10月1日は「日本酒の日」って、ご存知ですか? 衣替えをするなど、新しい季節のスタートを感じさせるこの日は、日本酒造組合中央会が定めた「日本酒の日」でもあります。
なぜかというと、この日は日本酒においても始まりを意味するから。収穫された新米で酒造りを始めるのが10月で、以前は「酒造年度」が10月1日から始っていました。また、十二支の10番目にあたる「酉」の字は、酒壺の形が由来だとか。
日本酒は、かつてはハードルの高いお酒だったかもしれませんが、初めての人でも飲みやすい銘柄も増え、ワイングラスで飲むなどさまざまな楽しみ方が広がっています。特に、酒米や醸造法にこだわった日本酒は、素晴らしいコクやうま味を持ち、料理を引き立ててくれます。そこで、寛保3年(1743年)から酒造りを行う「白鶴酒造」の醸造担当者に、おいしい日本酒を届けるためのこだわりについて聞きました。キーワードは「山田錦」――。
日本酒の名産地といえば兵庫県。全国でも随一の酒どころの神戸・灘地方は、良質の水(宮水)と清酒醸造に適した気象条件、古来から受け継がれてきた丹波杜氏の伝統の技で知られています。実はそれだけではなく、原料となる酒米も、兵庫県産のものが高い評価を受けています。
“酒米の王者”と呼ばれる山田錦は、もともと1923年に兵庫県立農業試験場で誕生し、1936年に品種登録された酒米。幾度か品種改良が行われましたが、現在もなお、酒米の王座に君臨し続けています。全国新酒鑑評会に出品される日本酒は、約80%が山田錦で醸造されているとのことです。
山田錦の栽培地は全国に広がっていますが、兵庫県産の山田錦は別格の品質だと評されています。六甲山の北側の山間部に広がる主産地は、温暖な瀬戸内海式気候でかつ昼夜の温度差が激しいため、稲の実りが良く、微粒の粘土質の土壌も作物の生育に適しています。
白鶴酒造でも、酒造りに使う山田錦は100%が兵庫県産。同県三木市や加東市などの酒米生産地と村米(むらまい)制度と呼ばれる栽培契約を結び、質のいい米を入手しています。
「山田錦は大粒で心白(しんぱく)と呼ばれる真ん中の白い部分が大きく、安定して酒を造るのに適しています。当社は明治時代から続く村米制度を通じて生産地と結び付きが強く、今も米のでき映えを見に行ったり、生産者と情報交換したりして交流を続けています」(生産本部次長の水谷仁さん)
同社は山田錦と肩を並べる品質を目指し、「白鶴錦」という酒米を独自に開発し、他の酒蔵にも提供。米の品種改良や育種を酒造メーカーが行うのは珍しく、よりうまい日本酒を追求して酒造業界に貢献しています。
高いレベルで安定した品質を誇る兵庫県産山田錦。その香味や魅力を引き出すためには、製麹(せいぎく)、もろみ発酵などの全ての工程が大切です。白鶴酒造では醸造の工程を、熟練した技術を持つ杜氏が伝統的な手法で行うとともに、専門知識や醸造理論に基づく高度な最新設備を駆使しながら進めています。
白鶴酒造の酒造りを担うのは三つの蔵。最新技術を取り入れ通年酒造りができる「本店三号工場」。新しい装置と伝統的な設備の両方を併せ持つ「旭蔵工場」。そして、昔ながらの手法を大切にする「本店二号蔵工場」。兵庫県産山田錦は主に、10~4月に吟醸酒や特別純米酒など高級酒を造る際に本店二号蔵工場と旭蔵工場で使用されます。
これら三つの工場の責任者で、生産本部製造部門統括部長を務めているのが伴光博さん。「当社の酒造りは品質の安定性が高く、年度やロットでのバラつきが小さいのが特長です。中でも最高級の大吟醸酒は、ボイラーや冷却設備を使うものの、製造工程のほとんどを人の手で行っています。人の手で作業する方が品質のブレが少ないからです」。
同社の過去10年間(2007~16年)の全国新酒鑑評会の入賞率は97%、金賞率は83%。昨年は全国選抜清酒品評会(通称:賀茂鶴会)で一位を獲得。。飲む人に感動を与えるような最高の酒を造ることに積極的に取り組み、鑑評会や品評会で高い評価を得ています。
「日本酒の日」の10月1日には、恒例の「蔵開き」を開催。通常は入れない酒蔵(本店三号工場)の見学や搾り立てのお酒の聞き酒、約20種類のお酒の無料試飲、お得な福袋の販売など日本酒を楽しめます。今年は日曜日なので、関西にお住まいの方は訪れてみるチャンスです。
最高峰の酒米“兵庫県産山田錦”を100%使って、伝統とテクノロジーと人々の想いが醸した白鶴酒造のロングセラーが、酒米の名を冠した「特別純米酒山田錦」と「純米吟醸山田錦」です。
鮮やかなグリーンの瓶の「特別純米酒山田錦」は、しっかりしたコクがあり味わいが豊か。ブルーの瓶が印象的な「純米吟醸山田錦」は、気品あるフルーティーな香りがしてすっきりした余韻が残ります。
それぞれどんな料理が合うのでしょうか? 日本酒と料理を上手く組み合わせるコツは、味の強さを合わせること。味のしっかりした「特別純米酒山田錦」には濃い味付けの煮物、サラリとした「純米吟醸山田錦」には淡白な白身の刺身などがよく合うそうです。
生産本部主任の太田淳さんは「農家の方が気持ちを込めて作る米を、美味しいお酒に醸しています。氷を入れたロックもおススメです」と、自由な飲み方を推奨。本店二号蔵工場の工場長で丹波杜氏でもある小佐(こさ)光浩さんは「山田錦で造る日本酒は素晴らしい味がします。ご家庭の料理に合うお酒をぜひ見つけてください」と話してくれました。
秋の風情に、海の幸、山の幸。それらを引き立てる日本酒は、これからますますおいしい季節を迎えます。10月1日の「日本酒の日」には、ぜひ味わってみてはいかがでしょうか。