連載
#25 未来空想新聞
音楽界の革命児が考える「未来」とは?
サカナクション・山口一郎さんに未来を考える意味を聞く
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時代に先駆け新しい音楽を切りひらいてきたロックバンド、サカナクション。高い音楽性と文学性に加え、様々な音楽ジャンルを融合する実験的なサウンドや、最先端のテクノロジーを駆使したライブ演出など、音楽業界に次々とイノベーションを起こしてきました。バンドのフロントマン山口一郎さんが見据える「未来」とは?
山口さんに「未来とは?」と問いかけると「乗りこなすものですかね」と答えが返ってきました。
「過去から現在を振り返ると、1960年代からほぼ10年ごとに、その時代を象徴する音楽が存在していました。80年代はニューウェーブやテクノ、90年代はヒップホップといった具合に。でも2000年代からそういうものが見当たらなくなった」と山口さん。「背景にあるのがインターネットの普及です。それまではシンセサイザーやサンプラーといった機材の進化が音楽を進化させてきた。2000年代以降はインターネットが、音楽そのものも、提供の仕方や楽しみ方も革新しました」
サカナクションがデビューしたのは2007年。CDの売り上げが激減し、スマートフォンでの音楽配信サービスが始まり、業界構造が大きく変化しようとしていた時でした。
「業界や音楽はこの先どうなっていくべきなのか。時代のうねりの中で迷い、疑問を持ちながら活動を続けてきた」と山口さん。一つの答えを見いだしたのが、コロナ禍でした。
「全くライブができなくなった。そのとき、これは時代に適応した新しいコンテンツを発明するチャンスだと思ったんです」
そのために山口さんが乗り出したのが、「アダプト」(適応)と「アプライ」(応用)の2つのアルバムからなる、音楽のシステムそのものを再構築するプロジェクトでした。
新曲を世に送り出す上で、シングルCD発売→アルバムを発売→ライブツアーをするという従来のプロセスを見直し、オンラインライブ配信→リアルライブ→アルバムリリースの順に展開。「これにより、音楽の楽しみ方が広がります。インスタライブでファンの声を聞くと、コロナの影響で多くの方が経済的に困っていた。そんなファンに向けて、アルバムにも収録されるシングルを買ってくれなんて言えませんでした。まずはオンラインライブで聴いて、もっと楽しみたいという方は、リアルライブに行くか、アルバムを買うか決められる。金銭的にも体験の深さとしても、リスナーに音楽体験の選択肢を与えられます」
また、作り手にも貢献できると言います。「オンラインライブの価値が高まれば、映像の中での表現も進化していく。才能がありながらも機会に恵まれない映像監督の新しい活躍の場になるかもしれない」
山口さんの見据える先には、音楽業界全体の新しい未来が広がっています。今まさに、時代への適応と応用によって「未来を乗りこなす」真っただ中なのです。
様々なイノベーションを生み出してきた原動力はなんなのでしょうか?
山口さんは「好きな音楽を気持ちよくやりたいんです」と言います。
「でも、好きなことを気持ちよくやろうと思ったら、今の仕組みのままでいいのか?と様々な疑問が湧いてきます。音楽業界だけでなく、社会、政治も。自分を変えることは、実は全部につながってくる」
「昭和の時代は中島みゆきさんや尾崎豊さん、THE BLUE HEARTSといった音楽が生きづらさを抱えた人たちを救っていましたが、今の若者はYouTubeやSNSに救いを求め、音楽がそういう人にまで届いていない。時代に合ったシステムを作り、ビジネスとしての成功よりも、リスペクトに繋(つな)がる活動が今の音楽には必要だと思います」
好きなバンドの新曲を待ちわびて、ラジオやテレビにかじりついて聴いたかつてのワクワク感を、サブスクリプションが普及した時代にどう提供できるのか──。今回のプロジェクトは、その「実験」でもありました。「誰もが生きやすい未来にするために、自分や人類がどう変わるべきなのかを考える。それは僕にとって、純粋に音楽に向き合っていく上でとても重要なことなのです」
この先の子どもたちの生きる未来について聞くと、山口さんは、「未来って、ロールプレイングゲーム(RPG)の宝箱みたいでワクワクする。でも開けたら何が出てくるかわからない怖さもある」と笑います。
「この先テクノロジーが進化していくのは間違いありません。テクノロジーは人を幸せにも不幸にもするけど、駆使することで、音楽の本物の感動を生み出すことができるかもしれない」
また、この先の未来には、コロナ禍に次ぐ新たな脅威が待ち受けているかもしれません。山口さんは、「厳しい時代こそ、人は新しいものを生みだしてきました。どんな時代でも生きづらさを感じるときはある。それを解放してきたのはいつも文化でした。だからこそ、未来を担う子どもや若者には、本物の文化を体験してほしい」と言います。
デジタルとリアル、未来と過去──。山口さんは最後にこう語りました。
「音楽の世界で、デジタルはずっとリアルを再現しようと追い求めてきました。でも、デジタルがどんどん進化しリアルに近づいていくと、実はアナログが時代の最先端だったことに気づくのです」
一人ひとりが考える未来。私たちはそれに向かって歩みを進めていきます。その未来が実現した時、それはどこか懐かしさを感じるものなのかもしれません。