IT・科学
人工知能が「できないこと」って…ロボットと結婚、宗教が消える?
提供:日本電信電話株式会社
特別講演
「AI×ビッグデータ×IoTの織りなす未来社会」
日本電信電話株式会社 コミュニケーション科学基礎研究所 所長 前田 英作
人工知能(Artificial Intelligence; AI、以下AI)が私たちの仕事を奪うのではないかと騒がれていますが、AIによる未来社会はどうなるか、先に結論を示したいと思います。
まず一つは、AIの関連技術が織りなす将来像は極めて広範であるにもかかわらず、現在マスメディアなどで騒がれているのはそのごく一部だということ。AIは潜在的な可能性を秘めているため、我々の持っている技術、あるいは潜在的な技術を使って、将来社会に対してどう活かせるか、知恵を絞るなら今です。
次に、AIと人間の融合に向かうと考えられています。ロボットと人間が一緒になるわけがないと思われるかもしれませんが、確かにハード面では、人工心臓や義手義足といった、部分的に活用して使う側面はありますが、機械と人間は生命と非生物の違いがあるから融合するはずはありません。ところがハードウェアではなくソフトウェアという観点に立つと、もう実際に何十年も前からAIと人間、機械と人間、コンピュータと人間の融合は進んでいるとみることができます。
過去の歴史を振り返ると、例えば音楽鑑賞や電話がその典型ですが、アナログからデジタル、デジタルからネットワークへと進化しました。ここで大事なポイントは、デジタル化により画質・音質が良くなったことではなく、完全な複製を簡単に作ることができるようになった点です。そしてネットワーク化が進むことで、複製したデータを集積、あるいは再配布できるようになったのです。
日常生活における人と人とのコミュニケーションの記録はもとより、人間以外の活動、つまり、自然環境、人間が作った工場、車・トラフィックなどの活動すべてが記録され、複製され、集積されています。そしてそれを賢く使うことによって、新しい世界が生まれようとしているのです。
AIがどれだけ進歩しても、例えば、ニュートンの物理法則を変えることは明らかにできませんし、DNAで規定された人間の本性を超えることもできません。こうした明らかにできないという制限事項をもとに、これからのAIを使って我々は何ができるだろうかと考えていかなくてはなりません。「ロボットと結婚するかもしれない」「宗教がなくなるかもしれない」という荒唐無稽に思われる将来像さえ、真剣に考えるべき時が到来しつつあります。
NTTグループでは「corevo」というAI技術のブランドを立ち上げました。これはcollaboration(連携)、evolution(進化)の二つを組み合わせた造語です。「corevo」は多種多様な技術から成り立ちますが大きく4つのAI、Agent-AI、Ambient-AI、Heart-Touching-AI、Network-AIに分けることができます。
Agent-AIは人間が蓄えた知識を活用し、言葉、感情、表情を理解し、臨機応変な情報提示を行います。例えば、お客さまセンターの窓口業務支援代替や高齢者の見守り、秘書サービスなどに活用されます。
Ambient-AIは環境知能、人工物、自然環境、人間といった森羅万象のデータを読み解き、それらを踏まえて何が起こるかを予測、制御します。具体的には災害予測、都市の交通整備・自動運転、工業生産の制御などに活用できます。
Heart-Touching-AIは、人間の心・身体、深層心理、知性、知能・本能を理解します。スポーツの上達、メンタルウェルネス、人間関係の向上といった分野で活用できます。
Network-AIはNTTならではの技術で、巨大なデータベースを扱う際、ネットワークを介して複数のAIを結びつける新しい構造体です。環境問題や都市問題など地球規模の全体の最適化に活用が期待されます。
このように「corevo」という名前のもとに4つのAIを定義しました。実はこの背景には今まで培ってきた、様々な技術があります。これらを組み合わせて4つのAIを意識し、また新しい社会に、NTTとしては挑んでいくということを考えています。そして、新しいAIの世界は専門家が使う道具ではなくなってきています。子供たちでさえ容易に扱い、操作する世界がそこまで来ています。AIによって、我々の生活する社会の世界観が全く変わるのではないかと考えています。
考えてみると、人間はこれまでにも様々な技術を生活に取り込み、進化をしてきました。今、私たちは、メールやSNS、GPSでの記録など、日々、膨大なデータを残しています。そのデータを活用する技術がAIならば、もはや人間とAIは切っても切り離せない関係になっています。よく「仕事を奪われる」「機械に支配される」などと警戒されるAIですが、そんな時代はとっくに過ぎていて……。私たちの抱える問題の解決を手伝ってくれる相棒として考える時代になっているのかもしれません。