「キレイになりたい」という純粋な願いが、「キレイであらねば」という無言のプレッシャーへと変わっていったのは、いつ頃でしょうか。
中学生の頃、親戚のお姉さんに初めてマスカラをつけてもらったときの感動を、今でも覚えています。しかし魔法の杖だった化粧品は、いつしかエチケットのための道具へと変わり、心が弾んだメイクアップは、眠くても欠かせない朝の苦行へと変わりました。
人は見た目じゃないと誰もが言うのに、社会に出ると今度は平気で「どうせなら美人に営業に来てもらいたい」「広報は華やかなほうがいい」と言われるように。ビジネスの場でさえ、能力よりも容姿が重視されている……? 人柄や能力を見てもらいたいけれど、容姿が“ちゃんと”していないと、人々の注目は中身にまで到達しませんでした。
やがて、美を追求することはルッキズム(外見至上主義)への迎合なのではとさえ考えるようになりました。そんなとき、私が出会ったのが「#NOCOMPETITION 美は #競争ではない」というSK-Ⅱのキャンペーンです。誰のためでもない、自分のための選択をしたい。固定概念から作られた「画一的な美」の時代から、「自分自身で美を定義する」時代へ――。そう思わせてくれた、「#NOCOMPETITION」のニューヨークでのイベントをレポートします。(取材・文:ニシブマリエ)
現地時間3月3日の夜、タイムズ・スクエアが深紅に染まりました。米・ニューヨークの街を照らすいくつもの巨大なデジタルビルボードには「WHEN DID BEAUTY BECOME A COMPETITION?(いつ美が競争になったのだろう?)」というスローガンが映し出され、道行く人々に「美は競うものなのか」を問いかけます。
これは、東京2020オリンピックの公式スキンケアブランドであるSK-Ⅱによるキャンペーン。SK-Ⅱは「#NOCOMPETITION 美は #競争ではない」を掲げ、世界的なスキンケアブランドとして、不必要な美の競争から人々を解放することを提案しました。この広告ジャックもその一環。トレンドの発信地であるニューヨークから、美の競争の終焉を宣言したのです。
翌日4日のトークイベントには、10年近くSK-Ⅱのブランドアンバサダーを務める綾瀬はるかさんが登場。綾瀬さんはイベントのなかで、「演技の仕事にも正解がなく、いろんな意見にさらされやすい。周囲のプレッシャーに応えようとするほど、自分を疑いやすくなるけど、そんなときこそ自分らしくいることが大事」だと話しました。
綾瀬さんはイベントの感想について尋ねられると、「一緒に登壇した体操選手シモーン・バイルスさんの存在感に圧倒されました。並大抵ではない努力でやってこられた方なので、目の奥にしっかり自分を持っている芯の強さが伝わってきて、かっこよくてドキドキしました」とコメント。
綾瀬さんが言及するシモーン・バイルスさんは、アメリカの体操選手でリオデジャネイロ五輪の金メダリストです。女子団体、個人総合、跳馬、ゆか、それぞれで金メダルを獲得し、4冠を達成しました。今回のキャンペーン「#NOCOMPETITION」に賛同し、綾瀬さんとともにトークイベントに登場しました。
弱冠22歳にして世界的トップアスリートとなったシモーンさん。五輪での金メダルに加え、13年から19年までに開催された世界体操競技選手権では、史上最多となる通算25個のメダルを獲得しています。そんな彼女でも、これまで幾度となく容姿に関するネガティブな意見にさらされてきました。
142センチの身体に、鍛え抜かれた筋肉。しなやかな体型が多い女子体操界のなかで、シモーンさんの力強い身体は目立ちました。毎日のようにSNSで「体操選手らしくない」とコメントされ、レオタードや普段着にまで批判が集まりました。シモーンさんは憂鬱な日々をこう振り返ります。
「過去数年、本当に色々なことを言われてきました。髪がおかしい、胸が大きすぎる、普通の女性に見えない、筋肉質すぎる……。人種のことでも揶揄されました。アフリカ系の体操選手はそう多くありません。タイスコアで優勝したときは『黒人だから勝てたんだ』とも言われ、とても傷つきました」
善意からか悪意からかに関わらず、彼女のもとには色々な“アドバイス”が届きました。その度に悲しい思いをしていたシモーンさんですが、大人になるにつれて考えが変わっていったといいます。
「私は体操選手だから、筋肉が必要なんだ。そしてこの筋肉のおかげで、私は金メダルを取ることができたのだと。容姿は関係ないんです。演技中、笑顔が少ないことを指摘されたときも『笑顔じゃ金メダルは取れませんから』と返しました(笑)」
「私は私自身のもの。指摘されたからといって笑顔を作っても、今度はきっと『笑顔がトゥーマッチだ』と批判されるんです。何をしても批判されるなら、自分がどうしたいのかを大切にしたいと思ったんです」
シモーンさんはSNSで多くの批判を浴び、傷ついてきましたが、それでもたくさんの人に声を届けることができるSNSは良いプラットフォームだと話します。
「人からどう見られているか悩んでいたり、SNSでの炎上で傷ついたりしている女の子・男の子たちを、私のストーリーを通して勇気づけることができれば、こんなに嬉しいことはありません。美の定義は一つじゃない。自分の内面や行動こそが美しさなのだと伝えたいです」
今回のキャンペーンでは、シモーンさんを始めとした6組のトップアスリートが、望まない美の競争と対峙する姿がアニメで描かれています。その『SK-II スタジオアニメーションシリーズ “VS”』は近日世界同時公開予定です。
「競争」は多くの場合、私たちの可能性を引き出し、成長へと導いてくれるもの。勉強、スポーツ、仕事。ライバルがいたからこそ頑張れたこともあるでしょう。一方、私たちはときに望まないレースにも参加させられてきました。それは「美の競争」です。
固定概念から作られた「画一的な美」や、他者からのプレッシャーによって、自分らしくあることが困難になってしまう。そんな有害な価値観に「NO」を突きつけようと始まった 「#NOCOMPETITION」。
アンバサダーとしてSK-Ⅱとともに歩みを進めてきた綾瀬さんは、今回の「#NOCOMPETITION」に対し「基礎化粧品がこのスローガンを提唱するのが面白い。私もSK-Ⅱから色々教わりながら大人になっている」と思いを巡らせました。
「自分らしくいることって、過去は自然にできていたかもしれないのに、経験を積むからこそ、周囲の期待に応えたくて競争が始まってしまいますよね。人からのプレッシャーがなくとも、自分で勝手に制限をしてしまうことも。自分らしさから逃げてしまうというか。でも、無理して取り繕っても人は見抜くんですよね。それぞれが自分らしさを活かすことで、初めてその人自身の輝きが出るんじゃないかなと思います」
綾瀬さんは「自分との戦い」は今後も必要だと持論を述べました。
「新たな作品に入る時、朝起きて『行きたくない』から1日が始まるので、毎日が怠け者の自分との戦いです(笑)。演技って生もので、相手、セット、天候、やりとりの中でも変わっていく繊細なものなんです。手を抜こうと思ったらいくらでも抜けるけど、観客のみなさんに対しては心を揺さぶるような感動を届けたいんです。作品は一生残るものだから、絶対に手を抜きたくない。正解がないからこそ、自分が信じるベストに向かっていくだけです」
大勢が関わる作品に出演したり、NHK紅白歌合戦の司会を務めたりと、大役を任されることの多い綾瀬さん。最後に、自身が考える「自信の築き方」について語ってくれました。
「いつも失敗したらどうしようって緊張するけど、前もって準備をすることで『自分は大丈夫だ』って思える。できないと思っていたことができたとき、『私、意外とできるじゃん!』って自信につながります。といっても、小さなことですよ。一人で旅行に行けるようになったとか(笑)。可能性の広がりを感じることが、自信につながるんでしょうね」