コールセンター事業を展開するベルシステム24では、お客様の「ありがとう」の声をAIの音声認識で可視化し、数に応じて寄付をする「ありがとうプロジェクト」を実施しました。2022年10月17~21日を「ありがとう週間」に設定し、集まった「ありがとう」の数は、約300万件。約150万円の寄付先となったのは、Syrinx(以下、サイリンクス)という学生の研究チーム。声を失った方のための新しいハンズフリー型の人工咽頭機器「サイリンクス」を開発しています。声のコミュニケーションの価値を社会に還元する先に、どんな未来図を描いているのか、同社代表取締役 社長執行役員の野田俊介さんとサイリンクスのリーダー竹内雅樹さんに語ってもらいました。
竹内:この度は、「ありがとうプロジェクト」の成功おめでとうございます!そして、寄付先に我々のチームを選んでいただき、本当に感謝の気持ちでいっぱいです!
野田:とんでもない、こちらこそお礼を言いたいくらいです。今回の「ありがとうプロジェクト」は、我が社の創立40周年記念イベントのひとつとして行いました。企画・運営もすべて社員という方針のもと、「社会貢献」をテーマにしたチームの発案で企画したものが「ありがとうプロジェクト」だったんです。実際にやってみると、一日に約60万件もの「ありがとう」が生まれていることが分かって、私たちも驚きました。
竹内:一日に、そんなに多くの「ありがとう」が集まったのですね!ちなみに、なぜ寄付先にサイリンクスを選んでくださったのでしょうか?
野田:企画を何かの形にして社会に貢献したいということと、声を失った方が再び声を取り戻すためのデバイス作りに励むサイリンクスのチームに共感していたからです。私たちとしては、「ありがとう」の数を可視化することで、AIの音声認識の有効性の啓発になるんじゃないかという狙いもありました。
竹内:本当に光栄です。僕は、人と人とのコミュニケーションの中で、感情や思いや考えを一番スムーズに表現できるのは声だと思っています。声を失うことがどれだけ大変で辛いことなのかを、実際に見たり聞いたりしてきました。声を失った方の力になりたいという気持ちを汲み取っていただけて、感謝の気持ち以上に期待に応えたいという気持ちも強くなりました。
野田:私たちには「声」という共通点がありますが、実際に身を置いているのは、まったくの別世界です。竹内さんは、コールセンターにどんなイメージを持っていますか?
竹内:メディアなどから受ける印象なんですが、正直、メンタルが強くないと務まらないというイメージがありました。でも、「ありがとうプロジェクト」では、一日に約60万件も「ありがとう」が集まったと聞いて、すごく驚きましたし、誤解していたんだなと思うのと同時に、どこか納得するところもありました。
というのも、実は僕、一昨年フランスに海外出張に行く機会がありまして、その時にコールセンターに電話したんです。具体的には、海外Wi-Fiルーターをレンタルしていたんですが、帰国後に隔離期間があって返却できないことに気づいて……。
野田:その場合のレンタルの延長料金は、できれば払いたくないですね(苦笑)
竹内:はい。正直、あの時は予想外のことに少しパニックになっていて、電話をする声にもイライラが出ていたと思います。でも、担当してくださったコミュニケーターの方が、僕の気持ちを汲み取ってくださって、すごく丁寧に親切に対応してくださって。いろいろと話をしているうちに、イライラもおさまっていました。
コールセンターには、大変で辛そうというイメージもありましたが、その実態は、困っている人に寄り添って、解決に導くのが使命なんだな、と。世の中に、なくてはならない仕事だと思いました。そして、声はコミュニケーションをする上で、とても重要な役割を持っているんだということを再確認しました。
野田:実は弊社の40周年を記念して、詩人の谷川俊太郎さんに「心を重ねる」と題した文を作ってもらいました。その中では、声の持つ無限の力や可能性を伝えています。実際には、コミュニケーターに向けての詩なのですが、竹内さんのお話を聞いていて、共通するものがあるように感じました。
声には感情が込めやすいというか、深みが出しやすいというか……。伝えたいメッセージを真っすぐ届けるためには、やはり声は大事ですね。
野田:取り組まれている音声デバイス「サイリンクス」の開発の方はいかがですか?
竹内:「サイリンクス」は2019年にスタートしたプロジェクトで、喉元に2つのスピーカーをベルトで固定する新しいハンズフリー型の人工咽頭機器を開発しています。声を失った方々が集まる「銀鈴会」というコミュニティーに協力していただき、市場調査や試作を重ねてきました。現在は、独自の信号処理アルゴリズムでユーザー本来の声を解析して、再現する喉の振動パターンを作製することで、その人が元々持っていた声質に近い原音を生成しています。
ただ、声はその方のものでも、抑揚や強弱がなく、機械がしゃべるような棒読みの状態です。今後はいただいた寄付金を元に、抑揚と強弱のある、より自然な言葉が発せられるよう開発を進めていきたいと考えています。
野田:いやぁ、本当に素晴らしいです……。ちなみに、完成時期のめどはついていますか?
竹内:ハードウェアなので、どうしても開発に時間がかかるというのは前提としてあるのですが、「サイリンクス」を必要としている方に少しでも早く届けたいですし、支援してくだっている方々を、あまり待たせたくもないので、できれば5年以内には完成させたいと思っています。
野田:それは楽しみですね。「サイリンクス」が発売されて、声を失った方々が楽しそうにコミュニケーションをとる日が来るのが待ち遠しいです。
竹内:そうできるように、僕たちも精一杯頑張ります! ちなみに、今回の「ありがとうプロジェクト」は、「社会に還元する」というのも、ひとつテーマとうかがっていますが、野田社長が考えている「社会への還元」とは、どういった循環を指しているのでしょうか?
野田:私の考える、ベルシステム24としての社会への還元は、社内からスタートします。2020年からのコロナ禍を経験して、コミュニケーターはエッセンシャルワーカーに準ずる仕事ではないかと認識させられました。明日がどうなるかわからない不安定な社会状況の中、悩み・不満・不安が元の問い合わせが多く、コミュニケーターのほとんどが精神的に辛い状況だったと思います。
でも、コールセンター業務を止めるわけにはいきません。全国から寄せられる問い合わせを、誰かが受け止めないといけません。それを多くの方に知っていただきたい。そのためには、まず、コロナ禍のギスギスした社会の中で、いつもと変わらず、真摯に仕事に取り組んできたコミュニケーターたちを勇気づけることが何より最初にすべきことだと考えました。
職場で生まれる「ありがとう」を可視化することで、「自分たちの仕事は、人から感謝される仕事なんだ」と誇りを持てれば、コミュニケーターたちのモチベーションが上がります。寄せられる様々な問い合わせにも、前向きに対応できるはずです。
弊社内で生まれた「ありがとう」は、やがてコールセンターを利用してくださったお客様にも広がっていくことでしょう。そうやって、少しずつ「ありがとう」を社会に還元して浸透させることが、私たちが行うべき社会貢献なんだと思います。