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水ダウ・名探偵津田、盛り上がる〝考察〟SNSを意識したストーリー
支持される理由とは
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支持される理由とは
12月17日、『水曜日のダウンタウン(以下、水ダウ)』(TBS系)の人気企画「名探偵津田」の第4話「電気じかけの罠と100年の祈り 前編」が放送された。注目を浴びる半面、回を重ねるごとにハードルも上がっている。それでも、支持され続ける理由とは?(ライター・鈴木旭)
※以下、ネタバレを含みます
「もうもう何なんマジでもぉ~う! ええやん、何でこんなさ、こんな長いことやってたん俺ぇ~」
そう声を張り上げ、ダイアンの津田篤宏は地べたにしゃがみ込んだ。事の発端は、11月26日に『水ダウ』で放送された企画「電気イスゲーム2025開幕戦」。「1」~「12」の数字が書かれたイスを奪い合う心理戦を繰り広げる中、劇団ひとりが津田の仕掛けた電気イスのビリビリを受けて前のめりに倒れ、「死亡」してしまった。
津田がひとりのカバンを漁ると、免許証に本名の「川島省吾」ではなく、「江田島省吾」との名義が。スマホのLINEには「実家」の跡取り問題で揉める父親とのやり取り、母親からの手紙には「『100年続いてきた江田島家を自分の代で終わらせたくない』というお父さんの気持ちも理解してあげてほしい」とあり、封筒には群馬県館林市内の住所が書かれていた。
この情報を足掛かりに、津田は番組AP(アシスタントプロデューサー)・高木尚美とともにひとりの実家へと直行。そこは、日本建築の古風なお屋敷だった。訪問して間もなく、密室でひとりの父親・江田島皇次の死亡が確認される。皇次の手には万年筆。ダイイングメッセージはボールペンで書かれており、他殺の可能性が浮上する。その場にいたのは、母親・幸子、弟・玖馬、妹・玲子、父親の主治医・たくや、使用人・権蔵の5名。
玖馬は今年8月放送の別企画「芸人なら自分のネタと同じ状況が現実に起きたら完璧にツッコめる説」でカラオケ店員として津田と共演しており、たくやも双子コンビのザ・たっちとして知られているだけに怪しさが漂う。「1の世界(フィクション)と2の世界(現実)」が揺らぎ始め、早くも津田は「も~うワケわからんなんねん!」と悲鳴を上げることに。
今回もっとも注目すべきは、100年前の世界に移動するSF要素が差し込まれている点だ。津田は映画『Back to the Future』のデロリアンを思わせる自動車型タイムマシーンでタイムトラベルして事件の真相解明を目指す。
寝室に現れたセクシーな女性の幽霊、100年前の実家で出会ったひとりの祖先、金庫の中から出てきた家系図、玖馬の死……。物語の全貌が少しずつ明るみになっていく中で、2023年放送の第2話から常連となっているみなみかわが、今回も架空の企画「開かずの金庫ロケ」の撮影中に津田と再会する形で途中参戦した。
前編は、100年前の名字が「江田島」ではなく「山田」だったことが判明する衝撃的なシーンで幕を閉じた。これを見届けたスタジオゲストの麒麟・川島明が「今回ドラマおもろ過ぎて津田いらないかも」と漏らし笑わせていたが、そう言いたくなるほどのクオリティーだったのは間違いない。
昨年から「名探偵津田」は、年末の特別企画となりつつある。何より人気なのは、主人公である津田篤宏のキャラクター性にほかならない。
今回の第4話でも、自身の事務所マネージャーに「クソ大根」、皇次の遺体に「気持ち悪っ!」などと暴言を吐いているが、そのナチュラルボーンな面白さは、津田が“怒られても反省しない男”としてゲスト出演した2020年4月放送の『しくじり先生 俺みたいになるな!!』(テレビ朝日系)に集約されていたように思う。
例えば、教壇に立つ津田が「(筆者注:怒られても)すぐに忘れちゃう」と口にしたシーン。生徒役の黒木ひかりから「メモっときゃいいじゃないですか」と提案を受けると、これに真顔で「(ペンを走らせるマイムと同時に)……どこに?」と切り返し、ハライチ・澤部佑から「人それぞれでしょ!」とツッコまれて爆笑を生んでいた。
津田をよく知る先輩芸人3人がVTR出演し、あきらめに近い声を漏らしていたのも印象的だ。サバンナ・高橋茂雄は「怒っても仕方ないという域に達している」、小籔千豊は「人ですごい態度を変えてます」「僕のことを芸能人と会わす、ご飯おごるおっさんとしか思ってない」、千鳥・大悟は「許してきた僕らが悪いのかも」と口を開く。
ただ、興味深いのは一様に「かわいい」「面白い」とも感じていることだ。大悟は最後に「まんまのあれ(筆者注:津田)を周りが愛してしまった」と語っていた。『水ダウ』でブレークした安田大サーカス・クロちゃんと同じく、私利私欲が垣間見える人間臭さに視聴者も魅了されてしまったのだろう。
『2025 新語・流行語大賞』30語にもノミネートされた「長袖をください」は、まさに「企画を成立させ、タレントとして売れたい」「極寒の新潟ロケなんて絶対に嫌」という相反する気持ちの揺れを表したキラーワードではないだろうか。
「名探偵津田」のヒットは、番組演出を務める藤井健太郎氏の手腕によるところも大きいだろう。
放送作家・高須光聖氏の公式サイト『御影屋』の対談の中で、「中学生ぐらいで『電波』を見て。なんとなく、『面白そうだなぁ、テレビの裏方の人は』と」と語っている通り、そもそも『進め!電波少年』(日本テレビ系)のような刺激的な企画を好んで見ていたようだ。
一方で、2016年発売の著書『悪意とこだわりの演出術』(双葉社)では、「構造で遊んでいるモノが好き」「オチがキレイだったり変わっていたりするモノも好き」と書いており、自身が手掛けて楽しかった企画として『クイズ☆タレント名鑑』(TBS系)の「GO!ピロミ殺人事件」を挙げている。
当該ドラマは、番組の定番コーナー「モノマネ芸人いる?いない?クイズ」を実施する中、最後に指名されたモノマネ芸人GO!ピロミの登場シーンで幕が上がると本人が倒れていて微動だにせず……というシーンからスタート。以降、番組アシスタントの枡田絵理奈アナウンサーが探偵役となって事件の解決へと奔走するミステリーだ。
藤井氏は、前述の著書の中で「伏線をちゃんとバラエティ収録のクイズパートにも張って、いくつもフリを効かせました」「パネラー出演者たちには何も知らせずに、GO!ピロミが倒れるところまでをドッキリ的に収録した」と制作の裏側を明かしている。
つまり、「名探偵津田」の第3話、第4話とほぼ同じ演出なのだ。今後、同企画の定番になっていくことも考えられる。
振り返ると、藤井氏は2022年の元日に放送された『あたらしいテレビ2022』(NHK総合)の中で、一般投稿による「群馬県伊勢崎市の乱闘事件」(2021年3月4日未明に発生した銃撃事件)のネット映像を見た衝撃に触れ、「これの前には何も勝てない」と口にしていた。
交差点付近の建物から窓越しに抗争を覗き見ているリアリティーと撮影者たちの率直なリアクションによって臨場感がヒシヒシと伝わってきたという。
『水ダウ』もまた、ドッキリ企画や説の検証VTRを覗き見る構図だ。藤井氏が目指しているのは、視聴者に程よい距離感でリアルな面白さを感じさせるエンターテインメントなのかもしれない。
SNS上での考察合戦も、「名探偵津田」の人気に拍車を掛けているように思う。第4話では、「電気イスゲーム2025開幕戦」の途中で劇団ひとりが「5」に仕掛けられた電気イスに座って感電。Xでは、その後の倒れた体勢をめぐって早くから考察が始まった。
電気イスが「12」まであることから、時計に見立てて「5時20分を指している」、別の視点から「前回泊まったホテル番号の2502とか関係してくるのかな?」、「5」と「10」を指していると見るユーザーは「ダイイングメッセージ フット(足)510(後藤)」といったものまで様々だ。
前編の放送後には、家系図の制作日「一九四五年十月吉日」の「四」が「八」に線を加えた文字に見えることから、「改ざんされている」といった声も散見される。こうしたトレンドを、かねて藤井氏は好意的に受け止めていた。以前、筆者は本人へのインタビューでこんな話を聞いたことがある。
「個々がメディアを持ったことで、見知らぬ人と共有できる楽しさが増えましたよね。番組やイベントに携わった関係者がその裏側を語ったり、あるいは視聴者が考察を書くブログが面白かったりもする。少し前なら残るはずのなかった映像でも、今は誰かが発信し、SNSを通して視聴できるようにもなった。そうした変化によって、今後ドキュメンタリー的な要素を生かした新しいエンタメが生まれるかもしれない」
<2022年5月5日、朝日新聞社とパナソニック株式会社の企画のもと発行した『未来空想新聞2040』より>
昨年の第3話では、重要人物である野呂佳代の居場所が本人のインスタグラムによって特定されている。今回は、シリーズ第2話の舞台となった「戸隠村」のYouTubeチャンネル『戸隠channel』が約1年ぶりに更新されたり、物語に絡む「大阪・関西万博」の番組ロケに参加した渋谷凪咲が自身のインスタグラムにオフショットを公開したりするなど、意味深な動きを見せている。
果たして、実際の本編ではどんな形でSNSが組み込まれるのか。後編を楽しみに待ちたい。
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