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hideさんと交わした〝約束のチーズケーキ〟 今も作り続ける理由
ライブで偶然見かけたカフェの看板メニュー「約束のチーズケーキ」。なぜそんな名前のメニューなのか、店主に尋ねてみると……。そこには、店主の娘が生前、X JAPANのhideさんと交わした〝約束〟の物語があると知りました。(朝日新聞記者・滝沢貴大)
そのカフェは、神奈川県藤沢市のJR藤沢駅からほど近いビルの地下1階にありました。
ライブハウスの入口に隣接する形で開かれており、店名も、看板メニューと同じ「約束のチーズケーキ」。ここで頼んだものはライブ中も飲食できるとのことで、コーヒーとチーズケーキを注文しました。
レモンが効いた大人っぽいケーキに舌鼓を打ちながら、なぜ「約束の」という名称なのかが気になり、後ほど話を聞いてみました。
カフェの店主は和歌山出身の貴志(きし)和子さん(73)。
持病の治療にコロナ禍も重なって2022年1月に夫と藤沢へ移り住み、お店も移転したのだといいます。
もともとは市職員だったという和子さんが、カフェを開くことになったのは、娘の真由子さんの病気がきっかけでした。
幼いころから、脳の神経活動が妨げられ、思うように体が動かせなくなる難病「GM1ガングリオシドーシスタイプ3」と闘っていました。医師からは20歳までは生きるのは難しいと言われたといいます。
娘といる時間を増やしたいと考え、「音楽があふれ、みんなで集まれるカフェ」をオープンしました。
そんな真由子さんには、大好きなミュージシャンがいました。X JAPANのギタリスト、hideさんです。
部屋はポスターだらけで、家族でライブのビデオを見たり、小学5年生から入院生活が始まった後も、病室で毎日CDを聞いたりしていたといいます。
そんなhideさんと、真由子さんが14歳のころから、難病患者の支援団体のつてで、家族ぐるみの交流が始まりました。
「hideちゃんは、本当に親身になって真由子のことを考えてくれました。一言でいうと、優しい人。あんなに気配りができる人はそういないと思います」
お見舞いで励ましの言葉をかけてくれたり、ライブに招待してもらったり。
「hideちゃんは、『病気が治ったら』みたいな先の話じゃなくて、『頑張って2カ月先のライブに来てよ』って言い方をいつもしてくれていた。だからこそ、真由子も目の前の闘病生活を頑張れていたんじゃないかと感じています」
和子さんお手製のチーズケーキが好きだった真由子さん。カフェでも提供を始めました。
「闘病中は食べられなくて、hideちゃんからも元気になったらチーズケーキを食べようなとメッセージをもらっていて。それが『約束』の由来です」と語ります。
hideさんは1998年に急逝し、真由子さんは2009年に亡くなりました。
でも和子さんは、その後もカフェを続け、「約束のチーズケーキ」を出し続けてきました。
「『二人に食べてもらいたい』という思いで、レシピも変えず、今でも毎日手づくりで作り続けています」
hideさんのことは知っていましたが、「約束」のことは知らなかったので驚きました。ただ、二人のエピソードはhideさんやX JAPANのファンの間では有名とのこと。今でも多くの人たちが「約束のチーズケーキ」を食べに訪れているといいます。
「毎日hideちゃんの思い出話を聞いたり、二人の話をしたりしているので、亡くなってからそんなに時間が経った気がしないし、忘れずにいられます」
藤沢に移転したことで、「行きやすくなってよかった」と喜んでくれる関東在住のファンも多いそうで、生前のhideさんを知らない若い世代が調べてきてくれることもあるそうです。
「『ケーキおいしいね』って言ってくださるお客さんと二人の思い出話をするのが日々の楽しみだし、私の生きがいです」
二人の「約束」は、いまでも多くの人たちを笑顔にさせています。
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