フェイスブック」はどちらが正しいの?
外国由来の人物や物の表記について、新聞社など報道機関ではどう決めているのか教えて欲しい、そんな取材リクエストを「Norihisa Hakamaya」さんから頂きました。
遅くなりましたが、お答えします。
回答者は朝日新聞編成局校閲センターの比留間直和記者。「校閲センター」は日々の記事に間違いがないかチェックしたり、用語の使用基準を決めたりする部署です。
朝日新聞では、カタカナ語表記については、1991年に国語審議会の答申に基づいて国が示した「外来語の表記」や、日本新聞協会の「新聞用語懇談会」で検討された結果をベースに、自社の判断も加えて基準を設けています。新聞用語懇談会では、新聞各社の用語担当者が定期的に話し合っています。
表記の基準は、「朝日新聞の用語の手引」(朝日新聞出版、本体1700円)でもご覧いただけます。
さて、一般用語(ふつうの外来語)の場合と固有名詞(人名・地名など)の場合とではルールが若干異なります。
たとえば外国人の名前や地名については、
《撥音「ン」、促音「ッ」、長音「ー」は、はっきりしたもの以外はできるだけ省略する》
という原則を設けています。
「チャップリン」でなく「チャプリン」、「ヘップバーン」でなく「ヘプバーン」、「ケネディー」でなく「ケネディ」といった表記が基本です。
ただ、常に原則どおりの表記をしているわけではありません。世の中に広く定着している表記があれば、それに合わせる場合もあります。
それまで使っていた表記を途中で改める、といったことも少なくありません。
サッカー新監督の「ハビエル・アギーレ」氏についても、メキシコ代表監督のころからおおむね「アギレ」としていました。
しかし、日本サッカー協会が「アギーレ」と表記していることを考慮し、8月11日の来日時の記事からは「アギーレ」に。
朝日新聞と同じようにそれまで「アギレ」と表記していたほかの新聞社や通信社も、来日会見のときにはそろって「アギーレ」で報じました。
企業名や商品名など、当事者がカタカナ表記を決めている場合も、新聞の原則とは異なる表記をしたり、途中で変更したりすることがあります。
「フェイスブック」も当初は記事では「フェースブック」と書いていました。
しかしその後、米フェイスブック側から要請があり、朝日新聞では2010年12月に「フェイスブック」に表記を統一しました。
一般外来語に関する主な表記ルールとしては、以下のようなものがあります。
・「ヴァ、ヴィ、ヴ、ヴェ、ヴォ、ヴュ」は使わず、「バ、ビ、ブ、ベ、ボ、ビュ」で表す。
例:バイオリン(← ヴァイオリン)
・(主に英語の)末尾の「-er、-ar、-or」は、原則として長音符号「ー」をつける。
例:コンピューター(← コンピュータ)
・(主に英語の)末尾の「-y」は、原則として長音「ー」をつける。
例:パーティー(← パーティ)
・原音で二重母音の「エイ」「オウ」は、慣用の固定しているものを除き、長音「ー」で表す。
例:チェーンストア(← チェインストア)
・原音で「ウィ、ウェ、ウォ」の音は、原則として「ウイ、ウエ、ウオ」で表す。
例:ウエディングドレス(← ウェディングドレス)
一般外来語が「すでに日本語の一部となった言葉」であるのに比べ、固有名詞は外国語に近いため、基準が異なっています。
「フェイスブック」を当初「フェースブック」と書いていたのは、上に示した「二重母音は長音で表す」という原則により、FACE(顔)を通常「フェース」と書いているためです。
二重母音を長音で表すのはなぜ?と聞かれることもあります。
「ケース」「ベース」「メール」「セール」など、原音で二重母音の言葉は、日本語として入ってくる際には長音の形になるのが一般的でした。
「レインコート」のようにカタカナでも二重母音表記が定着しているものは新聞でも「レインコート」と書きますが、「フェース/フェイス」のように両方ともよく使われているものは、今のところ長音による表記を優先させています。
上に挙げたほかにも細かな基準がいろいろとあります。
いずれも一律にあてはめているわけではなく、別の慣用が固まっていて動かしがたいものはそれに従っています。
社外筆者による文章など、原文の表記を尊重する場合もあります。
これらの表記原則や個々の語の表記は、時代に応じて随時見直しています。1970年代の社内向けハンドブックを見ると、「ゼントルマン」「ボデー」といった、今ではほとんど見かけない表記が示されています。もちろん現在は「ジェントルマン」「ボディー」と書いています。世の中の流れを見ながら調整してきたわけです。
実は、現在もちょうど見直しの作業を進めているところです。上に示した主な原則のうち、「ウィ、ウェ、ウォ」や「二重母音」に関するものについて、より時代に合った表記に改めることを予定しており、その細部を詰めている最中です。
新聞は幅広い世代の皆様に読んで頂くもの。表記の変更はあまりあわてず慎重に行うようにしています。
一方で、時代に応じて適切に見直すことも必要です。
これからも読者の皆様のご意見を頂きながら、バランスのとれた表記を目指したいと考えています。
(比留間直和)