昨今の日本では、結婚と出産の年齢が上昇傾向にあります。将来的に妊娠・出産を望む人は、体の変化や妊娠適齢期の正しい知識を持ち、自分らしいライフプランを考えることが大切です。自分ごととして心にとめておくポイントを、タレントの足立梨花さんが国立成育医療研究センターの齊藤英和先生に聞きました。
足立 日々の体調管理は意識していても、女性としての体の変化や機能について考えるのは、中学校や高校での授業以来です。
齊藤 そういう人が多いと思います。初めに少し、月経周期と妊娠のしくみをおさらいしましょう。月経周期は28日前後とされ、「卵胞期」「排卵期」「黄体期」に分けられます。これは卵子が入っている卵胞の成長過程のことで、大きくなって排卵されて受精を待つという流れです。卵巣で育まれる卵胞の成長に合わせて、子宮でも胚と呼ばれる受精卵を受けとめる準備が進められます。「増殖期」「分泌期」といって、子宮内膜を厚くしたり、受精卵を着床しやすくする粘液を分泌したりするのです。卵子が受精しなかったり、受精した胚が着床できなかったりすると、準備された子宮内膜ははがれ、排出されます。これが月経です。
足立 その月経後に、また新しい卵子を育む周期が始まるということですね。
齊藤 そうです。次に妊娠のしくみについてですが、「排卵期」に入ると、卵巣の中で育った卵子が卵管まで移動します。膣内に射精された精子がその卵管の端まで泳いでいき、卵子と結合すると胚ができます。胚は7日近くかけて卵管から子宮内膜までやってきて着床し、ようやく妊娠成立です。膣に射精される精子は数億個ですが、卵管までたどり着く過程で数百ほどに減少します。卵子も精子も元気でなくてはなりません。
足立 どちらも健康であるということが大事なんですね。女性はどんなことに気をつけておくとよいでしょうか。
齊藤 月経が不規則だったり、3カ月以上無月経だったりする場合は婦人科を受診しましょう。月経周期には個人差があるものの、月経の初日から次の月経の前日までの期間が24日以下または39日以上の場合は受診の目安と考えていいでしょう。かかりつけの婦人科の先生がいると、体調の変化などにもアドバイスをもらえるので心強いと思います。
足立 「妊娠適齢期」とは、いつごろを指すのでしょうか。
齊藤 様々なデータがありますが、広く見れば20歳から32歳ごろといえます。自然妊娠率の統計(※)によると、19歳から26歳では月経周期から算出したタイミング法で5割近くの人が妊娠します。それが27歳から34歳は約4割、35歳から39歳は約3割とだんだん下がっていきます。妊娠しやすさと、母子それぞれのリスクが特に少ない時期を考慮すると、20代半ばですね。
足立 自然妊娠率が20代後半から下がる理由は何ですか。
齊藤 主には卵子の数の減少と卵子の質の低下です。卵子の数は、出生時に約200万個あったものが思春期にはおよそ20万から30万個になり、その後も排卵とは関係なく減ります(下図)。それが加速するのです。
足立 月経のたびに一つずつ減るというわけではないんですね。
齊藤 そうです。また、卵子の減り方には個人差があります。「若いから大丈夫」ということでもないので、だいたいの傾向だと考えてください。自分の卵子の数が気になる人という人は、婦人科で調べてみるといいでしょう。卵子の数はAMHというホルモンが指標になります。
※Human Reproduction Vol.17, No.5 pp. 1399-1403.2002
足立 年齢による変化は、卵子の数や質、自然妊娠率のほかに、どんなものがありますか。
齊藤 例えば、不妊の大きな原因の一つとされる子宮内膜症の発症数が増えます。そして妊娠後も、妊娠高血圧症候群、流産、前置胎盤、胎児の染色体異常、妊産婦死亡などの発生数が増える傾向にありますね。世界的に見て、日本の妊産婦死亡率はとても低いのですが、年齢を重ねるとリスクが高くなります。また「男性の年齢が高いほど妊娠率が下がる」というデータもありますから、年齢を考慮すべきなのは、決して女性だけではありません。卵子も精子も、数と質が変わるのだと覚えておいてください。
足立 女性にも男性にも変化があるということは、妊娠を望む時には双方の状態を知る必要がありますね。
齊藤 その通りです。なかなか妊娠に至らず不妊治療を始めるという時には、双方が検査を受けて原因を調べることになります。治療はタイミング法や排卵誘発法などの一般不妊治療から、体外受精や顕微授精といった生殖補助医療まで様々あり、原因に応じたアプローチで進められます。ただ、誰もが必ず子どもを持てるとは限りません。年齢別の生殖補助医療(体外受精などの治療)のデータ(下図)を見ると、高齢になるほど分娩率が下がります。治療期間も長くなると考えられます。
足立 不妊治療にはそういった傾向があるんですね。
齊藤 近年は特に、患者の高齢化が進んでいます。日本産科婦人科学会の調査によると、2014年の生殖補助医療の治療件数は39万3745件でした。これは08年の19万613件に対して、2倍以上になります。さらに40歳以上の患者の割合は、08年で32.1%でしたが、14年には42.2%に高まっているのです。人生の選択は人それぞれですが、将来子どもを持ちたい人は、なるべく自然妊娠率が高い時期に、体調を把握したりパートナーと話し合ったりして、考えてほしいと思います。
齊藤 足立さんは妊娠・出産の時期をイメージしたことはありますか?
足立 はい。母が21歳で私を産んでいるので、中学生ぐらいまでは「20歳で結婚、21歳で出産」と思っていました。ただ、10代で仕事を始めてからは、そのプランを見直して「28歳ぐらいで結婚、30歳で1人目を出産」と考えるようになりました。まだ具体的には思い描けていないのですが……。
齊藤 自分なりに考えていて、すばらしいと思います。大事なのは「プランを立てて、それを時期に応じて見直していくこと」です。自分の意思を持ち、パートナーと相談したり、家族の理解と協力を得ながら考えたりしていけばいいのです。
足立 なるほど。確かに、妊娠・出産とその先の暮らしまで考えると、パートナーはもちろん、家族の存在も大きいですね。年の離れた弟がいるのですが、母の妊娠・出産・育児を間近で見ていて、分担や協力が欠かせないというのは実感しています。祖父母も元気なので、よく手伝ってくれました。
齊藤 家族の年齢構成も、直接的な要因ではないものの大切ですね。
足立 改めて自分のプランを考えてみたいと思います。