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「母を殺されたから人気者に…」旭山動物園、ヒグマ看板に込めた思い

旭山動物園の「もうじゅう館」に貼り出されている手書き看板が、ネット上で話題になっています。

エゾヒグマ「とんこ」と飼育員の大西敏文さん=2015年5月
エゾヒグマ「とんこ」と飼育員の大西敏文さん=2015年5月 出典: 朝日新聞

目次

【ネットの話題、ファクトチェック】

 「人間に母親を殺されたとんこが来園者の人気を集めているのは皮肉なことでもあります。とんこが動物園で暮らしている意味とは、なんでしょう?」――。旭山動物園(北海道旭川市)の「もうじゅう館」に貼り出されている、エゾヒグマ「とんこ」に関する手書き看板がネット上で話題になっています。どんな思いでこの文章を書いたのでしょうか? 担当飼育員に話を聞きました。

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とんこが飼育されている「もうじゅう館」
とんこが飼育されている「もうじゅう館」 出典: 旭山動物園提供

「とんこ」とは?


 今年7月1日で開園50年を迎える旭山動物園。正門から入り、しばらく歩くと右手に「もうじゅう館」が見えてきます。

 アムールトラ、ライオン、ユキヒョウなどが飼育されており、動物と同じ高さから観察したり、上から観察したりできる施設です。

 そこで飼育されているのがエゾヒグマのメス「とんこ」(18歳)です。

 がっしりとした四肢に長い爪、がんじょうなアゴと歯をもつエゾヒグマ。とんこは、柵に登ったり、プールに入って窓の所に体当たりしたり、やんちゃな行動で来園者を驚かせる人気者です。

エゾヒグマの「とんこ」
エゾヒグマの「とんこ」 出典: 旭山動物園提供

手書きの看板、内容は


 今月1日、「このパネルを見ただけでも、旭山動物園に来て良かったと思う」という文言とともに、1枚の画像がツイッター投稿されました。

 画像には「とんこはなぜ動物園にいるの?」という問いかけから始まる、手書きの文章が写されていました。

 1999年4月30日、子連れの母グマが中頓別町に現れました。

 人間の安全のため、やむなく母グマは射殺され、子グマは生け捕られ、動物園に引き取られました。

 メスの子グマは中頓別の「とんこ」と名づけられました。

 人間に母親を殺されたとんこが来園者の人気を集めているのは皮肉なことでもあります。

 とんこが動物園で暮らしている意味とは、なんでしょう?

 ヒグマと人との事故をさけるために、わたしたち人間の側が気を付けるべきこともあるのです。

 (1)山に入るときはくま鈴をつけ、なるべく大勢で入る

 クマに人の気配を知らせることで、出合い頭の事故を防げます。

 (2)山にごみを捨てない

 山にお菓子の袋やジュースの空き缶などを捨てると、クマが人間の食べ物の味をおぼえ、やがて人里に近づくようになってしまいます。

 (3)山でクマの糞や足あとなど痕跡を見つけたら速やかに立ち去る

 このようなちょっとした心がけで、ヒグマと人との事故を減らすことができるのです。

 とんこを通じて、「人とヒグマの共存について」みなさんにより深く考えていただけたら……それこそが動物園でとんこを飼育している意味なのではないでしょうか?

 とんこも人里にさえ近づかなければ、名も無き野生のヒグマとして山の中でくらしていたことでしょう……
とんこがいる「もうじゅう館」に貼り出されている手書き看板
とんこがいる「もうじゅう館」に貼り出されている手書き看板 出典: 旭山動物園提供

書いた飼育員に聞きました


 この投稿に対して、「多くの人にみてほしい」「最後の一文がとても重たい」といったコメントが寄せられ、リツイートは1万を超えています。

 どのような思いで、この文章を書いたのか? もうじゅう館を担当している大西敏文さんに話を聞きました。

 ――いつから貼り出したのですか

 「夏季営業が始まった4月29日からです」

 ――きっかけは

 「以前から、来園された方に口頭で同じような説明はしていました。そのときの反応から『ヒグマに対する印象が変わった』という手応えがあったので、文章にして貼り出したんです」

 ――心がけた点は

 「『母親を殺されたとんこが可哀想だ』といった一方的なとらえ方をされないように心がけました。自然と人の関わり方や、どうやったら共存していけるのかという点について考えてもらうきっかけになれば、という思いを込めています」

 ――話題になったことについては

 「来園した方に読んでいただければという思いで書いたものですが、ネットを通じてこんなに多くの人に広がったことに驚いていますし、とてもありがたいと思っています。とんこは魅力的で可愛らしくもありますが、人にとって危険な生き物でもあります。いろいろな角度から感じてもらえたらと思います」

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