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「オリックス 働くパパママ川柳」が映し出す、子育てと働き方の未来

PR by オリックスグループ

目次

2017年から始まった「オリックス 働くパパママ川柳」は、今年で6回目を迎えました。過去の受賞作品には、その時々の流行や、社会的な出来事が色濃く反映されています。社会情勢が変化する中で、働くパパママの職場環境や子育てへの向き合い方も多様化してきました。これまでの受賞作品を振り返ると、いったい何が見えてくるのでしょうか? 子育てとジェンダーの関係を専門に研究している大阪公立大学特任准教授の巽真理子さんと共に、過去6年間の受賞作品を通して「子育て」と「働き方」の現状と未来について考えます。

過去6年間の受賞作品から見えてきたもの

まずは、これまでの「オリックス 働くパパママ川柳」受賞作品について率直な感想をうかがいました。

「パパママたちは本当に大変だなぁ、というのが一番の感想ですね。『子育ては楽しい』ことばかりが強調されがちですが、『オリックス 働くパパママ川柳』には、子育ての現場の声がリアルに反映されていると感じました」

中でも、『テレワーク 親子で参加 web会議』(2019年)をはじめ、IT化による働き方の変化を反映した句が印象的だといいます。特にコロナ禍の影響でテレワークが当たり前になり、オンライン会議に子どもの姿が見え隠れするシーンをよんだ受賞作品が増えました。

「男性の場合、これまでは職場で家族や子どものことをあまり話さない人も多かったと思いますが、テレワークの日常化によって、いやが応でも上司や同僚に家庭の様子が見えてしまう状況になりました。それによって今後、職場環境や子育てをめぐる意識や関係性がどう変わっていくのか、注目しています」

「父親が子育てする難しさが一番伝わったのは、『育休も 三回目には そっと出し』(2020年)ですね。労働者が子育てをする権利は国際労働機関(ILO)の条約でも認められているので、育休の届け出も、本来なら堂々と出せるはず。でも、男性が子育てを理由に仕事を休む後ろめたさが、日本の職場にいまだ根深くあることを、うかがい知ることができます」

今年の第6回では、受賞作品の中から読者の投票で決める「みんなで選ぶ共感賞」が新たに登場しました。最も共感を集めた句は『手は出さず 口出す夫 うっせぇわ』。この句は巽さんもお気に入りだといいます。一見、女性が夫に対する気持ちをよんだ句のように思えますが、実はこの句の作者は男性です。自分では積極的に育児に関わり、妻と協力できているつもりでしたが、まだまだ妻からは『口だけ出している』と不満を抱かれることが多く、そんな自身の子育てを顧みて、自戒を込めてよんだ一句だそうです。

【「みんなで選ぶ共感賞」投票結果はこちら】
 

「自分では子育てをせず、意見だけを言うのは褒められたことではありません。ただ、『子育ては全て妻にお任せ』という男性が少なくなかった時代から状況が変化し、『子育てにちゃんと関わりたい気持ちはあるけれども、どう行動したらいいかわからない』という男性が増えていると思います。そういう場合は、男性が子育てという行動に移れるように、妻が夫を巻き込んでいくこともありだと思います」

巽さんが父親の子育てを研究する中で実感したのは、「居場所」の大切さだそうです。家庭や職場のほか、子どもを通して地域にも居場所があることが多い女性に対し、男性は仕事に専念するあまり、定年退職後に「自分の居場所がなくなった」と感じる人が多いのではといいます。

「大人が居場所を得るためには、その場での役割が必要です。子育ては、男性にとって家庭に居場所を増やす大きなチャンスなんです」

少子化対策から「イクメン」へ。戦後日本の子育てとジェンダー

巽さんによると、戦後の日本が子育て支援政策に本腰を入れ始めたのは、1990年の「1.57ショック」からだそうです。1人の女性が生涯に産む見込みの子どもの数を示す合計特殊出生率の前年の統計値が、過去最低の1.57人となったことが発表され、世の中に衝撃をもたらしました。

「少子化の深刻さに国がショックを受けたことで、少子化対策としての子育て支援政策が本格的に始まりました。共働き世帯が専業主婦世帯を上回りつつあった時期にもあたり、当初は働く母親を支援する施策が中心でしたが、2002年から、父親の子育てへの積極的な参加を促す施策や育休取得率などの数値目標が定められるようになりました」

2010年には厚生労働省による「イクメンプロジェクト」がスタート。「イクメン」という言葉が流行語となり、父親の子育てを後押しする政策が増える中、2017年に「オリックス 働くパパママ川柳」も始まりました。今年4月から改正「育児・介護休業法」が段階的に施行されるなど、制度面での整備は徐々に進んできました。

ただし、「『イクメン』には限界があります」と、巽さんは指摘します。イクメンという父親像について調査・分析すると、「きちんと仕事をした上で家庭と両立できてこそ、父親として、男としての責任を果たせる」といった、一家の“稼ぎ主”であることを前提とした父親像が散見されるそうです。一方で巽さんが提案する「ケアとしての子育て」は、子どもの身体的・情緒的ニーズに応えてケアすること自体に価値を置きます。「お腹がすいた」と泣く子どもの要求に応えることに、親の性別は関係ないという考え方です。

さらに巽さんは、「男性は仕事、女性は家事・育児」という意識に縛られているのは男性だけでなく、女性も同じであると言います。

「実は私自身も、子どもの食事は母親の手作りが良いとずっと思い込んでいて、いつも夕食を買ってきたお総菜で済ますことに罪悪感がありました。でもある日、早く帰れたので手作りしようとしたら、子どもたちから『えーっ、今から作るの?』とすごいブーイングが。彼らからしたら、早く食べたいというニーズの方が強くて、『手作りしなければいけない』というのは私だけの思い込みだったんです。こうした意識を、男性も女性も、共に問い直していくことが大事だと思います」

男性は「家事や子育てはやり方がわからず、自分には向いていない」などと思い込んでいる人も多いとされますが、「それは女性も同じ。最初は誰だってわからないし、家事や子育てが苦手な女性もいます」と巽さん。

「『家事や子育ては母親がするべき』といった社会の性別役割分業意識に縛られ、仕方なく女性が家事や子育てを担うことが多かったというだけ。最近強く思うのは、意識を変えるより行動を変える方が早いのでは、ということです。『父親が子育てするっていいよね、だからやろう』となるのを待つのではなくて、子どもが困っていたら、男性だから女性だからという役割にこだわらず、すぐ側にいる人が対応する。とにかく手を動かすことで、意識が変わっていくことが期待できます」

また「ケアとしての子育て」を実践するには、夫婦間の意識だけでなく、職場環境も大きく影響するといいます。

「最近、『男性育休100%』を実施する会社が増えてきています。ただ育休復帰後、男性が短時間勤務をしたり、子どもが病気の時には休んだり、といったところまでは、まだ現場の理解が追いついていないことが多い。50〜60代の男性の中にも積極的に子育てをしてきた人たちはいて、そういう人たちが管理職になっている現場では、男性も子育てを理由に仕事を休みやすい雰囲気になってきているので、今はちょうど過渡期だと思います」

夫婦間や職場で理解が得られたとしても、祖父母世代や地域社会の意識が追いついていない面があるとも。

「祖父母世代は、自身の子育て経験に自負があると思いますが、子育ての常識はどんどん変わっています。例えば予防接種は、5年もたてば回数や接種時期など全然違う場合もある。子育ての中にはいつの時代も変わらないものもありますが、変化の速い現代では昔の経験をそのまま生かすのは難しいかもしれない。まず『今と昔は違うんだ』という共通認識を互いに持つことが大切だと思います。保育園や幼稚園などでも、子育ては女性が担うものという感覚を変えるためには保育士や幼稚園教諭など専門職の教育課程にジェンダー視点を取り入れる必要があるでしょう」

これからの「子育て」と「働き方」とは

子育てと仕事への向き合い方が変化していく中で、「オリックス 働くパパママ川柳」にはどのようなことが期待されるでしょうか。
 
「子育てが本当に大変な時期は、私自身もそうでしたが、『誰か助けて!』と毎日泣きそうな状態なんです。でも、こうした川柳を作ったり、見たりすれば、状況を客観的かつユーモラスに考えられるようになり、少し気持ちも楽になる。そうした点がすごく良いと思います」
 
また、パパママだけでなく子ども目線や祖父母目線など、多様な視点で子育てを捉えた句があることも、注目すべきポイントだと指摘します。
 
 『5年生 ぼくもはたらく かぞくです』(2019年)の作品からは、子ども自身が家族の役に立てているんだと実感する、誇らしげな姿が感じられました。家事をして家庭を守るのはおとなだけではありません。子どもも家族の一員として巻き込んでいくことが大事です。それは、子どもの居場所を増やすことにもつながります」と、巽さんは提案します。
 
「私が非常勤講師を務める大学には、ジェンダーについて学ぶ『女性学』の講義があります。『女性学』という科目名から、当初はほとんどの受講生が女子学生でしたが、今では受講生の約半数が男子学生になりました。今の若い世代は中学・高校でジェンダー教育を受けていて、意識はずいぶん変わってきています。実際に子育てをしている男性に話を聞いても、『ケアとしての子育て』を実践している人は増えていると思いますね」と、巽さんは近年の変化を語ります。
 
一方、性別にかかわらず親として育児を行う「ケアとしての子育て」は、1日24時間の中で子育てに向き合うための時間を確保する必要があります。
 
巽さんは、海外で、日本の男性はいかに仕事が忙しく、子育てに時間を割けないかを説明した際、海外の研究者から「それは男性への人権侵害ですね」と指摘され、「目から鱗が落ちた」と振り返ります。
 
「日本では、フルタイムで働く場合は仕事が最優先で、残った時間でどうやって子育てをするか考えるのが一般的ですが、ヨーロッパでは、自分の暮らしの中にある大事なものを守るためにどう働くのかと発想します。日本でも子育てなどのケアが社会に欠かせないものであることを、きちんと根付かせていく必要があると思います。そのために、企業は、それぞれの人にとって大切なものを守るための時間を確保できる働き方を模索し、働く側も、自分を大切にしてくれる企業を選ぶという価値観を大事にしていきたいですね」
 
子育てを、母親や父親はもちろん、祖父母、保育園や幼稚園、学校、職場など、社会全体で役割を分け合うことで、子どもの居場所が増えていく——「オリックス 働くパパママ川柳」の受賞作品を通して、多様な視点からとらえた「子育て」と「働き方」の今を読み解くと、明日へのヒントがたくさん見つかりました。

(構成・池内潤子、撮影・合田慎二)

【プロフィル】
巽真理子(たつみ・まりこ) 
大阪公立大学ダイバーシティ研究環境研究所 特任准教授。神戸大学文学部(社会学専攻)卒業後、ケーブルテレビ局勤務後、専業主婦として様々な市民活動に参加。2008年、子育てとジェンダーの問題を研究するため、大阪府立大学大学院人間社会学研究科に入学。2015年より、同大ダイバーシティ研究環境研究所 コーディネーターを経て、現職。保育士などの資格も持つ。著書に『イクメンじゃない「父親の子育て」』(晃洋書房)。
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