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2017年12月20日

いとうせいこう、宝生宗家、ジェイ・ルービンによる能楽の挑戦

  • 提供:アーツカウンシル東京

 三保の松原の羽衣伝説を題材にした能の人気曲「羽衣」を、宝生流宗家・宝生和英が演じる。
 それをサポートするのは、言葉のプロであるいとうせいこうとジェイ・ルービン。
 3人が重視する「能の文学性」とは何か。
 その舞台は私たちに、何を見せてくれるのだろうか。

イマジネーションをかき立てる舞台に

 650年の伝統を誇る能楽宝生流の若き宗家・宝生和英と、能の愛好家・研究家としても知られるいとうせいこうさん、ジェイ・ルービンさんが挑む新たな舞台。芸術文化の創造・発信に取り組むアーツカウンシル東京が伝統芸能の魅力を多くの人に広める活動の一環として実施される公演だ。今回の公演の意欲的な試みは、難しく思われがちな能楽をわかりやすくするものだろうか。

 「むしろ逆ですね。わかりやすければ面白いとは限りませんから。私たちが意図しているのは、見る人のイマジネーションをかき立てること。その結果わかりやすいと感じてもらえるならいいですが、基準はそこではありません」(宝生)

 宗家から声がかかった時、どんな舞台にするかというアイデアは、まだ漠としていた。しかし「やりたいことはすぐにわかった」と2人は口をそろえる。

 「能が苦手という人は、あらすじだけを『理解』しようとしますよね。でもダンテの『神曲』だって、あらすじはけっこう味気ないですよ(笑)。僕は今、謡を習ってますけど、掛けことばがあったり韻を踏んでいたり、実は言葉のパフォーマンスとしてすごく面白い。これを自分なりに訳してみたいということは、ずっと思っていました」(いとう)

 「私の場合、アメリカの大学でテキストとして読んだのが能との出会いだったので、自分にとっての能は初めから『文学』でした。だけどその後日本に来てみると、能を文学という私の捉え方に賛同してくれる人がほとんどいないんですね。とても驚きました。今回は、同じ視点を持つお二人と一緒に仕事ができるので、とても光栄です」(ルービン)

 舞台と客席の間に紗幕(※)があり、いとうさんの現代語訳と、ルービンさんの英語訳がそこに投影される。セリフや解説を字幕で見せるのでなく、象徴的な単語やフレーズが、ある時はぼんやりと、ある時は矢継ぎ早に浮かんでは消える。

 「幕の向こうの天女の舞と言葉とが相まって、イメージが頭の中でどんどん広がるように言葉を選びました。だから訳であって訳だけではない感じですね。ただ意図的に簡単な言葉に置き換えたりはせず、あくまで原文を生かしています」(いとう)

 「能というのは舞台の上にすべてがあるのではなく、見る人のイマジネーションを刺激することで、目の前にある以上のものを心の中に見せられる。宗家のその考え方には、私といとうさんも全く同意見です」(ルービン)

自分の心と向き合う能楽堂という空間

 言葉を映像として映し出し、風景や人物の心情をより強くイメージさせる。そうした手法こそ新しいものの、舞台上の能楽師は、あくまで普段通りに「羽衣」を演じるという。そこには、宗家の強いこだわりがある。

 「これは私の考え方ですが、舞も謡も囃子も装束も、すべてが『イマジネーションを喚起する』という目的のために研ぎ澄まされてきた結果、今ある形になったのが能なんです。わかりやすくしようとして何かを加えたり省いたりすることは、能ではない劣化版をつくるようなもので、決して能楽理解の助けにはなりません」(宝生)

 能楽鑑賞の未経験者や、良さがわからないという人にこそこの公演をすすめたいと語る3人に、改めて能の面白さとは何か聞いてみた。

 「世阿弥も夏目漱石も村上春樹も、日本文学は人の内面世界について書いたものが多いですね。春樹さんは小説の中で井戸というモチーフをよく使いますが、それは世阿弥の『井筒』にも通じます。死んだ人間や精霊など、この世に存在しないはずのものがいくらでも出てくる能は、人間の内面について考えるヒントをたくさんくれます」(ルービン)

 「大切なのは能を『勉強』しようと思わないこと。僕らの言葉も意味を解説するのが目的じゃなく、その場で感覚的に楽しんでもらうための仕掛けなんです。難しい芸術という思い込みを捨てると、謡の文学性や音楽の豊かさ、舞の美しさがクリアに見えてくるはずです」(いとう)

 「私は、能楽堂というのは心静かに自分と対話する場だと思っています。美術館の絵画や彫刻を前にした時と同じように、能の舞台はそれを見る人の内にある感情や記憶をありありと映し出してくれるからです。SNSでいつでも誰かとつながることができる世の中ですが、時にはあえてつながりを切り、一人になることも大切ではないでしょうか」(宝生)

 見た人が能の深みにハマるように、3人で深い落とし穴掘って待ってますから。いとうさんが、そう付け加えて笑った。

 ※ 演劇などに用いる薄い幕。照明の位置によって幕の奥が見通せたり、見えなくなったりする。

 宝生流第二十代宗家
 宝生和英さん
 KAZUFUSA HOSHO
 1986年、室町時代から続く能楽の名門、宝生家に生まれる。2008年東京藝術大学音楽学部邦楽科卒業、同年4月に宗家を継承。伝統を重視する傍ら異流共演や公演演出なども行う。16年東アジア文化交流使に任命。

 アーティスト
 いとうせいこうさん
 SEIKO ITO
 1961年東京都生まれ。84年早稲田大学法学部卒業。活字・映像・舞台・音楽・ウェブなど幅広いジャンルで活躍。著書「ボタニカル・ライフ」で第15回講談社エッセイ賞受賞。「想像ラジオ」で第35回野間文芸新人賞受賞。

 ハーバード大学名誉教授・翻訳家
 ジェイ・ルービンさん
 JAY RUBIN
 1941年ワシントンD.C.生まれ。芥川龍之介、夏目漱石など日本を代表する作品の翻訳多数。特に村上春樹作品の翻訳家として世界的に知られる。著書に『ハルキ・ムラカミと言葉の音楽』、長編小説『日々の光』などがある。

 能楽の水鏡 ー映像に映すイマジネーションー  第一部は宝生流第二十代宗家といとうせいこうさんによるトークショー、第二部は英訳にジェイ・ルービンさんも加わった「羽衣」を上演。普段間近に見ることのない装束や能面の展示も楽しめます。

 〈日程〉
 2018年2月12日(月・振休)13:00開場、14:00開演

 〈プログラム〉
 13:00~ 特別展示「宝生流に伝わる装束・能面~650年の歴史~」
 14:00  第一部「簡単で面白い能の愉しみ方 謡(うたい)と歌(うた)」
     出演:宝生和英、いとうせいこう
 15:00  第二部「能楽の水鏡─映像に映すイマジネーション─ 羽衣」
     総合演出・主演:宝生和英
     現代語訳:いとうせいこう
     英訳:ジェイ・ルービン

 〈会場〉
 日経ホール(東京都千代田区大手町1-3-7 日経ビル3F)

 〈料金〉
 1等3,000円、2等2,500円、学生1等2,500円、学生2等2,000円(税込み)

 〈チケット販売〉
 チケットぴあ  0570-02-9999(音声自動応答Pコード:459-926)  http://t.pia.jp/
 Peatix 0120-777-581   http://peatix.com
 ■お問い合わせ 宝生会事務局 TEL.03-3811-4843(10:00~17:00・月曜定休)

 主催:アーツカウンシル東京(公益財団法人東京都歴史文化財団)
 助成・協力:東京都
 協力:朝日新聞社

 能楽の水鏡 ―映像に映すイマジネーション―
 https://www.artscouncil-tokyo.jp/ja/events/19132/

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