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連載

#79 イーハトーブの空を見上げて

立ち尽くしたあの日… 子どもを笑わせる〝ピエロ〟の素顔は校長先生

風船で作った刀で子どもたちとチャンバラごっこを楽しむ佐藤敦士さん
風船で作った刀で子どもたちとチャンバラごっこを楽しむ佐藤敦士さん
「イーハトヴは一つの地名である」「ドリームランドとしての日本岩手県である」。詩人・宮沢賢治が愛し、独自の信仰や北方文化、民俗芸能が根強く残る岩手の日常を、朝日新聞の三浦英之記者が描きます。
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イーハトーブの空を見上げて

子どもたちの歓声の中へ

「ピエロさ~ん」

岩手県岩泉町のこども園。

ホールで待つ約40組の親子連れがうれしそうにピエロを呼ぶ。

でも、意地悪なピエロはすぐには姿を現さない。

司会に「あれ? 聞こえなかったのかな? もう一度大きな声で呼んでみましょう!」と語らせて、子どもたちが大きな声で叫ぶのを待つ。

「ピエロさ~ん!!」

その瞬間、生真面目な教育者の顔がピエロに変わり、笛を吹きながらホールの歓声の中へと飛び込んでいく。

佐藤敦士さん(57)。花巻市の花巻北中学校の校長だ。

でも、ホールでは堅苦しい管理職の面影はない。

子どもたちの前でお尻を振って踊り、手品で魅了したかと思うと、突然ハットの中からウンチのおもちゃを取り出して、子どもたちを追い回す。

避難所で始めた絵本の読み聞かせ

2011年3月11日は県教育委員会に勤務し、盛岡市内で立ち尽くしていた。子どもが好きで教師になり、沿岸部に8年間も勤務したのに、力になれない。

沿岸部に支援物資を届けながら4月下旬、避難所で絵本の読み聞かせを始めた。

そのとき、ある支援団体がピエロのパフォーマンスで子どもたちを楽しませているのを見た。

「これだ!」

6月からはピエロの格好をして避難所を訪れるようになった。

子どもたちが笑ってくれる、ただそれだけのことが、うれしかった。

読み聞かせの最後は風船で刀を作り、子どもたちとチャンバラごっこに興じる。

ピエロの表情は「泣いているようにも笑っているようにも見える」と言われる。

舞台を全力で駆け回り、汗で化粧が落ちかけた佐藤さんの顔も、子どもたちに囲まれてまるで「うれし泣き」しているようにも見える。

(2021年7月取材)

三浦英之:2000年に朝日新聞に入社後、宮城・南三陸駐在や福島・南相馬支局員として東日本大震災の取材を続ける。
書籍『五色の虹 満州建国大学卒業生たちの戦後』で開高健ノンフィクション賞、『牙 アフリカゾウの「密猟組織」を追って』で小学館ノンフィクション大賞、『太陽の子 日本がアフリカに置き去りにした秘密』で山本美香記念国際ジャーナリスト賞と新潮ドキュメント賞を受賞。
withnewsの連載「帰れない村(https://withnews.jp/articles/series/90/1)」 では2021 LINEジャーナリズム賞を受賞した
 

「イーハトヴは一つの地名である」「ドリームランドとしての日本岩手県である」。詩人・宮沢賢治が愛し、独自の信仰や北方文化、民俗芸能が根強く残る岩手の日常を、朝日新聞の三浦英之記者が描きます。

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