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「AIはヒトに取って代わる?」NTTグループの技術者に聞く
提供:NTT
AI(人工知能)に対してのイメージが、最近変わった気がしませんか? 「AI家電」や「AIアプリ」なども登場して、AIはここ数年で本当に身近なものになりました。今見ているネットの検索にも、AIの活用が進んでいるそうです。
未来の生活には、きっとAIが欠かせないでしょう。クルマの自動運転や、健康管理、資産運用などは、AIに任せておけばラクチン。子どもの教育や政策決定までも、AIを使おうという動きもあるほどです。
でも、このまま全てをAIに任せてしまうと…。SF映画で見たように、AIが自我の意識に目覚めて、人間を支配しようとする世の中がいつの日か来るのでは? 心配になる人もいることでしょう。
そんな漠然とした不安に対し、AIはあくまでもヒトの能力を補強して引き出すものだと提唱しているのが、NTTグループのAI関連技術「corevo(コレボ)」です。NTTメディアインテリジェンス研究所で研究開発に携わり、企画部長と主幹研究員を兼任する八木貴史さんにインタビュー(全3回)をしてきました。
「AIがヒトから仕事などを全て奪って、人間に取って代わるという可能性はありますか?」
まず、冒頭の素朴な疑問を八木さんにぶつけてみました。こうやってインタビューして記事を作成するのも、将来はAIがやってしまう仕事かもしれません。既に、スポーツの結果や天気予報、企業の決算などの記事にAIを採用しているメディアもあります。
「現状のAIは、確かに囲碁や将棋はヒトより強く、特定のタスクに絞ると人間よりも優れています。しかし、全てのことができるわけでなく、人間に頼らざるを得ない部分があります」
例えば、八木さんの所属するメディアインテリジェンス研究所でも取り組んでいる音声認識技術を使えば、企業などが問い合わせに対応するコンタクトセンターで、業務を支援することができます。将来的に自動応答するチャットボットが導入された場合には、簡単な質問はAI、複雑な質問は人間のオペレーターというように、うまく役割分担することによって、丁寧な応対ができてサービス向上につながるという展望です。
「こんな話があります。チェスの世界チャンピオンがコンピュータに負けてしばらく後に、フリースタイルの大会があったそうです。人間、コンピュータ、人間+コンピュータのタッグ、どの形式で参加しても良くて、当時のナンバーワンと言われるコンピュータも参加していました。優勝したのは人間+コンピュータだと聞いて、重要なのは、ヒトがコンピュータといかにうまく付き合っていくかということだと思いましたね」
人間がより能力を発揮しやすいように、AIがヒトの活動をサポート。NTTグループが考えているのは、ヒトと共存していくAIとのことです。
歴史を振り返ると、機械化に伴っていくつかの職業は無くなったのは確かですが、新たに生まれた職業もありました。AIがヒトの能力を補完することによって、新しい仕事が生まれる可能性もあるのです。「もちろん、人間もそれに適応していかなければならないとは思います」と八木さんは付け加えました。
「corevo」は、NTTグループがAI関連技術群を集約したブランド。40年以上培ったさまざまな技術をベースに、2016年から取り組みが始まっています。
「人間に寄り添って支援し、それによって人間の能力を補強して拡張していくというのが、corevoが提供するAI技術です。NTTグループの目指すAIは、IA(Intelligence Amplification:人間の知能の増幅)という考え方に近いです」
NTTグループが「corevo」をスタートさせた背景には、昨今の「第3次AIブーム」もあります。
「世の中の関心が高まっている中で、我々が脈々と研究してきた技術の蓄積を、社会にアピールしてその価値を問い直していきたい、という思いから、corevoを立ち上げることになりました。それに加えて、積み重ねてきた研究が、ようやく本格的なサービスとして世に出せるレベルに達したというのも大きいですね」
AIという言葉が世に出てから約60年。これまでの2回のブームは、学術面での盛り上がりが目立ったのですが、ようやく私たちに身近な“世の中ゴト”として、AIが社会に定着しそうです。
映画『ターミネーター』に登場するAI「スカイネット」を代表例とする、人類に反乱を起こすという未来のAIのイメージ。宇宙物理学者のスティーブン・ホーキング博士のように、人工知能の進化を危惧する人もいます。
その背景にあるのは、ヒトとAIが対立構造にあるという、欧米のSF映画や小説に多い観点。日本では「ドラえもん」のように、ヒトと一緒に暮らして友達のように接する、親しみやすいAIというイメージが主流です。そこには、文化的な背景の違いがあるのかもしれません。
「NTTグループが目指すのは、日本らしい考え方のAI。ヒトを超えるのではなく、ヒトに寄り添うAIです」
AIが人間の知性や思考を模倣し、ヒトと対峙(たいじ)するという考え方であれば、いつかはヒトの存在を超えるエンディングとなるかもしれません。八木さんが説明した「corevo」のように、ヒトの能力を引き出して“共創”するAIであれば、人間にとってずっと良い友達でいてくれるでしょう。
「AIがヒトとヒトのコミュニケーションをうまく支援できないかと考えています。自分の経験を伝える際に、相手の経験で例えてあげると伝わりやすい。相手の経験に置き換えるのにAIがうまく機能できれば、コミュニケーションが円滑に進むはずです。ヒトとヒトの心の距離を近づけることができたら」
AIへの夢を語ってくれた八木さんですが、研究者としての自戒の念も忘れていません。
「AIは人間が作っています。作る側の人間が、AIのどの部分は自律的で、どの部分はヒトのコミュニケーションを求めるかをしっかり設計すれば、おかしなAIは出来上がりません。その意味では、我々のように研究開発している人間は、しっかりと考えてAIを作る必要があると思います」
最後に求められるのは、人間自身の倫理と意識。かつてSF作家アイザック・アシモフは「人間に危害を加えない、命令への服従、自己防衛」というロボット3原則を提唱しました。AIの時代に生きる私たちも、「corevo」が提唱するようなAIへのスタンスを意識していく必要がありそうです。