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連載

#1 水戸の廃虚

「廃虚が足りない!」不気味さゆえに生まれた「意外なニーズ」

ストリッパーたちが踊ったとみられるお立ち台。左右に回る仕組みのようだ=2019年4月8日、茨城県筑西市新井新田
ストリッパーたちが踊ったとみられるお立ち台。左右に回る仕組みのようだ=2019年4月8日、茨城県筑西市新井新田 出典: 朝日新聞

目次

茨城県内を車で走っていると、廃虚に出くわすことが度々あります。近くを通るたび、荒れ果てた建物に興味をそそられる不思議な存在。不法侵入やゴミの不法投棄という問題を抱えながらも、最近では誰もが知っている名作を生んだ「意外な活用法」も注目されています。(朝日新聞記者・益田暢子)

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気分は最悪、ひんやりとした空気

「本当にここに入るの?」

茨城県筑西市にある元ストリップ劇場「明野劇場」の前に立ったときの正直な感想です。

悪臭を放つゴミの山を前に気分は最悪。劇場内はひんやりとした空気が漂い、心霊スポットになるのもうなずけました。

比較的新しいペットボトルやチラシが散乱し、ネットなどで劇場を知った人が訪れた形跡が見えました。

劇場前のゴミも「誰もいないからバレないだろう」と捨てていく人が多いのでしょう。周辺には太陽光発電の施設やJAの集出荷所があるくらいで、人目に付きにくい。この状況が続けば、犯罪の温床になる可能性もあると思います。

劇場前には大量のゴミが不法投棄され、悪臭を放っていた
劇場前には大量のゴミが不法投棄され、悪臭を放っていた 出典: 朝日新聞

増える廃虚を求める声

ゴミの不法投棄だけでなく、不法侵入によるいたずらなど、心配の種は尽きません。「迷惑」「危険」と捉えられがち廃虚ですが、意外な活用方法が生まれています。

映画やテレビ番組などのロケを誘致する県のフィルムコミッションによると、制作陣からは廃虚を求める声が多いと言うのです。

理由は全国でロケができる廃虚が少なくなっているから。

例えば、茨城県北部の高萩市にあった製紙工場跡地は、多くの映画が撮影された人気ロケ地でしたが、その後、太陽光発電施設が建設され、使えなくなりました。民間が所有する廃虚の場合、ロケのために廃虚を維持してくれるケースは多くありません。

茨城県北部には、ロケ地として人気の高い廃校になった小学校もあります。行政の所管ですが、明治時代に建てられたという木造校舎は近隣住民らが掃除したりと、地域の協力も得て維持されているそうです。

2階の照明席から見た劇場全体の様子
2階の照明席から見た劇場全体の様子 出典: 朝日新聞

迷惑がられたり、重宝されたり

そんな中、ロケ地として大活躍しているのが、1932(昭和7)年、旧渡里村(現在の水戸市渡里町)に完成した旧芦山浄水場です。

現在、浄水場としては使われなっていますが、撮影の希望が相次いでいます。

旧芦山浄水場は、映画界の話題をさらった「カメ止め」のロケ地。印象的な冒頭シーン以外にも、適度にくずれた壁や、雑草の生い茂る敷地など、廃虚感あふれる魅力を持っています。

ロケ地としての使用料金は無料です。「カメ止め」以前は、テレビドラマや戦隊モノの撮影に年5件ほどのペースで使われていましたが、「カメ止め」のロケ以降は問い合わせが殺到したそうです。

2018年度の撮影件数は計14件。人気ドラマ「相棒」の映画やアイドルグループ「欅坂46」のミュージックビデオの撮影にも使われています。

不気味さが故に、迷惑がられたり、重宝されたりする。取材を通して、廃虚の奥深さを改めて感じました。

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