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IT・科学

骨髄ドナーは〝選ばれし勇者〟3回経験した夫婦「健康のおすそわけ」

水谷さるころさん・野田真外さん

「勇者に選ばれた」という気持ちでドナーになってもいいのでは、と話す水谷さるころさん。骨髄移植について紹介する漫画「勇者モリオ」を描きました
「勇者に選ばれた」という気持ちでドナーになってもいいのでは、と話す水谷さるころさん。骨髄移植について紹介する漫画「勇者モリオ」を描きました 出典: 日本骨髄バンク「勇者モリオ」

目次

「えっ? ご夫婦でドナーの経験があるんですか?」 ふたりで計3回の骨髄移植を経験した漫画家の水谷さるころさんと、映像ディレクターの野田真外(まこと)さんは、医療関係者や友人たちに経験を話すと、そんな風に驚かれるそうです。ハードルが高そうに感じる骨髄提供ですが、ふたりとも「健康のおすそわけをしただけ」と淡々と振り返ります。(withnews編集部・水野梓)

宝くじが当たるレベル?夫婦で適合

「『また骨髄バンクから手紙がきてるよ~』と言って夫に渡したら、実は自分の適合通知書だったんです」

漫画家・イラストレーターの水谷さるころさん(47)は、自身に適合のお知らせが届いた4年前を、そう振り返ります。

白血病など血液の病気の治療で必要な骨髄移植。ボランティアで登録したドナーと患者の仲介をするのが日本骨髄バンクです。

白血球の型が適合するのは数百から数万人にひとりともいわれ、1度も提供せずに55歳で〝引退〟するドナー登録者もいます。

夫婦でドナーを経験した水谷さるころさん(左)と、野田真外さん。配偶者が同席した説明時にも配布されるため、「骨髄移植のハンドブックが家にたくさんあります」と笑います
夫婦でドナーを経験した水谷さるころさん(左)と、野田真外さん。配偶者が同席した説明時にも配布されるため、「骨髄移植のハンドブックが家にたくさんあります」と笑います 出典: 水野梓撮影

一方で、年間2000人ほどが移植を希望し、そのうち提供に至るのはおよそ半数。2人に1人ほどしか提供を受けられていない現状があります。

そんななか、水谷さんの夫の野田真外さん(56)には、適合通知書が3回も届き、2017年には骨髄提供まで至っていました。

水谷さんは「夫は日本人に多い型なのかもしれません。だから今回も夫宛てだろうと思ったら、自分宛てだったので驚いて。夫とともに『夫婦で選ばれるなんて、こんなことあるんだ! すごいすごい!!』と興奮しました」と言います。

水谷さんが骨髄移植の体験をマンガにした『骨髄ドナーやりました!』
水谷さんが骨髄移植の体験をマンガにした『骨髄ドナーやりました!』 出典:『骨髄ドナーやりました!』(少年画報社)

「宝くじが当たるレベル。せっかく選ばれたんだから、絶対にやりたい」という思いを強くしたそうです。

しかし病院での健康チェックに同行した骨髄バンクの担当者からは「人を助けたい気持ちが強いと、無理をしてしまう人がいる」と心配されたそうです。

水谷さんは「もちろん『人を助けたい』思いはありましたが、割合でいうと2割ぐらい(笑)。正直、『やったことのないことをやってみたい』という好奇心が勝ったんです」と話します。

献血会場で登録した骨髄バンク

ふたりとも、もともと献血の習慣がありました。野田さんは「仕事の打ち合わせが急になくなった時に、お茶も飲めるし、暇つぶしも兼ねて献血するようになって、今では定期的にやってます」と言います。

一方で水谷さんは「献血が大好き」とのこと。「自分の健康チェックにもなるし、みんなお礼を言ってくれるし、すごく好きです! とりやすい血管だと褒めてもらえるし、これも私の才能かなって」と笑います。

出典:『骨髄ドナーやりました!』(少年画報社)

俳優・夏目雅子さんや歌手・本田美奈子さんといった白血病になった著名人のニュースで骨髄バンクのことは知っており、献血会場で声をかけられて登録したそうです。

野田さんは「誘われて『まぁ、やるか』ぐらいの感じだったと思います」。

水谷さんは「登録はしましたが、なかなか患者さんと型が合致しないとも聞いていたので、自分が提供するなんて思いもしなかったです」と振り返ります。

「自分にもうひとりの命が乗っている」

海外へ行く予定があった水谷さんにあわせ、骨髄提供の手術日は数カ月後に決まりました。

骨髄バンクの担当者からは「提供に向けて、患者さんは1カ月前から自身の細胞をやっつける治療が始まり、命の危険がある」と聞いていました。

出典:『骨髄ドナーやりました!』(少年画報社)

水谷さんは「さまざまな健康チェックが済み、家族の最終同意も終わっていよいよ1カ月前からは、自分にもうひとりの命が乗っているような気がしました。『交通事故に遭うわけにいかない』『体調を崩すわけにいかない』という気持ちが強かったですね」と話します。

コロナ禍の2020年、53歳で2度目の骨髄提供を体験した野田さんも、「コロナにかかるわけにいかないと思って、体調には配慮していましたね」と振り返ります。

術後に痛みはあったけれど…

ふたりとも骨髄提供は3泊4日の入院でした。野田さんは「私たちは二人とも自営業なので、仕事の調整はしやすいんですよ」と言います。

提供はボランティアですが、ふたりの住む都内の自治体には1日2万円の助成制度がありました。水谷さんは「自営業は休みやすい反面、有給やドナー休暇制度はないので、助成金はありがたかったですね」と語ります。

全身麻酔をかける手術で提供するため、リスクはゼロではなく、医師たちからも事前に説明があります。

水谷さんは「でも、ほとんどの人が何もなく日常生活に戻っていると聞き、夫婦ともに何とも思いませんでした」と言います。

出典:『骨髄ドナーやりました!』(少年画報社)

2回のドナー体験で痛みが少なかった野田さんに比べ、水谷さんの場合は、麻酔が抜けるときの副作用があったり、術後の3カ月間は右側のおしりの部分が筋肉痛のように痛んだといいます。

とはいえ、水谷さんは「症状のある間はバンクの担当者がフォローしてくれるので、不安はなかったですね。30時間の陣痛に耐えて緊急帝王切開になった出産に比べたら、つらさは半分もなかったです」と話します。

「『また提供しますか?』と聞かれたら、『あのくらいで人の役に立てるなら、全然やります!』という感じですよ」

骨髄提供、大それたものではなく

骨髄提供の体験を「すごいこと」とは捉えず、「健康のおすそわけをしただけ」とあっけらかんと話すふたり。

野田さんは「ドナーというと『苦しむ誰かのために』と献身的な人として描かれがちですが、そうではなく僕たちのように『面白そう』と臨む人もいるんですよね」と話します。

2回、骨髄提供を経験した野田さん。病院のスタッフから感謝の手紙やメッセージをもらったといいます
2回、骨髄提供を経験した野田さん。病院のスタッフから感謝の手紙やメッセージをもらったといいます

水谷さんは「私は『人の役に立ちたい』という欲望が強いので、その欲望との向き合い方には気をつけようと思っています」と言います。

以前、友人が病気になった時、「何かしてあげなきゃ」と考えすぎて、関係が悪化してしまったことがあったそうです。

「身近な人が病気になると、自分が健康だと罪悪感を持ってしまいがちです。病気の友人に対して『自分が無力だ』という現実から逃げたくて、何かしなきゃと焦ってしまったんだと思います」と振り返ります。

出典:『骨髄ドナーやりました!』(少年画報社)

献血や骨髄提供をした経験は、「自分は自分にできることはやった」と感じられ、水谷さん自身を救ってくれるといいます。

「ドナー提供は『誰かのために自分を犠牲にした』という大それたものではなく、『情けは人のためならず』そのもの。『自分のために提供した』という部分が大きかったと思っています」

骨髄ドナーの経験、まるで「勇者の冒険」

現在の骨髄バンクのドナー登録者は半数超が40代以上。今後10年以内に22万人ものドナーが減ってしまうともいわれ、若い世代のドナー登録が喫緊の課題になっています。

水谷さんは「採血が平気とか健康状態がいいとか、もちろんドナー登録には向き不向きがあると思いますが、私は『勇者に選ばれた!』という気持ちで前向きにやってもいいと思うんです」と話します。

出典:日本骨髄バンク「勇者モリオの冒険」
「型が合えば『勇者の剣』を抜くことができる。さらに検査を受けた結果、健康であれば『勇者の地図』が渡されます。でも、戦うのは自分だけじゃない。医療関係者や骨髄バンクの担当者さんというパーティーの力を借りて、提供までたどりつきます。私にとっては、まるで冒険みたいな感じでした」

水谷さんは自身の体験を、マンガ『骨髄ドナーやりました!』(ヤングキングコミックス)で描き、骨髄バンクの啓発マンガ「勇者モリオの冒険」も描いています。

▼日本骨髄バンク「勇者モリオの冒険」
https://www.jmdp.or.jp/about/read/manga/

「実際に魔王と戦うのは患者さんなので、その武器を渡しにいく冒険という感じでしょうか。だから、そこまでハードルが高いと思わなくてもいいんじゃないかって思うんです」

骨髄提供を2回経験した野田さんは「ちょっと大変な献血、という印象です」と言います。

「まさか50歳を過ぎて提供するとは思いませんでしたが、『役に立つならどうぞ』という気持ちです。もっと気軽に登録してもいいんじゃないでしょうか」

出典:日本骨髄バンク「勇者モリオの冒険」

水谷さんは「みんながみんな、私たち夫婦のような考えを持つとは思いませんが、『勇者になってみたいな』と思う人もいるんじゃないかな、と思うんです。そんな風に〝向いている人〟は、ぜひドナー登録をしてみてくれたらいいなと思います」と呼びかけています。

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