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NHK〝尖ってる〟コンテンツの背景 自らイメージ壊す「現代感覚」

テレビ離れと言われて久しい時代に、なぜNHKが再び活気づいているのか。=NHK放送センター、東京都渋谷区、2023年6月撮影
テレビ離れと言われて久しい時代に、なぜNHKが再び活気づいているのか。=NHK放送センター、東京都渋谷区、2023年6月撮影 出典: 朝日新聞社

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今年1月からシーズン3が始まった『天然素材NHK』、昨年放送された『タイムループ平成 #1 1993-2006』やドラマ『3000万』など、昨今のNHKはSNSを中心に“尖っている”と評価されるコンテンツが増えている。テレビ離れと言われて久しい時代に、もっとも長い歴史を持つテレビ局が、なぜ再び活気づいているのだろうか。(ライター・鈴木旭)
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貴重映像が次々「天然素材」

NHKにアーカイブされた過去の番組の、ユニークな名場面を次々と紹介する『天然素材NHK』(NHK総合)が面白い。

公式の番組紹介からして“テレビ放送開始70年の節目に、かつてネットをざわつかせたあのアーカイブス番組が帰ってきた!”“何かと大変な世の中だから…自由すぎる映像の贈り物!”“あまり動かないアニメもあるよ!”などと、他の番組とは一線を画している。

番組MCは、「N川H男」と「N田H美」、ゲストコメンテーターは「N井H郎」。いずれも劇画調のアニメキャラで、番組の合間に登場してはシュールなやり取りを繰り広げる。メインとなる過去映像もコミカルなものが多く、素材本来の面白さを現代の感覚で続けざまに紹介していくのが特徴だ。

例えばもう半世紀前になる1980年7月放送の『ばらえてい テレビファソラシド アナウンサー大特集』では、名アナウンサーの鈴木健二が放送作家・作詞家として知られる永六輔(えい・ろくすけ)に“アナウンサーとして正しい所作を教える”という珍しい画を見せてくれる。

最初に鈴木から「あなたの小学校のときのことを話してごらんなさい」と言われ、席に座った永が話す前に「えー」と口にした途端、猛烈な速さで「あなたの名字が永ってことは最初からわかってんだから」とピシャリ。間もなく机の上に手を置く距離、姿勢の悪さを注意され、一向にアナウンスの練習ができずタジタジの永の姿が印象的だった。

また、1977年9月放送の『歌のグランドショー -9月芸能10大ニュース』では、今ではレジェンドとなっている出演者が、当時の歌番組らしいちょっとした寸劇とステージを繰り広げていた。

まずアナウンサーが、世界記録となる通算756号ホームランを放った巨人・王貞治のニュースに触れると、そこへ水前寺清子がボールを手にやって来て「サイン入りのものもらっちゃった」と歓喜。続けて松崎しげるがバットを、泉ピン子がヘルメットを手にやって来て大はしゃぎし、最後に和田アキ子が登場して「私なんかね、王選手の一本足もらっちゃった」と大ボケをかましオチとなる。

その後、和田アキ子と泉ピン子が、当時の女子プロレスを沸かせ歌手デビューも果たしたビューティ・ペアのヒット曲「かけめぐる青春」をデュエット。今となっては、このふたりの組み合わせ自体が珍しい。歌唱が終わり幕が閉まると、アナウンサーが「大変な傑作のビューティ・ペアでございました」と笑顔で締めるあたりも時代を感じさせる。

その他、正拳突きなどの体の動きを連動させてネイティブな英語の発音法を習得する“英会話体操”にスポットを当てた『ルポルタージュにっぽん 当世有名人英語番付』(1980年2月放送)、1億円の札束を拾って注目を浴びた大貫久男さんのドキュメンタリー『1億円の落とし物時効~大貫さんのものに~』(1980年11月放送)など、ユニークかつ貴重な映像が次々と流れる。

これに加えて、淡々としたナレーションも番組のシュールさを倍増させている。2020年から2021年にかけてパイロット版が放送され、2023年にレギュラー化。2024年にシーズン2、今回でシーズン3を迎えたのも納得の見応えだ。
 

たまごっちを供養する名作

昨年12月に放送された『タイムループ平成 #1 1993-2006』(NHK Eテレ)も、同局ならではの趣があった。

1993年から2006年の出来事を特集したNHKの過去番組を紹介し、31年続いた平成の時代をミニドラマ、番組の映像、インタビューで振り返る内容だ。なでしこジャパンの元キャプテン・澤穂希の初々しい姿も新鮮だったが、何より目を引いたのは“たまごっちブーム”にまつわるパートだった。

当該番組は、1997年12月放送の『モノの終わり「ゲームの終焉 ~いとうせいこうが行く 電脳社会の果て~」』(NHK総合)。当時、爆発的な人気を誇った電子ペット・たまごっちの死を供養する寺と育児ブログをたどった名作だ。

作家・いとうせいこうが人と電子ペットとのかかわりを追いながら、ゲームの終わりや心のないものに命を感じてしまう現象そのものについて考察していく。それを見た「現在のいとう」が特に印象に残った場面を「(筆者注:寺の供養で)お爺ちゃんとお婆ちゃんがわけもわからず(筆者注:たまごっちの)新品を持って帰ってるところ」と感慨深げに語っていたのが印象的だった。

「『言われてきたんだろうな』っていう(笑)。あの人たちは供養するつもりは別にないんですよね、孫に言われて来てる。(中略)映像のいいところはそれが映ってるってことなんですよ。これはできないんですよ、小説では。で、そこに本質があるケースが大抵だからね」

かねてよりテレビの過去映像を振り返る特番はあったが、2022年に日本テレビの映像ライブラリーに眠っていたお宝映像を紹介するTverオリジナル番組『神回だけ見せます!』が配信され、『ダウンタウンvsZ世代 ヤバイ昭和 あり?なし?』(日本テレビ系)が好評を博して以降、アーカイブから企画を広げる番組が続々と登場。その傾向は今も続いている。

昨年2024年に昭和と令和を行き来するドラマ『不適切にもほどがある!』(TBS系)がヒットしたことも記憶に新しい。テレビ史において、昭和や平成を振り返る企画がここまで多用されたのは初めてではないだろうか。そんな中、もっとも古い歴史を持つNHKが存在感を示し始めたのだろう。
 

イメージを刷新する番組作り

このように、過去のアーカイブを番組化するチャレンジの一方で、新たな独自コンテンツも生み出し続けているNHK。あるテーマを深掘りし、見応えのある番組として成立させるのにも長けている。

2016年からレギュラー放送が始まった『ねほりんぱほりん』(NHK Eテレ)は、その代表例ではないだろうか。

モグラのぬいぐるみである、ねほりん(山里亮太)とぱほりん(YOU)が、ブタのぬいぐるみ(ゲスト)を招いて赤裸々なトークを展開する。ゲストは「整形する女」「パパ活女子」「元極道」「元詐欺師」「派遣型風俗のドライバー」など“ワケあり”ばかりだが、これをかわいらしく人形劇で見せる演出が秀逸だ。

一方で、今年1月放送の『名曲考察教室』(NHK総合)は、ひと味違った工夫が見られた。

番組内容は、令和に活躍するタレントが昭和・平成の名曲の歌詞を考察し、ミュージックビデオ(MV)化するまでを披露するというもの。令和ロマン・髙比良くるまは奥田民生の「さすらい」、渋谷凪咲は中島みゆきの「悪女」を読み解き、ホワイトボードを使って自由気ままにイメージした物語を発表する。

その後、今注目を浴びるクリエーターが制作したMVを見せることで、物語が画として具現化される点も味わい深い。ある作品の制作過程を明け透けに見せることで話題化を狙うというのは、連続ドラマの考察、ファンアートやショートストーリーがSNS上で盛り上がる昨今の状況を逆手に取っているようにも感じる。

また、2018年からレギュラー放送されている『沼にハマってきいてみた』(NHK Eテレ)は、10代が熱中する多様な趣味の世界を掘り下げていく人気番組だ。あくまで“10代がハマる世界”を追うシンプルな構成が、民放バラエティーとは違った活気を生んでいるように思う。

『はなしちゃお! 〜性と生の学問』(同。2022年から不定期に放送)のような番組も教育テレビならではだ。「堅い」「マジメ」「はみ出さない」というNHKのイメージも根強い中、むしろ学問として“ど直球なスタンス”で性や生の謎に迫っている。

『沼にハマってきいてみた』と『はなしちゃお!』、どちらもメイン出演者としてラランド・サーヤが起用されていることも興味深い。お笑い芸人、芸能事務所の社長、音楽活動を行うアーティストの顔も持つ彼女は、多彩な才能と庶民的な感覚を併せ持っているように見える。NHKは従来のイメージを刷新するべく、そんなサーヤを求めたのではないか。
 

海外の手法を取り入れた挑戦

ドラマに目を向ければ、昨年10月から11月にかけて放送された『3000万』(NHK総合/NHK BSプレミアム4K)が、ギャラクシー賞 2024年11月度月間賞を受賞するなどヒットしている。

安達祐実を主演に、「ほんの少しだけ幸せな生活を求めただけなのに、気づけば泥沼にハマっていく」様を描いた先の読めないストーリーが作品として高く評価されたのはもちろん、NHKで新たに立ち上げた“脚本開発チーム”である「WDRプロジェクト」から生まれた土曜ドラマという点でも話題になった。

これは、海外のシリーズドラマ制作のように、複数の脚本家がセリフ、構成などの得意分野を分業して仕上げるチームを作って臨んだプロジェクト。2022年に発足し、『3000万』はその第一弾となる。

2025年、WDRプロジェクトは第2期を開始することを発表。第2期プロデューサーの上田明子は、以下のように熱の入った言葉で、追加メンバーを募集している。

<どんなジャンルであれ追及したいのは、海外ドラマの話法を取り込んだ【予想外の展開が連続する語り口】と、多様なアイデアを複数人で緻密に組み上げる【チームライティング】です。これを前提とした上で、エンタメ性とテーマ性を両輪とした、強力な物語を作りたい。まだ見ぬ物語の鉱脈を共に探し出し、表現することを目指す、野心あるストーリーテラーを求めます。>

こうした番組がSNSで視聴者から“尖っている”と評されることも多い。もっとも長い歴史を持つテレビ局が、動画配信の時代に本気で戦う姿勢そのものが、NHKコンテンツを強化しているのだろう。
 

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