のんさんが、「あの時こうしていれば」と後悔する主人公に思わず感情移入してしまったという映画『午後8時からの訪問者』。主人公のやり切れない思いと真実を追求する姿を、のんさんに語ってもらいました。
童話のような邦画タイトルだなと思ったら、作品自体は全く違うハードなストーリーでした。
若い女医のジェニーは知人の医師の診療所に代理で勤めている。診療時間が1時間過ぎてからベルが鳴った。研修医が出ようとするがジェニーは時間が過ぎているため出なくてもいいと止める。次の日、病院に警察が「昨日の夜、少女を見なかったか」と聞き込みに来る。そして昨日ジェニーが出なくていいと言った訪問者が遺体で発見されたと知り、ショックを受ける。自分のせいでという思いがジェニーを突き動かし、ジェニーは名前も分からない少女のことを調べていく。
「あの時、こうしていれば」という後悔は誰にでもたくさんあるのではないでしょうか? 私も後から恥ずかしくなったり、こういうことだったのか!と気付いて悔しくなったりと「あの時、こうしていれば」がいっぱいあります。
でもほとんどその思いはいずれ忘れてしまうようなことです。この映画には忘れることのできない「あの時、こうしていれば」が描かれていて、危険を顧みず自分一人で真実を追求しいくジェニーの姿がとてもリアルに胸に突き刺さってきました。
自分がちゃんと対応していれば、少女は生きていたのではないか、という後悔の気持ちがジェニーを動かすのですが、ジェニーの、誰に止められても危険な目にあっても構わず追求していくその姿が、既に死んでしまった少女を救おうとしているように映ってとても切なかったです。何かが分かっても、やっぱり自分が助けられたはずという思いは変わらない、やり切れなくなるのです。
事件の裏で、何かに関わってしまった人はどうすればいいんだろう……と一瞬よぎって消えていく疑問が、淡々と進んでいく映像によってより日常的に心に入ってきました。犯人でもなく、刑事でもなく、被害者とすれ違ってしまった人……。私だったらどうするんだろう。こんなに強い意志で少女のことを知ろうと進んでいけるのか。ジェニーの迷いのなさに、静かにずしりと感銘を受けました。
この映画のジェニーのような強い意志は、私達の中にもひっそり眠っているかもしれません。ただジェニーという医
師の追求する姿にいつのまにか思い入れをしている。私にとって不思議な魅力のある映画でした。
ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ監督作品。4月8日(土)、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか、真実を探すロードショー!
のん/女優、創作あーちすと。1993年兵庫県生まれ。映画『この世界の片隅に』で声優デビュー。「戦時中の広島を舞台にしたステキなアニメ映画です!」