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荷物が届かない!物流の「2024年問題」がヤバイって本当?

PR by 公益社団法人日本ロジスティクスシステム協会

目次

「深刻なトラックの2024年問題」といったニュースを耳にすることが増えました。私たちの暮らしにどんな影響があるのでしょう?日本ロジスティクスシステム協会 JILS総合研究所の北條英所長に、ズバリうかがいました 。教えて北條さん!
 
2024年問題とは 
2024年4月1日以降に施行される「働き方改革関連法」。トラックドライバーの年間時間外労働時間の上限が960時間に制限されることで発生する問題の総称。

日本の物流は世界でまれにみる高品質サービス

──働き方改革関連法の施行により「2024年問題」が浮上してきました。物流の領域では、どのようなことが起こるのでしょうか?

北條英さん(以下、北條):まず大きいのは、トラックドライバーの時間外労働時間の上限が制限されるので、これまでのようには長距離運転ができなくなることです。当然、1日で運べる荷物の量が減ります。民間のあるシンクタンクでは、2024年問題によって、コロナ禍前の2019年と比べると、国内荷物量の14%が運べなくなるという推計を発表しました。

荷物量が減ると、必然的に運送会社の売り上げも減少しますし、トラックドライバーの給与も減るでしょう。そして、トラックドライバー不足に拍車がかかってしまうでしょう。

──業界にとっては大きな痛手ですね……。私たちにはどんな影響が?

北條:ひとつは送料の値上げです。送料無料がなくなったり、離島だけじゃなく、本州の過疎地でも特別料金が発生したりする可能性もあります。また、配送の遅れも考えられます。運送サービスの質の低下もあるかもしれません。いわゆる荷物の破損問題や誤配送といったものですね。
──日本でそんなことが起こるなんて、なかなか信じられません。

北條:そうかもしれません。今の日本では、ECサイトなどで購入した商品は壊れないで翌日に届くのが当たり前です。誰もがそう認識していますが、実はこれって当たり前ではないんです。世界に目を向けると、トラックドライバーが荷物を雑に扱うことは普通にありますし、届かないことだってあります。トラックドライバーたちがストライキを起こすことだってあります。

でも、日本ではそんなことは起こりません。荷物は安い料金で送れますし、丁寧に扱われて、希望した日時に届くのが当たり前です。私たちは『配送無料・翌日配送・時間指定』に慣れてしまって、これがとても高品質なサービスだということを忘れてしまっているんです。

──このまま2024年になったら、送料が上がり、翌日配送や時間指定ができなくなる可能性があるのですね……。

北條:ひとつ注意したいのは、いま話したのは個人を対象にした宅配便の場合であることです。スーパーやコンビニなどの小売業の場合は、商品が届かなくなることで、空いた陳列棚が恒常化する可能性があります。少し前に、鳥インフルエンザが流行して卵の価格が高騰して、出回る数も少なくなりましたよね。2024年以降は、物流が原因になって、同じような状態が様々な商品で頻繁に起こるかもしれません。

現在でも深刻な物流業界のリアル

──「2024年問題」以前に、現在も物流業界は深刻な問題を抱えていると聞いています。

北條:そうなんです。現状を伝える前に、基本的な輸送の流れをご説明しましょう。例えば、私が東京の自宅から大阪に住む知人宅に荷物を送る場合、荷物は小型トラックでいったん東京にあるハブという拠点に運ばれます。次に、ハブに運ばれてきた他の大阪行きの荷物と一緒に、大型トラックで大阪のハブに運ばれます。大阪のハブからは、小型トラックで、私の荷物は知人の家に、他の荷物はそれぞれの目的地に運ばれます。東京のハブに持ち込まれる荷物の出発地は私の家以外に多数ある。同様に、大阪のハブから配達される荷物の配達先も知人の家以外に多数ある。東京のハブと荷物の出発地を結ぶ線、大阪のハブと荷物の配達先を結ぶ線を絵にすると、ちょうど自転車のハブとスポークのように見えます。このような輸送の仕組みを『ハブアンドスポーク方式』と呼びます。
現在、最も深刻なのが長距離を運ぶトラックドライバー不足です。また、トラックドライバーの高齢化も問題です。次に、ECショッピングの増加やコロナ禍などの影響で荷物の数が増えたので、個人宅に届けるラストワンマイルの労働力が足りていません。また、ハブで荷物を仕分ける作業者も不足しています。つまり、どのセクションでも労働力が足りていないのです。

──労働力不足の原因は何なのでしょうか?

北條:良く聴くのは、トラックドライバーの労働時間が長いことが嫌われて、人が集まってこないというものです。

あと、輸送以外のサービスもネックです。荷物を降ろした後で、トラックドライバーが倉庫などに荷物を移動させることがありますが、これが時間ロスになっているのが実情です。また、個人を対象にした宅配便と違い、多くの場合、注文した商品が注文した数だけ壊れずに届いたかをチェックする検品作業も行います。検品は端末機を使ってピピッと済ませられればいい方で、賞味期限の年月日を手入力しながら検品するケースもあります。これらの作業は“サービス”で行われていることもあります。
日本ロジスティクスシステム協会提供
日本ロジスティクスシステム協会提供
──輸送以外の無料サービスに時間を取られて、運転時間が短くなっているんですね。

北條:もうひとつは、一時コロナ禍で減ったものの、荷物の量はほぼ横ばいの反面、細かい日時指定に対応しなければならないので、1度の輸送量が減ってきていることです。例えば、2か所の届け先が同じ日時を指定してくると、2台のトラックを走らせなければなりません。本来なら10トンの荷物を運べる大型トラックであっても、今話したような日時指定に合わせる必要があると、5トンの荷物を積んだ10トントラックを2台走らせないといけないんです。トラックが運べる量と実際に運んでいる量から輸送効率を示す『ロードファクター』という指標があるんですが、日本では約4割です。

内外から変わる物流業界、私たちにできることは?

──『2024年問題』の前に、現状を改善する必要がありそうですね。業界的に労働環境を良くしようとする動きはありますか?

北條:行政の主導で、『フィジカルインターネット』という荷物を効率的に運ぶ新たな仕組み作りを進めています。これはインターネット通信の考えを元にしたもので、余っているトラックの輸送スペースや倉庫の保管・仕分スペースなどをシェアして、物流リソースの稼働率を上げようというものです。インターネット回線のように、色々な輸送ルートの中から最も効率的なルート上にあるトラックや倉庫を利用して、荷物を運ぼうというコンセプトです。そうすることで、少ないトラックでも荷物を効率的に運ぶことができます。
出典:Grasp by 国土交通省
現在、『フィジカルインターネット』の初期状態と考えられる「共同物流」の実現に向けて、各会社が使っている情報システムやパレットの大きさなどの標準化が進んでいます。また、運送会社ではないのですが、コンビニ3社が共同で輸送するスキームを検討したり、食品メーカーが共同物流会社を立ち上げたりして、輸送の主体者である荷主から物流を変えようという動きもあります。物流の世界では、内側からも外側からも、必死で変わろうとしているんです。

──私たちにできることはありますか?

北條:もちろん、あります。荷物を送る時や商品を注文する時に、それがどうやって届いているかを想像してみてください。そして、注文した荷物が、本当に明日必要なのかを考えてみてください。時間指定は絶対にしないといけませんか?もしかしたら、置き配でもいいのではないでしょうか?
困らない範囲でいいので、少しでもトラックドライバーが働きやすくなるような配慮をしていただけたら嬉しいですね。
北條 英(ほうじょう・まさる)
公益社団法人日本ロジスティクスシステム協会
理事 JILS総合研究所 所長
民間のシンクタンクを経て2002年7月JILS入職。
以降、物流コスト、グリーンロジスティクス、共同物流など物流並びにロジスティクス分野の様々なテーマの調査研究に携わる。
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