日本が世界に誇る伝統工芸品の「輪島塗」。芸術的な美しさや堅牢さが評価を受けている漆器だというのは有名ですが、断熱性にも優れていることはご存知でしょうか?
環境保全や省資源が求められる21世紀のテクノロジーを先取りした、古来から伝わるエネルギー効率化技術なのです。
そして今、日本の先端技術を結集し、エネルギー効率化を使命として生まれた漆黒のタイヤ。歴史や用途は違えど、同じ「ものづくり」への志を持って進化を続ける、それぞれの技術の秘密を探ります。
「japan」と呼ばれることもある漆器。その中でも、石川県輪島市で生産される輪島塗は、長い歴史を重ねて伝統産業として受け継がれてきました。同県では縄文時代の遺跡から漆製品が発見され、現存する最古の輪島塗は室町時代の1524年の作とされています。
輪島塗が他と一線を画している最大のポイントは、地元にしかない「輪島地の粉」を下地に用いていることです。珪藻土(藻類の化石でできた堆積物)を焼いて粉末にしたもので、これを漆に混ぜて下地塗りを繰り返します。
無数の微細な穴を持つ珪藻土の粒子が漆をたっぷり吸収することによって、固く堅牢な塗膜が柔らかいケヤキの木地を包み、変形することがなく頑丈な漆器の基礎が出来上がります。
この塗膜はガラス質の化石と鉱物によって形成されており、高い断熱性をもたらします。すなわち、ガラスで真空を覆った魔法瓶のように、ガラス質の塗膜で木地を何層も包んだ輪島塗は、中に入れた料理の熱を逃がさないのです。
堅牢性や断熱性に優れているという特徴は、「暮らしの中で使う道具であると同時に、一つの芸術でもある」という輪島塗ならではの価値を示しています。120以上にも及ぶ工程の一つ一つは、常に人々がそれを使い続けるということを意識して、時を超えて磨きあげられた技術でもあるのです。
自動車の中で最も酷使する部分の一つでもあるタイヤ。その性能には、環境のために燃料の消費を抑える「低燃費性能」、安全なドライブを実現する「ウエットグリップ性能」、省資源に貢献する「耐摩耗性能」の3つが求められます。しかし、一つを高めると一つを損なうことになり、3つの性能は相反関係にありました。
住友ゴムの低燃費タイヤ「エナセーブ NEXT II」には、3つの性能を高次元で両立させるために、「ADVANCED 4D NANO DESIGN」と呼ばれる材料開発技術が採用されています。輪島塗でいう珪藻殻の粒子のような役割をどのように探し当てたのでしょう?
世界最高性能の放射光を生み出すことができる大型放射光施設「SPring-8」。世界最高レベルの強さの陽子ビームから様々な粒子を発生させる大強度陽子加速器施設「J-PARC」。世界有数の計算速度を誇るスーパーコンピュータ「京」。日本が誇る3つの先端大型研究施設を連携活用し、探索を重ねることに。
今まで見えなかったゴムの破壊を観察することに成功し、シミュレーションによって摩耗の原因を分子レベルで解明。ゴムが変形する際の内部の破壊を抑制する「新フレキシブル結合剤」を開発し、低燃費性能とグリップ性能を高次元で維持して耐摩耗性能も大幅にアップさせました。
環境負荷低減・安全性・省資源を実現した「エナセーブ NEXT II」は高い評価を受け、2017年に「日経地球環境技術賞」の最優秀賞を受賞。日本自動車タイヤ協会のラベリング制度でも、燃費低減につながる「転がり抵抗性能」と「ウエットグリップ性能」の双方で最高評価を獲得しています。
エネルギーを有効に活用し、クルマを運転するドライバーや周囲の人々、未来の暮らしへの使命感を持って生まれた低燃費タイヤはさらにその先へ、転がりを続けます。
住友ゴムは世界初となる100%石油外天然資源タイヤなど、世界に誇れる技術を生み出し続けてきました。社会のサスティナブルな発展に貢献する企業を目指して、「世界一の価値」を提供するための独自技術を駆使し、DUNLOPブランドをはじめとした“ダントツ商品”の開発を積極的に進めています。
世界的にも需要拡大が見込まれる低燃費タイヤ市場に向け、積極的な展開を推進している住友ゴム。タイヤには日本が培った技術を継承・発展させて世界へと「ものづくり」の思いを伝えている輪島塗と同じ志が込められていたのです。