話題
「オリックス 働くパパママ川柳」が映し出す、子育てと働き方の未来
PR by オリックスグループ
2017年から始まった「オリックス 働くパパママ川柳」は、今年で6回目を迎えました。過去の受賞作品には、その時々の流行や、社会的な出来事が色濃く反映されています。社会情勢が変化する中で、働くパパママの職場環境や子育てへの向き合い方も多様化してきました。これまでの受賞作品を振り返ると、いったい何が見えてくるのでしょうか? 子育てとジェンダーの関係を専門に研究している大阪公立大学特任准教授の巽真理子さんと共に、過去6年間の受賞作品を通して「子育て」と「働き方」の現状と未来について考えます。
「自分では子育てをせず、意見だけを言うのは褒められたことではありません。ただ、『子育ては全て妻にお任せ』という男性が少なくなかった時代から状況が変化し、『子育てにちゃんと関わりたい気持ちはあるけれども、どう行動したらいいかわからない』という男性が増えていると思います。そういう場合は、男性が子育てという行動に移れるように、妻が夫を巻き込んでいくこともありだと思います」
巽さんが父親の子育てを研究する中で実感したのは、「居場所」の大切さだそうです。家庭や職場のほか、子どもを通して地域にも居場所があることが多い女性に対し、男性は仕事に専念するあまり、定年退職後に「自分の居場所がなくなった」と感じる人が多いのではといいます。
「大人が居場所を得るためには、その場での役割が必要です。子育ては、男性にとって家庭に居場所を増やす大きなチャンスなんです」
巽さんによると、戦後の日本が子育て支援政策に本腰を入れ始めたのは、1990年の「1.57ショック」からだそうです。1人の女性が生涯に産む見込みの子どもの数を示す合計特殊出生率の前年の統計値が、過去最低の1.57人となったことが発表され、世の中に衝撃をもたらしました。
「少子化の深刻さに国がショックを受けたことで、少子化対策としての子育て支援政策が本格的に始まりました。共働き世帯が専業主婦世帯を上回りつつあった時期にもあたり、当初は働く母親を支援する施策が中心でしたが、2002年から、父親の子育てへの積極的な参加を促す施策や育休取得率などの数値目標が定められるようになりました」
2010年には厚生労働省による「イクメンプロジェクト」がスタート。「イクメン」という言葉が流行語となり、父親の子育てを後押しする政策が増える中、2017年に「オリックス 働くパパママ川柳」も始まりました。今年4月から改正「育児・介護休業法」が段階的に施行されるなど、制度面での整備は徐々に進んできました。
ただし、「『イクメン』には限界があります」と、巽さんは指摘します。イクメンという父親像について調査・分析すると、「きちんと仕事をした上で家庭と両立できてこそ、父親として、男としての責任を果たせる」といった、一家の“稼ぎ主”であることを前提とした父親像が散見されるそうです。一方で巽さんが提案する「ケアとしての子育て」は、子どもの身体的・情緒的ニーズに応えてケアすること自体に価値を置きます。「お腹がすいた」と泣く子どもの要求に応えることに、親の性別は関係ないという考え方です。
さらに巽さんは、「男性は仕事、女性は家事・育児」という意識に縛られているのは男性だけでなく、女性も同じであると言います。
「実は私自身も、子どもの食事は母親の手作りが良いとずっと思い込んでいて、いつも夕食を買ってきたお総菜で済ますことに罪悪感がありました。でもある日、早く帰れたので手作りしようとしたら、子どもたちから『えーっ、今から作るの?』とすごいブーイングが。彼らからしたら、早く食べたいというニーズの方が強くて、『手作りしなければいけない』というのは私だけの思い込みだったんです。こうした意識を、男性も女性も、共に問い直していくことが大事だと思います」
男性は「家事や子育てはやり方がわからず、自分には向いていない」などと思い込んでいる人も多いとされますが、「それは女性も同じ。最初は誰だってわからないし、家事や子育てが苦手な女性もいます」と巽さん。
「『家事や子育ては母親がするべき』といった社会の性別役割分業意識に縛られ、仕方なく女性が家事や子育てを担うことが多かったというだけ。最近強く思うのは、意識を変えるより行動を変える方が早いのでは、ということです。『父親が子育てするっていいよね、だからやろう』となるのを待つのではなくて、子どもが困っていたら、男性だから女性だからという役割にこだわらず、すぐ側にいる人が対応する。とにかく手を動かすことで、意識が変わっていくことが期待できます」
また「ケアとしての子育て」を実践するには、夫婦間の意識だけでなく、職場環境も大きく影響するといいます。
「最近、『男性育休100%』を実施する会社が増えてきています。ただ育休復帰後、男性が短時間勤務をしたり、子どもが病気の時には休んだり、といったところまでは、まだ現場の理解が追いついていないことが多い。50〜60代の男性の中にも積極的に子育てをしてきた人たちはいて、そういう人たちが管理職になっている現場では、男性も子育てを理由に仕事を休みやすい雰囲気になってきているので、今はちょうど過渡期だと思います」
夫婦間や職場で理解が得られたとしても、祖父母世代や地域社会の意識が追いついていない面があるとも。
「祖父母世代は、自身の子育て経験に自負があると思いますが、子育ての常識はどんどん変わっています。例えば予防接種は、5年もたてば回数や接種時期など全然違う場合もある。子育ての中にはいつの時代も変わらないものもありますが、変化の速い現代では昔の経験をそのまま生かすのは難しいかもしれない。まず『今と昔は違うんだ』という共通認識を互いに持つことが大切だと思います。保育園や幼稚園などでも、子育ては女性が担うものという感覚を変えるためには保育士や幼稚園教諭など専門職の教育課程にジェンダー視点を取り入れる必要があるでしょう」
(構成・池内潤子、撮影・合田慎二)