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連載

#154 鈴木旭の芸人WATCH

さらば・ラランド…個人事務所芸人なぜ増えた?マネージャーの重要性

メリットとデメリットは?

お笑いコンビ「さらば青春の光」の森田哲矢=2022年、瀬戸口翼撮影
お笑いコンビ「さらば青春の光」の森田哲矢=2022年、瀬戸口翼撮影 出典: 朝日新聞社

目次

5月29日放送の『アメトーーク!』(テレビ朝日系)で「個人事務所芸人」の実情が語られた。なぜ個人で活動する芸人が増加したのか。そのメリットとデメリット、主に2019年以降に急増した背景、タレントマネージャーが果たす役割の大きさについて考える。(ライター・鈴木旭)

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自分の意思で臨むやりがい

大手芸能事務所に所属することなく活動する芸人が増加し、『アメトーーク!』でもさらば青春の光・森田哲矢のプレゼン企画「個人事務所芸人」が放送されることになった。

出演メンバーは、さらば青春の光、みなみかわ、ロンドンブーツ1号2号・田村亮、キンタロー。、ラランド、ダウ90000・蓮見翔の6組だ。それぞれが個人事務所で活動し始めた経緯について簡潔に触れ、現状のメリットとデメリットについて語っていた。

共通する主なメリットは、自分たちの裁量で活動できることだろう。さらば青春の光の事務所「ザ・森東」は、森田哲矢が社長、東ブクロが副社長、マネージャーが社員で給料を3等分し、YouTubeチャンネルを中心に多くのメディアで活躍。また、年1回のイベント「(株)ザ・森東≪株主総会≫」を開催し、ファンを株主と見立てて交流を深めている。

ラランドが立ち上げた「レモンジャム」では、サーヤが社長、マネージャーが副社長、ニシダが社員とほぼ「ザ・森東」をトレースしているが、給料には差がある。ニシダのリュックサックに広告を出稿するサービスを実施したり、ニシダのスキャンダル写真をSNS上にさらして自己反省を促したりと、サーヤの手腕が光る事務所だ。

「オフィスカニバブル」(KOHEN合同会社)の代表・蓮見は固定給、そのほかのメンバー7人は歩合制。ダウ90000の公演(+ライブ配信)を中心に売り上げを出しつつ、お笑い芸人・役者・脚本家など、ジャンルに捉われない活躍を見せている。

吉本興業の闇営業問題を機に相方の田村淳が設立した「株式会社LONDONBOOTS」が閉所されて個人事務所の社長となった田村、妻が社長を務める「合同会社ナンセ」所属のみなみかわは、業務提携のマネージャーをつけて活動。キンタロー。は、現状全てをひとりで対応している。

いずれも、仕事内容や売り上げ、出演するメリットなどを見定めながら、自分の意思で現場に臨むスタイルに大手では味わえないやりがいを感じているようだ。

「フライングゲット」というフレーズとともに、ポーズを決めるキンタロー。=2013年
「フライングゲット」というフレーズとともに、ポーズを決めるキンタロー。=2013年 出典: 朝日新聞社

個人事務所が増えた背景

もちろんデメリットも少なくない。特に個人で動くキンタロー。は、請求書の送付や電話対応、ギャラ交渉といった作業をひとりで担うことになる。そのことで、思わぬダブルブッキングや緊急時の対応など、マネージメントがないことによるリスクは大きいだろう。

また、大手に所属していれば断りやすいオファーも、個人事務所で「NO」と言えばシンプルに本人の意思だと判断される。逆に、個人事務所はフットワークが軽いと思われているからか、一度は「決定」となった仕事がバラシ(キャンセル)になることも珍しくないようだ。

一方で、地方競馬のレースにまつわるゲーム「馬狼」といったYouTube動画をバズらせているさらば青春の光は、事前に「賭博に当たらないか」を弁護士に相談して企画を練る必要があると口にしていた。自分たちの意向が反映されやすい分、同時に責任も跳ね返ってくる。個人事務所のメリットとデメリットは、紙一重と言えるのかもしれない。

大手から独立するタレントが増えた背景には、2018年に公正取引委員会が芸能界の移籍や独立後の活動制限を“独占禁止法違反”とする見解を示し、翌2019年に元SMAPの3人のテレビ出演などをめぐって旧ジャニーズ事務所に異例の注意を行った影響があるだろう。この動きと同時並行的に、芸能人のYouTube参入が急増したのが印象的だ。

コロナ禍に入ると、YouTubeのスーパーチャット(ライブ配信中に視聴者が配信者に対して金銭的に応援、アピールできる機能)はもちろん、無観客ライブ「マヂカルラブリーno寄席」をはじめとする配信チケットが好調な売れ行きを見せるなど、ネットのライブ配信によって収益を上げる文化が定着した。

このことで、一般的には知名度が低いものの、アルバイトをせず生計を立てられる芸人が誕生。他方、賞レースや劇場出演に縛られることなく、YouTubeやTikTokの映像コントをメインに活動する「エレガント人生」のようなコンビも登場した。

そのほか、記事の有料販売で話題となった「note」や著名人が連日登場し賑わいを見せた音声SNS「クラブハウス」などのネットコンテンツが盛況。特にステイホーム期間中は個人で発信できるメディアが注目を浴びた。一方で、テレビ局の評価基準が世帯視聴率から個人視聴率に移り、若い世代を中心とするバラエティーも増加していった。

ちょうどそんな時期にブレークしたのが、お笑いタレントでYouTuberのフワちゃんだ。彼女も大手芸能事務所から離れてフリーとなり、圧倒的な明るさと共演者たちをかき回すタメ口キャラで人気を博した。こうした複合的な要素から、個人事務所で活動する芸人が増えたと考えられる。

お笑いコンビのマヂカルラブリー。野田クリスタル(左)と村上=2021年、槌谷綾二撮影
お笑いコンビのマヂカルラブリー。野田クリスタル(左)と村上=2021年、槌谷綾二撮影 出典: 朝日新聞社

実は大事なマネージャーの役割

かつてタレントは、元いた事務所のマネージャーと独立する傾向にあった。テレビが強かった時代、芸能界のノウハウにたけ、多くのコネクションを持っているマネージャーは必要不可欠だったのだろう。

メディアが多様化し、芸能界の常識も変わる中で、大手に頼らずとも活動できるようになった。ただ、そんな現在だからこそ、これまで以上にマネージャーの重要性を感じることも少なくない。

メディア関係者に若手を売り込むこと、グループの関係性を改善すること、タレントの方向性を考えて時に別ジャンルの仕事を薦めること、趣味や特技にスポットを当て活動の幅を広げること、SNS投稿のチェック、結婚やスキャンダル時の対応、ベテランのサポートなど、スケジュール管理以外にもマネージャーの役割はなかなかに多い。

有能なマネージャーがついて結果を出し始めるタレントもいる。昨今、『水曜日のダウンタウン』(TBS系)の出演で話題となり、CMやドラマでも活躍するひょうろくは、「ザ・森東」のマネージャー・ヤマネヒロマサ氏のサポートを受けてブレークしたといっても過言ではない。

そのヤマネ氏が、YouTubeチャンネル『年収爆上げチャンネル』に出演した折、ひょうろくに対して「ちゃんとした芸能事務所にいて、10年しっかり売れてない」と厳しい指摘をしつつも、「『売れない』にはやっぱしっかり理由がある」と分析し、「今まで発揮できなかった魅力」が出るような仕事をディレクションしていると語っていたのを思い出す。

大手であれ個人事務所であれ、敏腕マネージャーとの出会いがタレントの活動に大きな影響を与えるのは間違いない。

個人事務所で活躍するタレントが多い中で、問題を起こして活動停止や引退に追い込まれたタレントも目立っている。リスク回避とプロデュースする能力、豊富な人脈を培えなければ、個人で活動するのには限界があるのかもしれない。

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