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音楽フェスは「現実逃避」か? ロスジェネにウケた「本当の理由」
音楽フェスの季節が今年もやってきました。1997年にフジロックフェスティバル(新潟・苗場、今年は7月28~30日)がスタートして20年。その間、各地であまたのフェスが誕生し、その光景は日常化しました。では、日本でなぜここまで定着し、広がりを見せたのでしょうか? フェス文化に詳しい神戸山手大学の永井純一准教授は、「世代」を切り口に読み解きます。
――1997年に始まったフジロックフェスティバル以降、多くのフェスが誕生し、国内で定着していきました。それ以前にも音楽イベントはありましたが、何が違うのでしょうか?
「古くから、複数のミュージシャンが出演する音楽イベントは日本でもたくさんありました」
「例えば50年代のロカビリーブームを生み出した日劇ウェスタンカーニバルや、米ウッドストック・コンサートに触発されて69年に東京の日比谷野音で開かれたロック・コンサート第1号『ニューロックジャム(通称・10円コンサート)』。しかし、多くが原則的に1つのステージで展開しています」
「一方で昨今の音楽フェスは、一つの空間に複数ステージが存在し、進行していきます。ここがまず大きく違う。さらに音楽以外の要素がたくさん入っていることも大きい」
――音楽以外の要素?
「例えば、フジロックフェスティバルは、飲食スペースが充実しているし、子供向けのアトラクション施設もある。キャンプ場で宿泊だってできる。音楽の楽しみ方も、立って聴こうが座って聴こうが自由」
「ステージ最前列で楽しむことが必ずしもベストではなく、後ろの方で飲食しながら楽しんでもいい。そもそも音楽を聴かない選択肢も出てくる」
「会場という限定的な空間の中で、参加者がとりうる選択肢が無数に広がっています」
――そういった自由さががなぜ支持を集めたのでしょうか
「世代論で切り取ると、見えてくるものがある。フジロックが生まれた時の20歳前後はいわゆるロスジェネ世代です。高度経済成長が終わり、バブルがはじけたことで、『正社員になって結婚して、子供産んで』という物語が通用しなくなった」
「彼らは『これからは主体的に動ける人でなければ駄目だ』『資格を手に入れなさい』といった言説を浴び続けてきたわけです。自己責任、能力主義といった価値観に絶えずさらされながら」
「ロールモデルのない現実を生きる。これは大変攻略困難なゲームです。あの時代、就職活動だって、できる人はいくらでも内定取るけど、できない人はぜんぜん取ることができない現象が起きていた」
――私もその世代ですが、確かにその一面はありました。でも、それがフェスとどうつながる?
「フェスの中も実は同じです。フェスは、はじまりから終わりまでのプログラムが決まっていない。その中で、リソースを有効活用し、自分で楽しみ方を構築しなければいけない」
「自分でプログラムをどう組み立てるのか、どの出演者の音楽に詳しくなるか、どうやって友人を作るか……。様々なリソースがある中で、『自分なりに感性を磨きなさい』と問われる」
「とはいえ、こちらは、現実社会に比べれば、比較的やさしめのゲームではある。『こっちのゲームはクリアできるぞ』という気持ちになれるわけです」
――厳しい現実社会からの逃避場所。フェスがそんな風に機能した、と?
「94年、99年に米国でウッドストックが復活するなど、90年代に世界的にフェスが流行した。その流れの中で、フジロックは始まっている」
「ただ、日本で発展、定着したのは、ロスジェネ世代とフェスの仕組みが共鳴した部分が少なくないと思う」
「ロハスやエコを含む新しいライフスタイルが提示されると同時に、一時的ではあるが、フェスという空間の中で、『自ら選択して人生を切り開ける個人』になる疑似体験が、多くの支持を集めたのでしょう」
――個人志向のフェスが、ロスジェネ世代と親和性があった。では、ポスト・ロスジェネ世代は、どうなのでしょうか?
「フェスの第一世代がロスジェネだとしたら、第二世代はゆとり世代。この世代は『とにかくみんなで楽しみたい』という意識が強いと考えられます」
「社会学者の土井隆義さんが『友だち地獄』と表現しましたが、SNSの普及もあって、仲間内で空気を読み合って、集団からはぐれたくないという、友だち規範が強い」
――個人化志向を促すフェスとは相性が悪そうです
「学生達の話をきくと、若い参加者が多いフェスを中心に、最近はグループでおそろいのTシャツを着て、一緒に集合写真を撮る行為が広まっている」
「また、フェスの前後にはそれぞれ『前夜祭』『打ち上げ』と称してカラオケに行くなど、仲間と盛り上がりたいという気持ちが強いようです。それが個人主義的な流れとは別の新しい動きとも言え、たいへん興味深いです」
「個人志向のフェスと、集団志向のフェス。2つの大きな流れが今後形作られるのかもしれません」
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