エンタメ
ヒット連発の医師作家・知念実希人さん 執筆中はまるでボクサー
現役医師の作家で「病棟シリーズ」が大ヒット中の知念実希人さん。読者の想像を超えた執筆スタイルとは?
提供:実業之日本社
エンタメ
現役医師の作家で「病棟シリーズ」が大ヒット中の知念実希人さん。読者の想像を超えた執筆スタイルとは?
提供:実業之日本社
現役医師作家・知念実希人さんを知っていますか?
医療知識を生かしたミステリー作家の新星として今、最も売れている作家といっていいでしょう。
今、ミステリーファンのみならず多くの日本人を虜にしているのが、本格的医療ミステリー「病棟シリーズ」。今年10月に発売された最新作『時限病棟』は、発売1カ月足らずで早くも20万部超えのベストセラーに。息つく暇もないドラマティックな展開と衝撃のラストが話題を呼び、前作『仮面病棟』(50万部超え)に迫る売れ行きを記録しています。
そんな注目の作家・知念さんに、ヒット作を生み出す秘訣を聞きました。
――作家デビューしたのは5年前。今年はおよそ2カ月に一作の驚異的なペースで新作を発表し、ことごとくベストセラーになっています。ヒット作を連発できるのはなぜでしょう。
読みやすくするために魅力的なキャラクターづくりを心がけたのがよかったのかもしれません。例えば、「天久鷹央(あめく・たかお)シリーズ」は、天才で変人の女医・天久鷹央が、診断困難な患者の病と事件を次々と解決していくライトテイストな医療ミステリーです。主人公を女子高生のような容姿にしたり、語り口調を特徴的にしたりと、キャラで読ませることを心がけました。本の装丁も、若い方が親しみやすいように、と私がお願いをして。
―― 売れるために、装丁まで自らこだわったんですね。一方で、最新作の「病棟シリーズ」は、医療の闇や密室での人間模様がシリアスに描かれています。その着想と幅広い表現はどうやって生み出されるのですか。
『仮面病棟』は、ある療養型病院を舞台に繰り広げられる。ピエロの仮面をかぶった強盗犯が籠城し、事件に巻き込まれた外科医が、脱出を試みるうちに病院の秘密までも暴いていく、本格的な医療サスペンス。続く『時限病棟』は監禁された男女5人が、死と隣り合わせの「リアル脱出ゲーム」に参加するというストーリーだ。タイムリミットは6時間。息もつかせぬドラマチックな展開と衝撃の結末で読者を魅了する。
実は、『仮面病棟』は、執筆期間が40日間しかありませんでした。資料集めの時間もないので、悩んだ末に、舞台が限定される「ソリッドシチュエーションミステリー」を書こうと決めたのです。
――極限状態に追い詰められて出たアイデアが、大ヒットのきっかけだったわけですか。
まあ、そうなりますね(笑)。 最新作の『時限病棟』も、やはり執筆期間が短かったので、更に「タイムリミットを6時間」と極限のシチュエーションにしぼって書きました。
――いつ頃から、作家になりたいと思っていたのですか。
小さい頃からシャーロックホームズなどのミステリー小説が大好きで、小学校の卒業文集で「作家になりたい」と書いていたんです。小説家になる夢が叶って、多くの方に読んでいただけてありがたい限りです。
――最初から小説家を目指さず、お医者さんになられたのはなぜですか。
どこかの学校を出れば自動的に小説家になれるわけではないですし、不安定ですから。我が家は祖父も父も医者でして、自分も医師になるのが当然だと思っていました。でも、小説家の夢もあきらめられなかった。誰にも言わずに、数年間、小説を書いては文学賞に投稿し続けていました。
――そしてやっと入賞したのが、2011年の「福山ミステリー文学新人賞」だったんですね。
はい。受賞を知ったのは33歳の誕生日の日で、狂喜乱舞しました。ともかく小説が大好きで、島田荘司さん、東野圭吾さん、森見登美彦さん、伊坂幸太郎さんなど、これまで読んだミステリー小説は数えきれません。海外ドラマや映画も大好きで、今も週に3、4本は海外ドラマを見ています。特撮モノも好きで、「シン・ゴジラ」は10回見に行きました。
――その膨大なインプットが、小説の引き出しになっているんですね。ただ、いくら知識があっても、アイデアを形にし続けるのは簡単ではありません。ビジネスの世界でも、多くの人がそれを悩んでいます。
医師という安定した職業を半分捨てて小説家をやっているので、コンスタントに書いていくことが僕の務めだと思っています。
思いついたことをとにかく手帳にメモするんです。キャラクターのアイデアから、小説に使えそうな病名、シーン、主人公のキャラまで。夢にアイデアやシーンが降りてくることもあるので、手帳は手放しません。使ったネタは、線を引いて消していきます。
小説を書き始めるまでに書きためておいたメモから、キーワードを選んで、書き始めとゴールだけを決めて、とにかく書いていきます。朝9時半から16時くらいまでは会員制図書館にこもります。机の上にはストップウォッチとインターネット接続をオフにしたパソコンだけ。
1、2分の休憩を挟みながら15分6回を90分1セットとして書きます。15分間の目標字数は500文字。このやり方であれば2セットで、400字詰原稿用紙換算で10枚は超えますし、3セットこなせば、20枚以上書けるんです。
――タイムを計りながら書くなんて、ボクサーみたいですね(笑)。新聞記者は、「15分180文字」くらいのスピードで書けと言われているので、およそ3倍。驚異的な速さです。
思うように書けない時期もあって、1年半くらい前に、やっとこの方法を確立してコンスタントに書けるようになりました。毎日、書いた文字数は手帳にメモして、目標字数を達成できなかった日は翌日で調整します。
週に2回、ストレス解消のために総合格闘技のジムに通っているのが、今の執筆スタイルのヒントになりました。
――「小説家」のために、毎日が組み立てられているんですね。ツイッターも使っておられますが、これも小説に役立っていますか。
福山ミステリー文学賞で受賞した翌日から始めて、フォロワーは4万人を超えました。今は好調な『仮面病棟』も、発売後半年間はそれほど売れなくて。それを、書店員さんが「この本面白い」とオススメしてくださったおかげで売れ始めたんです。書店員さんや読者の方とのコミュニケーションツールとして、大切にしています。最近は、愛猫の写真くらいしかアップできていませんが・・・。
――かなり多忙ですが、これからもお医者さんは続けるんですか。
はい、続けます。最近執筆の依頼が増えまして、 医師として働いているのは金曜日と日曜午前だけ。高齢になってきた父を休ませてあげたいので、父の個人医院を手伝っています。
内科医の仕事で大切なのは、患者さんの話をよく聞いて説明すること。患者さんの話をきちんと聞けば、診断できますし、病状をきちんと説明することが服薬や治療のためにいちばん大事なんです。これは小説の医療シーン描写でも、とても役立っていると思いますし、医者の仕事は続けます。
――今後の目標は。
僕は、医師として働いていますが、医療ミステリーだけがすべてではなく、小説の舞台のひとつだと思っています。
――医療ミステリーが、知念さんの持ち味だと思っていたので意外です。
ジャンルにこだわらずに、冒険モノや恋愛モノなど、幅広い作品にチャレンジしたいんです。ミステリーにいろんな要素を肉付けしていけば、どんどん書いていけると思います。純文学的な小説を書くのは苦手なので、文章はできるだけそぎ落として、読んで映像が浮かび上がるような、それでいて少し勉強にもなる作品を書きたい。読者の方を、いい意味で裏切っていけるような作品をどんどん届けていけたらと思っています。