今、社会問題にもなっている長時間労働やパワハラなどの働き方がテーマになっていることでも話題の映画『ちょっと今から仕事やめてくる』。
5月27日(土)公開を記念して、「自分らしい生き方・働き方を考える」トークショー付き試写会が去る5月13日に開催された。
当日は本作の監督・脚本を担当した成島出さんと原作者の北川恵海さん、そしてゲストに社会学者の古市憲寿さんを迎え、熱くハートフルなトークが展開。観客の興味を引いた。
成島 原作を読んだ時、柔らかさ、優しさを感じました。実は20代の頃、親友2人が自殺し、救えなかった後悔がずっと心にありました。あの時できなかったことを本作に託し、脚本と監督をやらせて頂きました。
北川 デビュー作を成島監督に高い熱量を持って、面白くて楽しい映画にして頂き感謝しています。特に私は、ヤマモト役の福士蒼汰さんがシーンごとに笑顔を微妙に使い分けていたのと、完璧に大阪弁をマスターされていたことに感動しました。
古市 福士君、役にぴったりハマってましたね。ブラック企業に勤める青山隆役の工藤阿須加君は「死んだ目」がうまかった。タイトルで半分オチがバレているにもかかわらず、最後までハラハラしていて面白かった。物語に大事な希望と救いがちゃんと備わっている。それがこの映画のパワーだと思いました。
古市 今は青山みたいに優しくて良い子が多い。会社なんて「辞める」と言えば辞められるのに、自己中心的になれず、つらくてもそれができない。この若い人たちの優しさが、ブラック企業問題の根っこでもあるのですが。たぶん、辞める選択肢があることすら気づいていない人もいると思うので、仕事がつらい人はこの映画を観(み)るといいです。「辞めてもいいんだ」と思えるだけでずいぶん気もラクになるはず。
成島 現実にはヤマモトのように突然現れて助けてくれるヒーローはいない。でも、10人友達がいて、ある部分はA君が、ある部分はB子さんが助けてくれるといった具合に周りの人を合わせたら、案外ヤマモトに近い存在になっていたりします。
古市 そうですね。救いを求めれば助けてくれる人はたくさんいます。ネット上でもいいから弱音を吐くことは大事です。
北川 SNSをうまく使えば、自分の職場に問題があるかどうか気づくことができますよね。
古市 そうです。ただ、僕も人によく相談はするけれど、大事なことは自分で決めます。自分の得意不得意を把握しているので、勝てるゲームしかしないし。そうすると心に余計な負担もかからないんですよね。
北川 私も大事な決断は、周囲に惑わされず自分でした方がいいと思います。
古市 それと自分に期待しすぎないようにしています。自分に甘い方がラクで、結果的に自分らしく生きられる。だから基本的に僕は自分に甘いです(笑)。
成島 そうですね。日本人って何でもガチガチに考えがちだけど、もっとゆるくていいと思う。仕事も結婚と同じで相性があるもの。失敗したと思ったら別のところでやり直せばいいんです。
北川 良くも悪くも周りに合わせる風潮は日本人の欠点かも。
成島 実はこの映画で一番怖いと思ってほしいのは、誰かが上司からパワハラを受けても物言わぬ同僚がいることです。みんなが声に出して騒げば、誰も孤立しないし、何かが変わるはず。
古市 気づいているけど黙っているのは、その方がラクだから。つい僕たちは「同僚」になりがちですが、この映画を観てはっとさせられる人も多そうですね。
北川 テーマは重いのですが、私はエンタメ小説として書きました。成島監督はその意図を組んで、気持ち良く面白い映画に仕上げてくださいました。原作とは違う部分も多いので、できれば両方を楽しんでもらいたいですね。
古市 親世代にぜひ観てほしいです。「正社員がいい」「一つの会社に勤め続ける方がいい」といった親の価値観が、子どもの自由を奪い、その会社に縛りつけていることもあると思うので。
成島 この映画が、観てくださる方々の「ヤマモト」となればベスト。仕事に疲れている人たちに「明日は頑張ってみようかな」と思ってもらえたらうれしいです。
1961年山梨県生まれ。相米慎二監督、平山秀幸監督らに師事し、94年に脚本家、04年に監督デビュー。
『八日目の蟬』で第35回日本アカデミー賞最優秀監督賞受賞。
代表作に『ふしぎな岬の物語』『ソロモンの偽証 前篇:事件/後篇:裁判』。
大阪府吹田市出身。
『ちょっと今から仕事やめてくる』で第21回電撃小説大賞〈メディアワークス文庫賞〉を受賞し、同作にて作家デビュー。
他の著書に『ヒーローズ(株)!!!』『続・ヒーローズ(株)!!!』がある。
1985年東京都生まれ。
慶應義塾大学SFC研究所上席所員。日本学術振興会 有志賞受賞。
著書に『絶望の国の幸福な若者たち』『働き方は「自分」で決める』『保育園義務教育化』などがある。