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一般的な症状に潜む希少疾患… その1人をどう支える
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先天代謝異常症「酸性スフィンゴミエリナーゼ欠損症(ASMD)」をテーマとした今回のセミナーでは、前半にこの分野の専門家である医師の井田博幸先生の講演、後半に井田先生とwithnews編集長・水野梓によるトークセッションが行われ、医療が進歩する今も依然として残る希少疾患の課題について考えました。
私たちが食べたものは体のなかで分解され、体をつくる組織になったりエネルギーになったりしています。このように、体内で物質を変化させる化学反応を「代謝」といい、こうした変化の過程には「酵素」の働きが関わっています。
遺伝子の情報をもとに酵素が作られます。どの酵素をどのぐらいつくるかということは遺伝子が命令しているわけですが、遺伝子に何らかの異常があると、代謝に関わる酵素の働きが悪くなることがあります。この結果、通常であればAという物質がBになり、BがC、Dと変化していくべきところで、CからDへの変化がうまくいかなくなるとどうなるか。Cがどんどん蓄積され、一方でDは不足します。
このように、酵素の働きが悪いためにさまざまな症状が現れる疾患を「先天代謝異常症」といいます。本日お話しする「酸性スフィンゴミエリナーゼ欠損症(ASMD)」は、「スフィンゴミエリン」という物質を分解する酵素の働きが悪い、あるいは酵素がないために起こる先天代謝異常症の一種です。代表的な症状としては、肝臓や脾臓が腫れる「肝脾腫」、痙攣や神経症状、間質性肺炎、骨折や骨変形、発育障害、その他には眼底に「チェリーレッドスポット」と呼ばれる赤い斑が見られることもあります。
今の話を聞いて、みなさんあることにお気づきになったのではないでしょうか。それは、他の病気にも見られる症状が少なくないということです。「これがあれば必ず代謝異常症である」といえる特異的な症状がなく、他の一般的な症状のなかに希少な病気が隠れている。そのことが、早期発見や早期診断を大変難しくしています。
ただし診断のポイントはいくつかあります。まずは家族歴です。遺伝子の異常による疾患ですので、家系のなかに同じような症状の人がいる場合は要注意です。また、初診時には目立たなかったのに数年後の再診時には肝臓が大きく腫れているというように、症状が進行性であることも特徴的です。その他には治療抵抗性であるということです。症状を抑える治療を続けていてもなかなか改善しない。そして複数の症状が現れる。これも代謝異常症を強く疑わせる所見です。
治療法としては、静脈から酵素を直接注射する「酵素補充療法」が一般的です。その他には骨髄移植や、まだ研究段階ではありますが遺伝子治療もあります。日本で最初に酵素補充療法が認可されたのは1996年のことで、ASMDと同じく「ライソゾーム病」の一種に分類される「ゴーシェ病」の治療法としてでした。ASMDの酵素補充療法が認可されたのは、それから20年以上も経った2022年のことです。
なにしろ希少な疾患ですので、新しい治療薬を開発しようにも臨床試験に参加していただける患者さんが非常に少ないという問題があります。また医師であってもこうした疾患の診断・治療に携わることはきわめて稀ですので、なかなか知見を広げることができません。ぜひ本日のような機会に、多くの方にASMDを含めた先天代謝異常症に対する理解を深めていただければと思います。
先天代謝異常症は、長い間「治療できない病気」でした。しかし今は治療薬がある疾患が増えていますので、今後はどうすれば早期診断できるか、治療のガイドラインをどう整備するかといったことがより重要になってくるはずです。患者さんの数は少なくとも、そのおひとりおひとりの声に耳を傾けながら、今後も希少疾患の診断と治療の進歩に貢献していきたいと考えています。