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働き方に悩む人に、青山美智子さん最新作『お探し物は図書室まで』

PR by ポプラ社

表紙に使われた羊毛フェルトは、作品でも各章に登場している
表紙に使われた羊毛フェルトは、作品でも各章に登場している

目次

47歳の遅咲きで小説家デビューを果たした青山美智子さんの短編集『お探し物は図書室まで』(ポプラ社)が、書店員らの間で高い評価を集めている。5作目となる本作は、働き方を模索している人たちを後押しする内容で、表紙にある羊毛フェルトのような温かみを感じさせてくれる。
 
短編の連作で一貫したスタイルを貫く青山さんの作品は、独特の読後感が持ち味だ。わだかまりを吐きだしてスッキリしたような気持ちを覚えて、他の作品にもハマる読者が多い。ネクストブレイク候補として期待される青山さんに、「仕事」と「本」に対する思いを聞いた。

小さな図書室での、偶然の出会いで動く物語

——今回の作品は「仕事」が大きなテーマですが、図書室を舞台にしたきっかけは?
 
 「仕事」の話を書こうと、最初はハローワーク的なことを考えていて、タイトルも「ハロー・ハローワーク」にしようかなって(笑)。でもキーパーソンを設定するとき、悩んでいる人が誰も気軽に会えて、話をして心を打ち明けられるような人って誰かなって考えたときに、司書さんっていいなって思ったんです。
 
——大きな図書館ではなく、コミュニティハウスの小さな図書室で、社会との接点が多い気がします。
 
 図書館だと、本が好きな人が探しに来るという話になってしまうなと思って。何か違う目的で訪れた人が成り行きで導かれて、たまたま本と出会えるのはいいなと思い、図書室という設定にしたんです。私も普段から近くのコミュニティハウスにはお世話になっていて、赤ちゃんだった息子を抱いたまま本を借りに行ったりとかもしました。便利で穴場な場所なので、もっと皆さんに知ってほしい反面、あまり混雑してほしくない気持ちもありますね。
 
——婦人服販売員の朋香(21)、家具メーカー経理部の諒(35)ら5人の主人公の日常や悩みは、とても身近で、彼らの気持ちに没入しやすいです。キャラクターづくりで心掛けておられることは?
 
 作家さんには、着ている服を脱いで自分をさらけ出す方と、逆にどんどん着込んでいく方と、大きく分けて2パターンあると思うんです。もちろん両方が混ざった方もたくさんおられますが、私は明らかに後者。ちょっとしたコスプレなんですよ。普段の私は自分からなかなか発言できなくて、SNSの投稿もドキドキしてしまうくらいなんですけど。小説の中でコスプレをすれば言いたいことが言えるというか。
——“コスプレの衣装”は、どうやって調達していますか?
 
 借り物のときもあれば、手縫いのときもあります。本作の三章の夏美さん(40歳・元雑誌編集者)に関しては、ドキュメンタリーと言っていいぐらいのモデルがいまして(笑)。働くお母さんの話を書こうと思ったら、ポプラ社の担当編集者である三枝さん が当てはまって、がっつりと取材しました。だから、原稿を渡すときにはすごく緊張しましたね。
 
——感情移入という意味では、情景もイメージしやすくて、そのままドラマなどに映像化できると思いました。
 
 私が書いているときと見るのと同じ景色を、見てくださっている方がいるのなら、すごくうれしいですね。テレビドラマのノベライズを書いていた時期があって、最終回のときはもう本が出ていないといけないんです。放映する前に書かないといけないので、俳優さんが動いていたりセリフをしゃべっているのを思い浮かべて書くという訓練になっていたのかもしれません。

ビュッフェのように言葉を味わう面白さ

——どこにでもいるような各章の主人公を導く存在が、司書の小町さゆりさんです。青山さんの作品には、少し不思議で浮世離れした、案内人や伝道師のような存在が登場します。小町さんたちはどんな役割の存在ですか?
 
 振り返ってみると、実は小町さんは全然大したことを言っていないんですよ。突拍子もなくて。これって、壁の落書きみたいなものですよね。誰かに向けて書いているわけでなく、読んだ人が勝手に解釈したり、何かのヒントにしてしまったり。
 
——主人公なり読者なりの解釈に委ねられるのかと。
 
 言葉って、発している側のものじゃないんですよ。こうやってお話していてもそうですが、あらゆる言葉は受け取る側のものなので。読んだ方が自由に持っていくのが面白いところだし、それが私の書きたい小説だと思います。「ここにメッセージを込めています」というよりは、私が思ったことをどんどん並べて、それをビュッフェみたいに好きなものを取っていってくだされば。
——小町さんが本を薦めるときに渡す「付録」の羊毛フェルトも、フライパンや猫など、想像力を喚起させますね。
 
 小学生のころに『なかよし』や『りぼん』の付録を楽しみにしていて、本に付録を付けたらおもしろいなと思ったんですよ。既製品ではないハンドメイドのもので、羊毛フェルトだったら小町さんが片手間にできるなって。針一本でいろんな形のものができるし、奥深いですね。
 

コロナ禍の中で感じたことも作品に意識

——主人公たちは本との出会いをきっかけに、働き方や人生を変える一歩を踏み出していきますが、コロナ禍によって働き方が変わる社会の状況にも通じるものがあります。
 
 コロナで一番変わったのは、仕事のあり方だと私は思っています。安定した仕事なんてないとか、何かを失ったように見えても本当に大切なものをなくしたわけじゃないとか、コロナの中で私は感じました。 逆に、どんな状況になっても、変わらないものもあって、それをもう一度見つめ直したい。変化して対応しなければならないこと、普遍的で変わらないこと、その二つを考えながら書きました。
 
——執筆のスケジュールなどに影響はありましたか?
 
 ダイヤモンド・プリンセス号が横浜港に停泊しているときに、編集者の三枝さんと設定を決める打ち合わせをしたのを覚えています。今年の1月末にプロットは固まっていましたが、日に日にひどくなるコロナの状況の中で、仕事のことを書くというのは、運命的なものを少し感じました。スケジュールという意味では、今回の作品は実際にある本を選ぶのが必要だったのですが、ちょうど緊急事態宣言で図書館や書店が閉まっていた時期と重なっていたのには苦労しました。
 
——小説やドラマが、コロナ前の日常なのかコロナ後の話なのか、描くのも難しい時代です。本作では登場人物のマスクや消毒液の有無なども、気にせず自然に読むことができました。表現にかなり気を使われたのでは?
 
 コロナが今後どうなるかわからないし、作品の中に登場させるのは避けたかったんです。ただ、登場人物のセリフなどの中には、私がコロナの中で感じたことを踏まえて書いているつもりです。もちろん読者の方々には、好きなように読んでいただきたいんですけど。

青山美智子のスタイルを知ってほしい

——作家という仕事に進むうえで、主人公らのように影響を受けた本は?
 
 氷室冴子さんの小説『シンデレラ迷宮』です。中学生のとき、表紙がすごくいいなと思ってコバルト文庫を買いました。それまでも本は好きだったけど、氷室さんの作品は衝撃的で、自分でも書き始めたんです。登場人物の言い回しや物語の展開とかをまねして。この本は、14歳で小説家になろうと思った私の原点ですね。
——プロの小説家になって、どんな本との出会いがありましたか?
 
 小説だけでなく、サイエンスやドキュメンタリーの分野をよく読むようになりました。本作でも図鑑が出てきますが、動物や植物の世界を見ていると、自分の心を静めてくれると思います。最近読んだ本では、若田光一さんの『宇宙飛行士、「ホーキング博士の宇宙」を旅する』が面白かったです。
 
——会社に勤めていた頃などと比べ、青山さんの「働き方」はどう変わりましたか?
 
 働いているという意識があまりないかもしれません(笑)。もちろん、時間に遅れないとか、社会人としての責任はありますけど。今は一から百二十まで全部面白いし、すごく幸せです。
 
——最後に、仕事での目標をお聞かせください。
 
 ありがたいことにいろいろお話をいただいていますが、今はまず連作短編集での私のスタイルを皆さんに覚えていただくことを目標にしています。まだまだ駆け出しの新人なので、自分の世界を確立させて、それを知っていただきたいです。私の手から離れたものを、読者さんご自身の物語として読んでいただければ一番うれしいですね。
 
【プロフィール】
青山美智子(あおやま・みちこ)
1970年生まれ、愛知県出身。大学卒業後、シドニーの日系新聞社で記者として勤務。2年間のオーストラリア生活ののち帰国。出版社で雑誌編集者を経て執筆活動に入る。第28回パレットノベル大賞佳作受賞。2017年のデビュー作『木曜日にはココアを』が第1回宮崎本大賞を受賞。同作と2作目『猫のお告げは樹の下で』は未来屋小説大賞入賞。既刊に『鎌倉うずまき案内所』『ただいま神様当番』。
 
『お探し物は図書室まで』(ポプラ社)
 
お探し物は、本ですか? 仕事ですか? 人生ですか?
人生に悩む人々が、ふとしたきっかけで訪れた小さな図書室。
彼らの背中を、不愛想だけど聞き上手な司書さんが、思いもよらない本のセレクトと可愛い付録で、後押しします。
自分が本当に「探している物」に気がつき、明日への活力が満ちていくハートウォーミング小説。
 
 
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