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エンタメ

愛する息子は殺人犯か、被害者か  壊れゆく日常の先に見えた光とは

雫井脩介のベストセラー小説「望み」が映画化! 公開記念特別対談/エンターテインメントの旗手・堤幸彦監督と主題歌担当・森山直太朗さん

PR by KADOKAWA

目次

引き裂かれ、またつながっていく

人と人との結びつきを描きたかった

映画監督
堤幸彦さん
つつみ・ゆきひこ/1955年生まれ。代表作にドラマ「TRICK」、映画『人魚の眠る家』『十二人の死にたい子どもたち』他多数。娯楽作品から社会派まで幅広く手掛けながら、一貫して人間の深みを描いている。日本映画界を代表する監督の一人。

無力をどこまで肯定できるか

生きることの意味を問いかけられた

シンガーソングライター/映画『望み』主題歌
森山直太朗さん
 
もりやま・なおたろう/1976年生まれ。2002年にメジャーデビューし、翌03年「さくら(独唱)」で一躍注目を集める。独自の世界観を持つ楽曲と透明感のある歌声を持ち味とし、コンスタントに音楽活動を展開している。最近は俳優としても活躍の幅を広げている。

引き裂かれつながっていく 生きることの意味

 会うのは1カ月ぶりかな。
     
森山 そうですね。本当は試写会でお会いするはずが──。

 僕がけがで入院して会えなかった。本当はそこで、どんな主題歌をお願いしたいのか打ち合わせをするはずだったのに。

森山 そうでした。

 病院ではずっと森山さんの曲を聴いていました。森山さんの曲は以前から聴いていたけれど、ほぼ全アルバムを網羅しました。高校生の時に初めて買ったレコードを聴いているような、なんともいえない感覚がよみがえってきて、音楽ってこんなにも人の心に作用するのかとビンビンきましたね。その中で「嗚呼」という曲が主題歌のイメージに一番近かったんです。

森山 4年前のアルバムです。

 夜もしらんできた病室で「嗚呼」ばかり何回も聴いていたのですが、主題歌としていただいた「落日」がそれをさらに上回るすばらしい曲で。一つの完成した楽曲が持つ世界観と、それまで映像で表現してきた物語の持つ意味が見事に共鳴し、哲学的なまでに深い意味を与えてくれた。震えましたね。  
  
森山 ありがとうございます。主題歌が流れる最後のシーンって、カメラがゆっくりと天に登っていくじゃないですか。僕が見せていただいたのは仮編集のものだったので、エンディングにまだキャストやスタッフの名前がついていなかったんです。当然音もなくて、ただただ風景だけが延々と流れていくだけでした。だけど、そこにすごい奥行きや行間を感じたんです。この映像に自分の曲が重なるのかと思ったら、異様なアドレナリンが湧いてきて。多分それは、複雑な展開を経て結末を迎えた後に、それでも日々は続いていくことを淡々と表現した映像だったからだと思います。何げない景色から感じられる風のにおいや温度といったものに、どこまで応えられるか。そこを探るのはとても面白い作業でした。
 

極限状態を通して、緩やかに問いかける生の本質とは

 この映画は、ある事件をきっかけに普通の家族が壊れていくという緊迫したストーリーだけど、最後にはまた何げない一日がやってきます。その達観した感じが森山さんの曲からも感じられて、映画で僕が伝えたかったことを言わずもがな分かっていただけている気がしました。エンドロールを眺めながら、今見た映画の意味ってなんだろうと、考えたくなるようなすごい力を持っている。こんな風に主題歌をいただいたのは初めてです。

森山 それにしても、極限状態に陥った家族の描写はすごかったですね。主演の堤真一さんと石田ゆり子さんがみるみる憔悴していく。いま思い返しても胸が詰まるくらいですが、あれはどういう風に撮影したんですか。

 ストーリーを順を追って撮るようにしました。ロケ地ごとにまとめて撮る方が効率的ですが、話の流れに沿って進めた方が役者さんの感情がより自然に表れますから。

森山 あのリアリティーはそこからきていたんですか。映画全体を通して感じたことですが、誰もが経験しているけれど言葉にできないような、感覚を揺さぶられるシーンが多いですよね。例えば、葬式のシーンで吹いていた異様な強風。僕にも記憶があるんですよ。年に一度あるかないかの変な吹き方をする風の記憶が。あのなんともいえないリアリティーと、悪い夢の中にいるような感じは、これまで見てきた映画の中で一番好きかもしれない。

 よかった。今のところあの風を評価してくれているのは森山さんだけです(笑)。この映画で起きていることは、いつ誰が同じ状況に陥ってもおかしくないことです。ニュースを見ていても、明日は我が身と思うような事件が多い。ある意味、とても身近なテーマだと思います。

森山 もし自分がこの状況に置かれたらどうするだろうと考えたのですが、多分何もできないと思います。耐えて、信じて、待つことしかできない。これほど無力なことはなくて。それは、どんな現実がきても受け入れるしかないということなのだけど、生きるってその連続でもあるわけです。無力さをどれだけ肯定できるか、この映画のもう一つのテーマだと思いました。

 そのとき自分が下した判断を後悔するかどうかは、日々をどう生きるかにかかっていますからね。子どもや家族との接し方を含めて、人との向き合い方を改めて考えるきっかけになると思います。

森山 コロナ禍でこの作品を見て、幸せであればあるほど、この時間が決して当たり前のものではないのだと思うようになりました。じゃあどうすればいいのか。考え続けなければいけないと思います。想像できないからと思考を止めてしまうのは危険で、分からないことを理解しようとすることが大切ではないかと。この映画は、極限の状態を通して、本質的なことを緩やかに問いかけている気がします。
 
【Story】

息子が姿を消したその日、事件は起きた。
建築家として成功した父のもと、幸せに暮らす石川家。ある日、夜遊びをするようになった息子の規士が姿を消し、同級生が殺害された。容疑者として浮上したのは、規士を含む少年3人。愛する息子は殺人犯か、それとも被害者か。事件にほんろうされながら、家族のそれぞれの「望み」が交錯する。出演は、堤真一、石田ゆり子、岡田健史、清原果耶ら。極限の家族愛を描いたサスペンスエンターテインメント。
©️2020「望み」製作委員会
 
https://nozomi-movie.jp
 
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