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R-1決勝で全員が〝フリップ芸〟の理由 何が評価を分けたのか?

『R-1グランプリ2025』のファイナルステージの3組すべてがフリップネタを披露したことが話題になったが……。※画像はイメージ
『R-1グランプリ2025』のファイナルステージの3組すべてがフリップネタを披露したことが話題になったが……。※画像はイメージ 出典: Getty Images

目次

今月8日、決勝が開催された『R-1グランプリ2025』(フジテレビ系)。友田オレが優勝を果たした今大会で気になったのは、ファイナルステージの3組すべてがフリップネタを披露したことだ。ピン芸人がフリップを常用する理由、そして「何が評価を分けるのか」について考える。(ライター・鈴木旭)
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田津原「0票」だったのはなぜか

友田オレが大会最年少の23歳で優勝し、盛況のうちに幕を閉じた『R-1グランプリ2025』。今年はファイナリストの人選、新審査員の追加、採点に対する納得感を含め、視聴者から批判が出にくい大会だったのではないだろうか。

まずファイナリストは、前々回王者の田津原理音、チャンス大城、友田オレ、さや香・新山、ハギノリザードマン、ヒロ・オクムラ、マツモトクラブ、吉住の9名。遅咲きの苦労人から決勝常連、M-1ファイナリストまで幅広い。

審査員は、小籔千豊、陣内智則、野田クリスタル、ハリウッドザコシショウ、バカリズムの5人が前大会から引き続き担当し、さらに佐久間一行と友近を加えた7人体制となった。各々の採点に個性が見られ、例年にも増して評価が分かれていたのが興味深かった。

そんな中、ファイナルステージに勝ち進んだのは、友田、ハギノ、田津原。奇しくも、3組すべてが「フリップ」ネタ、つまり文字やイラストを書いた(描いた)スケッチブックなどをめくっていくようなネタでの争いとなった。

ハギノは、小学校教師役に扮して「世の中にはこんな大人がいる」と生徒たちに教えるコントだった。あくまで授業の一環としてフリップを使用し、「紐が見つけられない人」「99%の掃除をする人」「きな粉をこぼした人」といったややマニアックなものまねを披露していく。

2023年に『ザ・細かすぎて伝わらないモノマネ』(フジテレビ系)で優勝するなど、ものまねや小道具を使ったショートネタを得意とするハギノ。それをコントの中で披露することで、単にものまねの羅列になることを回避していた。

友田は、シンプルに「ないない なないなない音頭」を歌い上げる歌ネタ。ただ、法被にはちまき姿で“町の祭りに参加するお兄さん”っぽい雰囲気を醸しだしており、「コント内での歌ネタ」という位置付けほうがしっくりくる。

香川照之など著名人の名を記したフリップをめくると「向こうは俺のことを知らない」、座敷わらしといった妖怪やUMA(未確認生物)を並べたフリップをめくると「向こうは俺のことを恐れてない」。身も蓋もない歌詞の最後に「ないない、なないなない、ないと♪」と調子よく締められると、バカバカしさが上塗りされて余計におかしい。

一方で田津原は、イラストやセリフを描いたフリップをめくっていくオーソドックスなスタイルだった。

「ぜんぜんええねんで」と前置きしたうえで、話を遮ってまで冷房の風当たりの強さを体験させたがったり、テレビの音量に文句をつけたり、進行方向が曖昧なまま自転車で先頭を走ったりする人の滑稽さを披露し笑わせる。

抑揚のある声、テンポの良いツッコミ、シーンによってタッチを変化させた手書きの文字など、見る者を飽きさせない工夫が施されていたが、そのほかのふたりと大きく違うのは、あくまで田津原は本人のままネタを披露した点だ。

ファイナルステージの得票数が、友田5票、ハギノ2票、田津原0票だったことを考えると、素の状態でのフリップ芸は年々評価されにくくなっているように思えた。
 

テレビ的で小回りが利くフリップ

なぜフリップネタはお笑いの世界で定番化したのか。その主な理由のひとつとして、視覚的なわかりやすさが挙げられる。

よくニュース番組で、何らかの数値を示した棒グラフや円グラフ、その表のポイントを短いコメントでまとめたフリップボードが使用される。何かを説明するとき、表やイラスト、文字を挿入して作成できるフリップは、何より「役に立つもの」として選ばれてきた。

当然、バラエティーでも使わない手はない。例えば1970年代~1980年代にかけて放送された『テレビ三面記事 ウィークエンダー』(日本テレビ系)では、全国ニュースで伝えられることがない事件をフリップボードや再現フィルムを使って、面白おかしく解説するスタイルで人気を博した。

一方で、お題に対してフリップボードにマンガを描いて笑わせる大喜利バラエティー『お笑いマンガ道場』(日本テレビ系・1976年~1994年終了)もヒット。富永一朗と鈴木義司の漫画家対決、ゴリラ顔の車だん吉をネタにするなど、個性豊かなレギュラー回答者による大喜利は見せ場も多く、幅広い年齢の視聴者から支持された。

これが『天才・たけしの元気が出るテレビ』(日本テレビ系・1985年~1996年終了)のオープニングで披露された「たけしメモ」になると、「こんなXXはイヤだ!!」といったお題に対し、ビートたけしがボケを畳みかけるようになる。見せ方としては、今のフリップネタと変わらないスタイルだ。

例えば「こんなサッカー少年はイヤだ!!」なら、フリップをめくるたびに「絶対にパスされたことがない」「試合の場所を教えてもらえない」「ヤニ臭い」といったボケが次々と登場する。その状況をたけしが言葉と体の動きで補足し、会場を沸かせる姿は非常に臨場感あるものだった。

演者にとって必要な情報だけを記し、フリップを入れ替えれば話を展開できる。小さな会場なら客席後方にも画が見え、自分のタイミングでめくれるなど何かと小回りも利く。この使い勝手の良さが、ピンネタのアイテムとして使われ続ける理由なのだろう。

ただし、近年はフリップネタが評価されにくい傾向にある。R-1決勝でも、おいでやす小田、寺田寛明、kento fukayaなど多くの芸人が披露しているが、苦戦するイメージのほうが圧倒的に強い。

その中の一部は、紙からノートPC(orタブレット)とモニター画面のデジタルフリップへとスタイルを変化させた。今年のR-1のファーストステージで田津原が披露した説明書のネタをはじめ、ZAZY、寺田寛明、kento fukayaらがモニター画面を使ったネタへとシフトしている。

共通する特徴があるとするなら、「基本的に役に入らない」「フリップをメインに笑わせる」という2点になるだろう。逆に今年のR-1王者・友田と2位のハギノは、コント設定に入った状態で紙のフリップを使用している。同じフリップ芸ではあるものの、ここに大きな溝があると思えてならない。
 

ヒット作は「演者がメイン」の潮流

振り返ってみれば、いつもここからのヒットネタ「悲しいとき」も、ヨハン・パッヘルベルの楽曲「カノン」が流れる中で山田一成がファイティングポーズの構えを見せ、菊地秀規が直立不動でスケッチブックをめくって“悲しいあるある”を繰り返すものだ。

2016年のR-1王者・ハリウッドザコシショウは“誇張しすぎたものまね”の補助としてフリップを使用し、2019年に同大会で優勝した粗品も「夢の中の世界」というテーマのもとパジャマ姿でフリップネタを披露している。ヒット作は、どれも演者がメインなのだ。

2020年に“クソゲー”を思わせるゲームネタでR-1王者となったマヂカルラブリー・野田クリスタルのような例外はあるが、無観客開催だったこと、加えて「自作ゲームをプレーして笑わせる」という斬新さを含めての評価だったのではないか。

それほど観客は、無意識に“演者のポテンシャル”に期待するのだと思う。フリップやモニター画面は、あくまでネタをサポートする手段であり、メインではない。そう考えると、“フリップ芸”という既視感のあるジャンルも、少し違って見えてくるのではないだろうか。
 

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