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離乳食に「タラ」…魚アレルギーになりやすくなる?小児科医が解説

育児情報では、離乳食に「タラ」を与えると、アレルギーを発症しやすいというものもありますが…
育児情報では、離乳食に「タラ」を与えると、アレルギーを発症しやすいというものもありますが… 出典: Getty Images ※画像はイメージです

「白身魚のタラを離乳食に使うとアレルギーが出やすいから、1歳未満は使わないほうがいい」という話題を、SNSで見かけました。この情報は、なぜ出てきたのでしょうか?本当にタラを離乳食に導入するとリスクが高いのでしょうか?少し考えてみたいと思います。(小児科医・堀向健太/ほむほむ先生)

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ほむほむ先生:アレルギー専門医・小児科医の堀向(ほりむかい)健太。Xやブログ、theLetterで医療情報を発信し、「SNS医療のカタチ」で活動する。著書に『小児のギモンとエビデンス』『子どものアトピー性皮膚炎のケア』『ほむほむ先生の小児アレルギー教室』など。

魚アレルギー、原因食物9位だけど…

そもそも魚アレルギーは世界中で増加傾向にあるとされています[1]。実際、どれくらいの魚アレルギーの方がいるのでしょうか。

アンケート調査による結果をみてみましょう。例えばフィンランドの子どもでは5~7%と高い有病率が報告されています[2]。

ヨーロッパでは、ノルウェーやスペインなども魚アレルギーの有症率が高いと考えられており、魚をよく食べる国の方が魚アレルギーがもともと多いんですね[3]。

日本も魚をよく食べる国です。そのため、世界的に見れば日本は魚アレルギーの有病率も高いと考えられ、食物アレルギーの原因食物の9位です[4]。

出典: Getty Images ※画像はイメージです

では、この数字から、リスクは高いと考えるべきでしょうか?

ただ、実際に魚を食べてアレルギー反応が出るかどうか、すなわち経口負荷試験で実際に食べてどうかを確認すると、極めて少ないんですね。

ヨーロッパ全体では、魚アレルギーの自己申告による生涯有病率は1.4%と推定されているのに、食物負荷試験で明らかとなった有病率は、わずかに0.02%と報告されています[5]。

すなわち、アンケート調査と、本当のアレルギーは差が出やすいということです。

日本における、負荷試験を元にした魚アレルギーの有病率はあきらかではありませんが、アンケート調査に基づいている日本の魚のアレルギーに関しても、本当の有病率はそこまで高くはないでしょう。

タラは「アレルギーになりやすい」本があるけれど…

それでも、アンケート調査での日本は魚アレルギーは第9位ですから、魚アレルギーを心配される方は少なくありません。

そのため、離乳食で導入するときに心配になる方もいらっしゃるということでしょう。

特に白身魚のタラがアレルギーになりやすいと書いてある書籍情報などがあるみたいです。

実際、タラやサケは魚アレルギーのなかでも頻度が高いかもしれないとされているという記載を文献で見かけることもあります[6]。

成人の魚アレルギーの患者さん38人を対象に、オランダで行われた研究があります。その研究では、オランダでよく食べられる13種類の魚を、アンケートを実施しました。

すると、魚の中でも、タラが一番症状が起こる率が高くて84%、その次はニシンで79%となりました[7]。

出典: Getty Images ※画像はイメージです

魚アレルギーは、魚のたんぱく質に対する免疫反応が過剰に起こることで、様々な症状が起こる病気です。

症状を起こす原因となるたんぱく質をアレルゲンといい、主な原因となる魚のアレルゲンは、魚の筋肉に含まれる「パルブアルブミン」です。

魚のたんぱく質、アレルゲンに関しては様々あって、パルブアルブミン以外にも、エノラーゼやアルドラーゼという魚の筋肉に含まれる酵素や、コラーゲンという魚の皮や骨に含まれるたんぱく質などがアレルゲンとして知られています[8][9]。

そして最も多い魚のアレルゲンがパルブアルブミンで、魚の筋肉に含まれるカルシウム結合たんぱく質なのです。

パルブアルブミンは、熱に強く、加熱調理したとしても、分解されにくいという厄介な特徴を持っています[10]。

これらの特徴から、パルブアルブミンは、加工された食品中にも残存しやすく、そのアレルゲンとして残りやすいため、その点に対しては注意が必要とされています。

魚のアレルギー症状 多くは「ベータ型パルブアルブミン」

パルブアルブミンには、アルファ型とベータ型の2つのタイプに分類されています。

魚は、アレルギー的には分類が難しいのですが、硬骨魚綱、と軟骨魚綱に分けられます。

硬骨魚綱の筋肉に多く含まれるパルブアルブミンがベータ型です。

アルファ型が軟骨魚類に含まれます。軟骨魚類というのは、サメとかエイ、両生類の筋肉などに含まれます[11]。

私たちが食べる魚の多くは硬骨魚綱なので、ベータ型パルブアルブミンにアレルギー症状を起こすことが多く、アルファ型に症状を起こす人は少なくなります。

そのため、エイやサメなどは魚アレルギーがあっても食べられる人が多いということになります[12]。

出典: Getty Images ※画像はイメージです

アレルギーの原因となりやすいベータ型パルブアルブミンは、多くの魚種間、魚の種類間で構造がとても似ているということがわかっています。

そのため、1種類の魚で症状が出た場合は、複数の魚に症状が出ることが多いです[13]。

パルブアルブミンが交差(アレルゲンとして重なる)ことが多いため、1種類の魚に対してアレルギーの血液検査、IgE抗体検査で陽性になった場合は、複数の魚で陽性になることが多いのです。

しかし、最初に成人のデータでも示したように食べて症状が起こりやすかったのは、例えばタラだったという報告があり、魚種ごとに頻度は違いましたね。

すべての魚に症状が出るとは限らないとも言えます。

しかし、ベータ型パルブアルブミンの分類は現状では難しく、現実的には臨床的に魚アレルギーを分類することは困難という問題があり、魚アレルギーの診療を難しくしています。

タラでアレルギー症状が目立つのは?

さて魚の種類によってそのパルブアルブミンというたんぱく質の含有率、パルブアルブミンの含有率は、実際、魚種、魚の種類によっても大きく異なることが知られています。

一般的に白身の魚のタラ・スケトウダラ・メルルーサなどは、パルブアルブミンの含有率が多くて、赤身の魚のマグロ・カツオ・サバなどは低い傾向にはあります[14]。

白身の魚は、瞬発的な動きをするために速筋繊維が多く、パルブアルブミンが速筋繊維の弛緩に重要な役割を示すことがわかっています。

それで、白身の魚の方が、パルブアルブミンの含有率が多いためと考えられています。

タラは、パルブアルブミンの含有量が比較的高い魚として知られています。

筋肉1gあたりのパルブアルブミンの量は、マグロでは0.05 mg未満に対し、タラでは1~2.5 mgでした。

しかし、サケ、マスもタラと同じくらい含まれ、コイ、ニシン、赤魚では2.5 mg以上でした[15]。

出典: Getty Images ※画像はイメージです

ですので、傾向として、タラは1gあたりの筋肉の中に含まれているパルブアルブミンの含有量が少し多めだけれども、タラだから特別に危険という話ではないですね。

でも、アンケート調査等では、タラやサケが魚アレルギーの頻度が高いという話をしましたね。

ちょっと種明かしをしましょう。

実際、世界で食べられている魚の順位は、マグロ、サケ、タラの順番です[16]。魚アレルギーで心配されている魚種と、そして魚の消費量の順番が不思議と似ていますね。

実際食べて症状が出る人の頻度は、アンケート調査に比べてずっと低いという話をしました。

魚アレルギーの原因となるパルブアルブミンは、他の魚と交差反応するため、アレルギーを調べる血液検査などでは、どの魚でも陽性になりやすいです。

実際に食べて症状があったのがタラであっても、他の魚でも症状が誘発される可能性は高いといえます。

そして、最初に食べる可能性が高い、パルブアルブミンの含有量が多い魚はどんな魚でしょう。

コイやニシンはなかなか食べないですよね。

ですのでタラはよく食べられるために目立ちやすい可能性があります。

すなわち、よく食べる魚のなかで、タラはパルブアルブミンの含有率が高いために比較的症状が出現しやすい可能性があると考えられるでしょう。

魚を早めに食べさせてあげる方が…

新規発症の食物アレルギーの頻度を改めて見てみましょう。

日本人の魚アレルギーの頻度は、食物アレルギーの原因食物の中でも9位という話をしましたが、よく見てみると、魚アレルギーを多く発症している方で圧倒的に多いのは18歳以上の方なんですよね[4]。

出典: Getty Images ※画像はイメージです

小児では、魚アレルギーの頻度は高くないことが確認できるでしょう。

18歳以上の方にアンケート調査を行って、「魚アレルギーかも」と思っている方の中には、「ヒスタミン中毒」や「アニサキスアレルギー」が多く混じっている可能性もあります。

これらは大人のほうが多い、魚アレルギーと間違いやすい病態です[17][18]。

すなわち、離乳食の時期から魚アレルギーを発症するリスクは高くはないといえます。

ただし、パルブアルブミンの含有率が多く、食べる頻度が高いタラで症状がある人が多いという背景に、「本当の魚アレルギーではないけれども、魚を食べて症状が起こった大人の魚アレルギーの方がいる」という状況が重なり、「タラがアレルギーを発症しやすい」という情報が流布したのではないかというのが私の考えです。

離乳食に、柔らかく煮やすく入手しやすい魚として、タラはよく使われますし、タラで始めることは決して悪くないだろうと思います。

そしてそもそもが、離乳食で食べるお魚の量って、かなり少ない量ですよね。より心配は少ないことが予想されます。

タラを食べ始めたから、魚アレルギーを発症しやすくなるとか、そういったことも決してありません。

ビタミンDやカルシウムであるとか、栄養面も含め、魚を早めに少しずつ食べさせてあげる方が、心配事が少ないんじゃないかなと考えています[19]。

「タラを離乳食で与えていいの?」まとめ

最後にまとめをしておきましょう。

離乳食でタラを食べることが魚アレルギーのリスクを高めるという噂について考えてみました。

魚アレルギーの実態、タラのアレルゲン性、そして離乳食に魚を導入することに関する誤解を科学的な視点から解説しました。

(1)魚アレルギーは、魚をよく食べる地域で増加傾向にあるようです。日本では食物アレルギーの原因食物の9位です。

しかし、アンケート調査と実際の食物負荷試験では大きな差があり、本当の有病率はかなり低い可能性が高いです。

(2)タラは白身魚で、アレルギーの原因となるパルブアルブミンの含有量が多いです。

しかし、タラだけがリスクが高いわけではありません。タラがアレルギーの原因として目立つのは、世界で3番目によく食べられている魚だからかもしれません。

(3)離乳食の時期から魚を食べたとして魚アレルギーを発症するリスクは高くありません。むしろ、魚は栄養面で重要なので、早めに少しずつ食べさせる方が良いと考えます。

そして、タラを食べ始めたからといって、魚アレルギーを発症しやすくなるわけではないでしょう。
【参考文献】
[1]Kuehn A, Swoboda I, Arumugam K, Hilger C, Hentges Fo, Smith KA, et al. Mini Review Article.

[2]Kajosaari, M. Food Allergy in Finnish Children Aged 1 to 6 Years. Acta Pediatr. 1982, 71, 815–819.

[3]Moonesinghe H, Mackenzie H, Venter C, Kilburn S, Turner P, Weir K, et al. Prevalence of fish and shellfish allergy: a systematic review. Annals of Allergy, Asthma & Immunology 2016; 117:264-72. e4.

[4] 食物アレルギーの診療の手引き2023

https://www.foodallergy.jp/wp-content/uploads/2024/04/FAmanual2023.pdf

[5]Spolidoro GCI, Ali MM, Amera YT, Nyassi S, Lisik D, Ioannidou A, et al. Prevalence estimates of eight big food allergies in Europe: Updated systematic review and meta‐analysis. Allergy 2023; 78:2361 - 417.

[6]Taylor SL, Kabourek J, Hefle SL. Fish Allergy: Fish and Products Thereof. Journal of Food Science 2004; 69:11.

[7]Schulkes KJG, Klemans RJB, Knigge L, de Bruin‐Weller MS, Bruijnzeel-Koomen CA, Marknell deWitt Å, et al. Specific IgE to fish extracts does not predict allergy to specific species within an adult fish allergic population. Clinical and Translational Allergy 2014; 4:27 -

[8]Kuehn A, Hilger C, Lehners-Weber C, Codreanu-Morel F, Morisset M, Metz-Favre C, et al. Identification of enolases and aldolases as important fish allergens in cod, salmon and tuna: component resolved diagnosis using parvalbumin and the new allergens. Clinical & Experimental Allergy 2013; 43:811 - 22.

[9]Hilger C, van Hage M, Kuehn A. Diagnosis of Allergy to Mammals and Fish: Cross-Reactive vs. Specific Markers. Current Allergy and Asthma Reports 2017; 17.

[10]Mukherjee S, Horka P, Zdenkova K, Cermakova E. Parvalbumin: A Major Fish Allergen and a Forensically Relevant Marker. Genes (Basel) 2023; 14.

[11]Stephen JN, Sharp MF, Ruethers T, Taki AC, Campbell DE, Lopata AL. Allergenicity of bony and cartilaginous fish – molecular and immunological properties. Clinical & Experimental Allergy 2017; 47:300 - 12.

[12]Kalic T, et al. Patients Allergic to Fish Tolerate Ray Based on the Low Allergenicity of Its Parvalbumin. J Allergy Clin Immunol Pract 2019; 7:500-8.e11.

[13]Swoboda I, Balic N, Klug C, Focke M, Weber M, Spitzauer S, et al. A general strategy for the generation of hypoallergenic molecules for the immunotherapy of fish allergy. The Journal of allergy and clinical immunology 2013; 132 4:979-81.e1.

[14] Kobayashi Y, Yang T, Yu C-T, Ume C, Kubota H, Shimakura K, et al. Quantification of major allergen parvalbumin in 22 species of fish by SDS-PAGE. Food chemistry 2016; 194:345-53.

[15]Kuehn A, Scheuermann T, Hilger C, Hentges Fo. Important Variations in Parvalbumin Content in Common Fish Species: A Factor Possibly Contributing to Variable Allergenicity. International Archives of Allergy and Immunology 2010; 153:359 - 66.

[16]Top 10 most consumed fish in the world in 2021 (with photos)

 https://www.tuko.co.ke/406008-top-10-consumed-fish-world-2021-photos.html

[17]

本当に『だしパックの煮すぎ』で、ヒスタミン中毒が起こったのか? 医師が考察

https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/26ee6d866ca1555dd975a9c3857359e1f323f645

[18]寄生虫『アニサキス』による症状は2種類ある?アレルギー専門医が解説

https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/dbe653d1f2582a09357117b88939d3f06c4e6b82

[19]Byrd KA, Shieh J, Mork S, Pincus LM, O'Meara L, Atkins ME, et al. Fish and Fish-Based Products for Nutrition and Health in the First 1000 Days: A Systematic Review of the Evidence from Low and Middle-Income Countries. Advances in Nutrition 2022; 13:2458 - 87.

※様々なジャンルの「プロ書き手」によるニュースレターが配信される「theLetter」で配信された『ほむほむ先生の医学通信』を編集しました。
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