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エンタメ

「この手があったか」原作者も感嘆 映画「去年の冬、きみと別れ」

提供:ワーナー・ブラザース

目次

 3月10日(土)に公開を控えた映画「去年の冬、きみと別れ」が、早くも大きな注目を集めています。主演は、EXILE/三代目J Soul Brothersの岩田剛典さん。原作は、大ベストセラーとなった中村文則さんの同名小説です。「映画が先でも、小説が先でも、それぞれ違った楽しみ方ができる」と語る中村さんに、本作への思いを聞きました。

絶対に「映像化不可能」のはずだった

── 小説『去年の冬、きみと別れ』は大変な反響でした。

 世の中には既に色々なミステリー作品があるわけですから、既視感のあるものを書いても面白くないと思いました。それでこの作品では、色々な仕掛けや伏線を織り込みつつ、「ある一文によって、すべてが変わる」ということなど、色々合わせる形で挑戦しています。物語にどんどん引き込まれてページをめくる手が止まらない、読み終わってしばし呆然としてしまう──そんな「読書の快楽」を味わっていただけるようなものを目指しました。あくまでも自分なりに、ということですが。

── 人間の内面をえぐるような世界観も話題です。

 人は誰でも心の奥深くまで掘り下げていけば、何かしらの「激しさ」「悪」のようなものを持っていると思うんです。自分とは何か、人間とは何か。そんな問いに対峙することも、小説に触れる醍醐味ではないでしょうか。ちなみに本作は、英語やフランス語などに翻訳されていますが、読者の皆さんの感想はどこの国でもあまり変わりません。文学への向き合い方に国境はないんだと思うと興味深いです。

──映画化の話を聞いたときの心境は?

 この作品は、トリックや伏線の性格上、「映像化は不可能」とよくいわれていました。正直、僕も無理だろうと思っていました。でも、脚本を読んで「なるほど、この手があったか……」と心底感心したんです。原作に大胆な変更を加えつつ、物語の「核」「精神性」は見事に捉えてくださっていましたから。ただし、主演の岩田剛典さんはさぞかし苦労されるだろうなあと思いました(笑)。

撮影現場で目の当たりにした、映画人の本気

── 撮影現場にも行ったそうですね。

 岩田さんのあるシーンで、何テイクも撮り直しをしていたんです。モニターで見ていた僕には、何が違うのかさっぱり分からない。完璧じゃないですかと。でも、何度目かのテイクで、プロデューサーと監督が同時に「よしっ」「ハイOK!」と言ったんです。聞いてみると「目です。(最後のテイクは)岩田さんの目に宿る感情が違いました」と。驚きました。こういう緻密な作り込みがあってこそ、我々観客は作品の世界に感情移入できるんですよね。役者さんや監督、スタッフの方々にあらためて敬意を感じた出来事でした。

── 小説と映画を比べれば、さらに楽しめそうです。

 そうですね。小説と映画は、ある部分の設定が大きく異なります。小説を先に読んだ人は「映画ではこうなるのか!」と驚くでしょうし、映画を先に観た人が小説を読んだら「小説ではこうだったのか!」と面白がってもらえるでしょう。それに、トリックを知った後で必ず、もう一度観たり読んだりしたくなるはず。普段は小説をあまり読まないという人も、この作品を機に面白さを知ってもらえたらうれしいですね。

いい文章を書けた日が、僕の「いい日」

── 多忙な毎日、気分転換や息抜きは何を?

 うーん……僕は小説に人生を捧げてしまっているというか、「人生が小説のためにある」感じなんですよね。だから、いい文章が書けたら、それが僕にとってのいい日。逆に、日常でどんなにうれしいことがあっても、いい文章が書けなかったら、それはいい日ではない。結局のところ「いいものを書けた」と思えることがいいことなんです。

── 作家にとって、読者はどういう存在ですか?

 僕の場合は、内面をさらけ出し、いわば「人に言えないようなこと」を書いています。ただ実は読者の皆さんも、小説の前では自らを解放し、その「言えないこと」を共有していることもある。つまり読書とは、読者と作者の濃密なコミュニケーショだと思います。作家にとって読者さんがどういう存在か、と言われたら、つまり、全てです。

── 2018年の抱負をお願いします。

 目の下のクマを薄くすること、かな……(笑)。あ、これは映画関連の取材ですよね? 2018年は僕の小説が三つ映画化されますので、それをよろしくお願いしますという感じです。執筆についての抱負? それはいつも通りです。目標は常に「前作を超えるものを書く」。これですね。


小説家 中村文則さん

1977年生まれ。愛知県出身。2002年「銃」で第34回新潮新人賞を受賞しデビュー。「遮光」(04)で第26回野間文芸新人賞、「土の中の子供」(05)で第133回芥川賞、「掏摸(スリ)」(10)で第4回大江健三郎賞、「私の消滅」(16)で第26回Bunkamuraドゥマゴ文学賞を受賞した。2012年、「掏摸(スリ)」の英訳版が米アマゾンの月間ベスト10小説、米紙「ウォール・ストリート・ジャーナル」の年間ベスト10小説に選出。2014年には、ノワール小説に貢献した作家に贈られる米文学賞〈デイヴィット・グーディス賞〉を日本人として初めて受賞するなど海外でも評価が高い。近年、作品が多数映像化されており、『火 Hee』(16/桃井かおり監督)、『悪と仮面のルール』(18/中村哲平監督)、『銃』(18/武正晴監督)など。最新作「R帝国」でも書店員が選ぶ「キノベス!2018」にて1位を獲得した。

映画『去年の冬、きみと別れ』

3月10日(土)全国ロードショー

岩田剛典 山本美月 斎藤工・浅見れいな 土村芳/北村一輝
監督:瀧本智行
主題歌:m-flo「never」(rhythm zone/LDH MUSIC)

 

STORY----------

新進気鋭のルポライター耶雲恭介(岩田剛典)。本の出版を目指す彼が目を付けたのは、 盲目の美女が巻き込まれた謎の焼死事件と、その容疑者であるカメラマン・木原坂雄大(斎藤工)。真相に近づくにつれ、彼は抜けることのできない罠にはまっていく──。

 

公式サイトはこちら

 

制作:映画「去年の冬、きみと別れ」製作委員会
配給:ワーナー・ブラザース映画

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