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イーストウッド監督がいま世界に伝えたかったこと
提供:ワーナーブラザース
2009年1月15日、NYマンハッタン上空で起きた旅客機USエアウェイズ1549便のエンジントラブル。その時サリー機長はハドソン川への緊急着水を成し遂げ、乗客155人を無事に生還させた。この通称『ハドソン川の奇跡』の一部始終を、映画界の巨匠クリント・イーストウッド監督が今年9月24日、完全映像化。
前作『アメリカン・スナイパー』で戦場という状況下における兵士の人間性を優しく見つめた巨匠が、その視点で新たに問いかける奇跡の裏側。確かな経験に裏付けされた機長の決断。乗員乗客すべての命を救った英雄へ厳しい追及。それでも折れない不屈の信念と、決してゆらぐことない機長サリーの人間性を描き出す。
航空史上誰も予測しえない絶望的な状況の中、冷静に対処し、“全員生存”の偉業を成し遂げたサリー機長は“英雄”として多数のメディアで報道され、賞賛された。操縦席と管制官らの約4分間にわたる緊迫の交信記録や乗客が当時を振り返ったコメントは「朝日新聞」記事でも特集をしている。
あなたは覚えていますか? 2009年ニューヨークで実際に起こった、史上最大の航空事故を。“乗員乗客155名全員生存”という驚愕の生還劇を成し遂げた、チェスリー・サレンバーガー機長を――。
2009年1月15日、米ニューヨークのラガーディア空港を離陸したUSエアウェイズ1549便。直後、鳥の群れに遭遇し衝突、両エンジンが完全停止した。制御不能に陥った機体のコックピットで、サレンバーガー機長は究極の判断を迫られた。ラガーディア空港へ引き返すか、それとも……。
早くもアカデミー賞最有力の呼び声高い本作を手掛けたクリント・イーストウッド。最新作『ハドソン川の奇跡』について、本誌に語ってくれたロングインタビューをお届け。なぜ今、この“奇跡”を映画化したのか、作品の背景やキャスト、映画作りに至るまで語ってくれた。
「この事故については、全世界の人々が知っています。しかし、その後に何が起きたかということは、私たちは知りませんでした。」
「台本を読んだとき、驚いたよ。マスコミでも公にならず、世間一般が知らないことだった。専門家でもない人達が、集まって判決を下しているからだ。もし、彼らが、パイロットだったとしたら、ただちに(サリー達がしたことが)理解されていただろう。しかし、誰も、この事故のような状況下でどうすべきか、誰も分かっていないんだ。もし少しでも遅れていたら 、すべてが終わっていたところだ。」
「サリー機長は、機長であるとともに、仕事が終われば戻る家族があります。映画のなかでもそういった両面をとらえる視点から描かれているのかお聞かせください。」
「私はサリーと一緒の時間を過ごした。トムも彼に会っている。彼の妻にも会って、サリーと同じように十分な話し合いをして、双方の関係や、双方においての十分な見識を得た。彼女は家にいて、常に心配や不安を抱えている。そしてサリーは、NTSB(国家運輸安全委員会)からは犯罪者の可能性を疑われている。それが、いい物語にしているんだ。そこには対立があるからだ。」
「『ハドソン川の奇跡』は、誰もが忘れられない9.11が起こった後の事故です。そしてオープニングは衝撃的なものでした。」
「この出来事は、9.11の後に起きた。その後まだ、ニューヨークが、本当に落ち込んでいた時で、加えて、経済も最悪な時だった。この出来事が起きた瞬間、そんな人々に何かこう精神を高揚させるものがもたらされたんだ。全員がこの事故を生き抜き、そして、サリーは、究極のアメリカの英雄となった。そして、彼ら全員がハドソン川の真ん中で、飛行機の翼の上に立つ情景が、その年の“ピクチャー・オブ・ザ・イヤー”になったんだ。」
「1951年、ご自身も飛行機が太平洋に水上不時着した経験があると伺いました。」
「それは本当だ。でも僕らは救助されたんじゃないよ。僕らは泳いだんだ。(映画つくりのために)どんなものか想像を働かせたよ。当時、私は21歳の若僧で、パイロットでもなく、ただ軍の飛行機に乗って、カリフォルニアのポイント・レイズの上空を飛んでいたんだ。実はそこには白ザメが生息していたんだ。状況によっては、私は今ここにいなかったわけだ(笑)。すばらしい水着をして、最後の10秒まではとてもスムーズだった。それからは怖かった。」
「とても多くの素晴らしい映画を作ってこられて、あなたを興奮させるストーリーは、今も同じですか?」
「いつも同じだよ。興奮させられるんだ。ストーリーを読んでね。僕は、『グラン・トリノ』を読んで、「オッケー。これを明日の朝、作ろう」と言ったんだ。キャラクターが楽しかったし、あのストーリーをやるのは楽しそうだった。すべてのストーリーにおいて、何かにすぐに惹かれるんだ。それは、映画作りで楽しいことのひとつで、いつも新しいアドベンチャーだということだよ。僕がこれまで手がけてきたすべての映画で、僕はいつも自分自身の何かを学んだし、他の人々について、役者について、ストーリーテリングについて、ストーリーライターたちについて学んだよ。」
「この作品を通して一番描きたかったことは何ですか?」
「それがリアルだということだよ。『硫黄島からの手紙』は、架空のストーリーだけど、ノンフィクションの戦争だった。そして、僕らの視点で見るのではなく、他の人々の視点から見た映画だった。あれは、僕にとって大きなチャレンジだった。そして、僕が一番好きな映画の一本なんだ。僕は馬鹿なことに、2本の映画を同時に出来ると思ったんだ(笑)。でも楽しかったよ。」
クリント・イーストウッド監督もインタビュー中に「いい役者に来てもらえて僕は幸運だった。」と絶賛した主演のトム・ハンクスと共演のアーロン・エッカートが9月15日、16日に来日する。トム・ハンクスは2013年『キャプテン・フィリップ』以来約3年ぶり、アーロン・エッカートは2008年『ダークナイト』以来8年ぶりの来日となる。彼らがどんな発言をするのか、今から楽しみだ。
映画『ハドソン川の奇跡』オフィシャルサイト。2016年9月24日(土)公開