マンガ
「ドレスを着たがる息子」に親は…子どもとの向き合い方をマンガに
「色んな価値観は認めたい、けど」
息子が「ドレスを着たい」と言ったとき、親はどう答えたらいいのか。子育ての日常に起きた葛藤を描いたマンガがツイッターで話題です。作者に思いを聞きました。
「子どもとの向き合い方を深く考えるキッカケになった話」という言葉を添えました。
結婚式が明後日に迫った夜、息子(3歳)が、用意した子ども用スーツを「コレ着たくない!!」と拒絶します。
吉本さんは「なにが着たいの?」と聞いて見ると、息子は「ねえねと同じの!」。
姉(5歳=ねえね)が着る予定だったのは、ふりふりのドレスでした。
「なんでぼくはドレスじゃないの?」と泣く息子に、何も言えない吉本さん。
それまで、自宅でねえねのマネをしてスカートを履いても否定してきませんでした。「けど……外に着て行くのは」
泣き寝入りした息子を横に、吉本さんは「今『いいよ』と言うことでこの先どうなるかわからない」と考えこんでしまいます。
スカートで学校に行くって言ったら……
受け入れてもらえない環境だったら……
いじめられてしまったら……
息子の将来を思い、不安な気持ちが膨らむ中、ふとその理由を知りたくなります。「でもなんで、ねえねの服が着たいんやろ……」
息子に、吉本さんは尋ねてみます。「なんでドレス着たいの? 教えてくれる?」
息子は「ねえねばっかりかわいい ずるい!」と答えました。
ドレスに憧れているわけではなく、ねえねが「かわいい」とほめられる様子に、「自分もほめられたいと思っているのかも」と思い立ちます。
それなら……
息子に「スーツかっこいいよ」とおだててみますが、「やだ」と拒む息子。万策尽きたか……。
そこへ、ねえねがやってきて「『かっこいい』も『かわいい』とおんなじぐらい言われてうれしいことなんやで。ねえねが着ちゃおっかな~」と息子に言ってみせます。
「ダメ!」慌てて息子はスーツを着ると、みんなに「かっこいい!」とほめられ、まんざらでもない様子。
無事、用意された衣装で結婚式に行くことになります。
ただ、吉本さんはひっかかっていました。「『かっこいい』で納めてしまったのは良くなかったかな」「自分の価値観だけで判断するんじゃなくて、子どもの将来も考えて向き合わないと」
その後ろで、ねえねにおめかししてもらい「かわいい~」と喜ぶ息子がいました。
この作品には、「すごいマンガ」「ねえねの優しさがまぶしすぎる」などの反響が集まり、4万件以上のいいねがつきました。
また、親世代からは、「娘に『かわいい』と言っていたら、息子が『ぼくかわいい?』と聞いてくるようになった。最近は息子にも娘にも使える『素敵ね』と言っている」「娘には七五三の時、説得して振り袖を着てもらった。でも(着たがっていた)袴を着させてあげなかったことを今では後悔している」などの体験談も寄せられました。
息子側の目線で、昔の自分を振り返り、「幼稚園のお遊戯会で『僕もお姫様がいい』って駄々をこねた」「最初から否定せずに着たい理由を聞いてくれたのはとても良いことだと思う」「ジェンダーについて寛容な時代ではなかったので、親も不安だったろうな」などの返信もありました。
息子はドレスを着たい🧒🏻 #おもち日和
— 吉本ユータヌキ (@horahareta13) February 10, 2021
子どもとの向き合い方を深く考えるキッカケになった話 (1/3) pic.twitter.com/ECWSwBh9Gi
作者の吉本さんに話を聞きました。
吉本さんは、大阪出身・滋賀在住の漫画家で、3児の父です。
18歳から8年間、バンドで活動していましたが、解散を経て、サラリーマンに転身。
今回の作品も、子どもたちとの日常を描いたもので、2020年10月ごろに体験した話だそうです。当時、娘は5歳、息子は3歳。吉本さんは34歳でした。
息子は、これまでもよく「ねえね」のプリキュアのコスプレ衣装を着て走り回っていました。吉本さんは、「それを否定することも、『おかしい』と指摘することもせず、『ただただ楽しそうにしてるな〜』と見ていました」。でも、それは家の中だけ。
保育園は例外で、息子の好きな格好で行かせてあげていましたが、家以外で家族や親戚以外の人がいる場所となると、「ちょっとためらってしまう」と言います。
これまでの吉本さんの子育て方針は「基本的にはなんでもOK」でした。「僕自身が親には『他人に迷惑さえかけなければなんでも好きにしなさい』と育ててきてもらったので」
でも、子どもの成長とともに、親としての考えも変わっていました。
「最近気づいたのが、親が子どもに対して、なんでもいいよとただ放任するのと、疑問を持って理解した上でいいよと言ってあげるのとは全然違うなと」
そんな中で起きた今回の「事件」。吉本さんが考え込んだのは、結婚式に限った答えを出すためではありませんでした。
「子どもの将来を見据えて、例えば子どもの選択がリスクのある道ならば、止めるのではなく、どうしたらリスクが軽減できるか。何か起きた時、親はどうしてあげるのがいいのかを先回りして考えてあげるのが大事なのかなと思っています」
今「いいよ」と言ったとき、どんなリスクがあるのか。
吉本さん自身、少し前まで、ジェンダー・LGBTQについて、特に関心を持って考えたことはありませんでした。「『僕は普通だから関係ない』ぐらいに思ってしまっていたんです。でも、考えるきっかけになったのは、マンガの中で『娘はママに似るんだ』と書いたことに対して、友達から『そういう描き方はよくない』と指摘を受けたことでした」
「それから自分も発信者である以上、これから大きくなっていく子どもの親である以上、『自分には関係ないから無関心でいい』なんてことはなくて、ちゃんと理解しないとと思い、いろんな人の話を読んだり、聞いたりしました」
その中で、トランスジェンダーの友達に、過去の話を聞いてみたことがあったと言います。その人は、自分の気持ちに正直に生きてこられた一方で、中学校の時にイジメられていたと聞きました。
「その友達はそれを乗り越えれたから良かったと話してたけど、そうじゃない子もいるんだろうと思うと、ますます無関心ではいられなくなりました」
息子にすぐ「いいよ」と言えなかった時、頭に浮かんだのは、そんな人たちの葛藤でした。
「今の時代、いろんな考えや気持ちがあることが尊重されてきているものの、まだ理解してくれない大人だっているし、子ども同士でも理解されないこともあるだろうと考えると、どう気持ちのバランスを取るかをすごく悩みました」
「かっこいいで収めてしまってはよくなかった」と作品の中で反省していた吉本さん。今回の作品について、多くの反響を受けて、「『こうすればよかった』と思う答えは見つかったのでしょうか」と質問してみました。
でも、吉本さんは「こうすればよかったは、ないです」と言いました。
「今回、こう思えたこと、そしてこのマンガが描けたことで、今後を考えるキッカケになったので、これで良かったと思うようにしています」
この作品には結論が描かれていません。
ただ、吉本さんの言葉で「自分の価値観だけで判断するんじゃなくて」「子どもの将来も考えて向き合わないと」とまとめています。
それは、「親として子どもに幅広い選択肢を示してあげる」ことの大切さを信じる一方で、「子どもが選択したことのリスクに対して、どう対処するか、先回りして考える」ことの大切さも考えた吉本さんの一つの決意でした。
答えは出ていないけど、これからも「子どもの選択に対して、子どもの目線にもなって、一緒になって考えていきたい」と言います。
子育ての気づきをエッセイ漫画として発信し続ける吉本さん。
「自分自身の失敗や気づきをそのまま風化させるのではなく、何か形にして、たくさんの人に届けられたらと思います」
今回は繊細なテーマでしたが、「まだ関心を持っていない人もいるかもしれないし、これから親になってこういう問題に向き合う人たちもいると思うので、一緒に考えらえたらいいなという気持ちで描きました」と言います。
「どこかに答えがあるわけでもないので、いろいろなご家族の会話のネタなったらいいなと思っています」
いろんな意見や感想ありがとうございました!考えても考えても答えはないから、子ども達と向き合って、その都度家族の中で最良の選択をすることが大事やなと思いました。
— 吉本ユータヌキ (@horahareta13) February 10, 2021
ちなみにこの結婚式のあとディズニーランドに行ったんですが、ミニーのカチューシャお揃いにしてました🧒🏻👧🏻 pic.twitter.com/MhPShx1ous
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