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ハウスダストに食物アレルギーのリスク!? ダニより多かったものは

家のハウスダストに含まれる食べ物のたんぱく質。ピーナッツのたんぱく質が多く含まれていたら…?
家のハウスダストに含まれる食べ物のたんぱく質。ピーナッツのたんぱく質が多く含まれていたら…? 出典: Getty Images ※画像はイメージです

家のなかのホコリ……いわゆる「ハウスダスト」には、ダニや食物のたんぱく質が含まれています。これが子どものアレルギー発症のリスクを高める可能性があります。そのことが判明してきた歴史をひもといてみましょう。(小児科医・堀向健太/ほむほむ先生)

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ほむほむ先生:アレルギー専門医・小児科医の堀向(ほりむかい)健太。Xやブログ、theLetterで医療情報を発信し、「SNS医療のカタチ」で活動する。著書に『小児のギモンとエビデンス』『子どものアトピー性皮膚炎のケア』『ほむほむ先生の小児アレルギー教室』など。

1歳の時に、ダニのたんぱく質にさらされると…

以前、SNSで「ハウスダスト中にクルミが含まれていて、クルミアレルギーの原因になっているかも」という、最近の研究結果に基づいた内容をポストしました。

ハウスダストに食物のたんぱく質が含まれているというと、驚かれるかもしれません。

しかし、家の中に「ダニ」が存在することは、多くの方がご存知でしょう。

ハウスダストに含まれるダニのたんぱく質は、喘息の発症リスクや喘息発作のリスクを増加させることが知られています。

英国プール総合病院小児科で、1979年から1989年にかけて、1歳のときのハウスダスト中のダニの量と、11歳の子どもの喘息の発症リスクについての関連が検討されました。

その結果、1歳時点で多くのダニに暴露されている子どもは、11歳時点での喘息のリスクが高まることが報告されたのです。

ハウスダスト1グラムの中に10マイクログラム以上のダニのたんぱく質が含まれていると、喘息の発症リスクが4.8倍になるというのです[1]。

1グラムの1000分の1が1ミリグラム、1ミリグラムの1000分の1が1マイクログラムなので、非常に少ない量でも喘息を悪化させる可能性があることがわかります。

これらの研究からわかるように、ハウスダスト中にアレルギーを起こしやすいたんぱく質が含まれていることは、以前から知られていました。

新生児の皮膚にピーナッツオイルを塗ると…?

さらに、皮膚に食物のたんぱく質を塗布すると、食物アレルギーの原因になる可能性があるという報告もみられるようになりました。

2003年に英国のLack医師らのグループで行われたコホート研究があります。

そもそも英国では生まれたばかりの赤ちゃんに「オイルを塗る」という習慣がありました。

そして乳児期に、ピーナッツオイルを含むスキンケア用品を使用した子どもは、ピーナッツアレルギーの発症リスクが6.8倍になるという結果が出たのです。

そして特に、アトピー性皮膚炎などの既存の疾患がある方は、ピーナッツアレルギーのリスクが高まることが示されました[2]。

ピーナッツオイルやピーナッツたんぱく質を皮膚に塗ることで、ピーナッツアレルギーの発症リスクが高まることが、ある程度予想されるようになったのです。

しかし、ピーナッツオイルを塗っていないお子さんでも、ピーナッツアレルギーを発症する可能性があることもわかりました。

そこで、皮膚に付着するピーナッツのたんぱく質が原因となる場合、どのような状況で起こるのかを考えると、ハウスダスト中のたんぱく質が考えられたのです。

出典: Getty Images ※画像はイメージです

食品由来のスキンケア…大丈夫?

2015年に、おなじくLack先生らの英国の研究グループが大規模な研究結果を発表しました。

この研究では、生まれたばかりの赤ちゃんを対象に、ハウスダスト中のピーナッツたんぱく質の量やアトピー性皮膚炎の重症度を調査し、1歳時点でのピーナッツアレルギーのリスクを評価したのです。

その結果、ハウスダストに多くのピーナッツたんぱく質が含まれている家や、アトピー性皮膚炎の重症度が高い家の子どもは、ピーナッツアレルギーの発症リスクが高まることがわかったのです[3]。

この研究結果は、家の埃に含まれるピーナッツたんぱく質が、子どものピーナッツアレルギーの原因となる可能性があることを示しています。

なお最近、私たちの研究グループは、日本で販売されているスキンケア保湿剤の多くに、さまざまな食物が含まれていることを報告しました。

特に、「オーガニックやナチュラル」を強調した製品であるほど、その含有するリスクが高まりますので、留意する必要性があるかもしれません[4]。

食物のたんぱく質、どれぐらい広がる?

さて、実際にある食物を食べると、そのたんぱく質はどれくらい飛び散り、どれくらいの速度で拡散するのでしょうか?

スウェーデンのカロリンスカ研究所アレルギー研究センターでの研究があります。

研究チームは、ピーナッツのアレルギーのある子ども84人を対象に、ピーナッツを含むボウル、すなわちピーナッツのたんぱく質が空気中に拡散する状態を作り、それから0.5メートルの距離で30分間いてもらい、症状の発現を確認しました。

その結果、2%の子どもで症状が現れ、乾燥ローストピーナッツからは、一定の距離でピーナッツのたんぱく質が検出されました。

これは、近くでピーナッツを食べている人がいる場所でも、ピーナッツのたんぱく質が飛び散り症状が出現する可能性があることを示しています[5]。

この話を聞くと、近くにいる人にしか、ピーナッツのたんぱく質に対する影響はないのではないかと思われるかもしれません。

しかし、別の研究結果があります。

ベルリン大学の小児呼吸器科免疫科の研究チームがこんな報告をしています。

8世帯でリビングで卵を食べた後に調査すると、48時間後に家全体のハウスダストなかの卵のたんぱく質が検出されるというのです[6]。

出典: Getty Images ※画像はイメージです

この結果から、食物のたんぱく質は拡散しやすく、48時間以内に家全体に広がることがわかりました。

ハウスダストの中の食品のたんぱく質が…

この拡散しやすいたんぱく質は、ピーナッツだけでなく、他の食物にも見られます。

ノルウェー公衆衛生研究所の研究チームが行った研究があります。

マットレス中のハウスダスト143検体を調べたところ、魚、ピーナッツ、牛乳、卵などのアレルゲンが高率に検出されたのです。

頻度は、魚アレルゲン46%、ピーナッツアレルゲン41%、牛乳アレルゲン39%、鶏卵アレルゲン22%で検出されています。

いずれのアレルゲンも検出されなかったのは3検体のみでした[7]。

出典: Getty Images ※画像はイメージです

日本の国立成育医療研究センターでも同様の研究が行われています。

94人の子どものベッドシーツから取ったハウスダストを分析した結果、卵のたんぱく質量がダニよりもはるかに多く含まれていることが報告されたのです[8]。

さらに、最近の日本の研究報告によれば、リビングの床やベッドのハウスダストから、くるみのたんぱく質が高い量で検出されています。

これが、冒頭に示した研究結果です。

特に、最近6週間くるみを食べていない家庭でも、くるみのたんぱく質がハウスダスト中に含まれていることが分かっています[9]。

これは、日本でのくるみアレルギーの増加の一因と考えられています。

ハウスダストの中に、くるみのたんぱく質、卵のたんぱく質、ピーナッツのたんぱく質などが含まれていることがわかりました。これらがピーナッツや卵やくるみのアレルギーの原因になるのではないかと推測されます。

実際にアレルギーが出るかどうかは…

しかし、実際に食べて症状が出現する量と皮膚に触れることでアレルギーが発症する量には差があるかもしれません。

実際、ピーナッツのたんぱく質1.5ミリグラムを摂取して症状が出るかどうかの研究が行われています。

この1.5ミリグラムは、1500マイクログラムということになります。

なお、先ほど卵のたんぱく質がハウスダスト中に多く含まれているとお伝えしましたが、その量は60マイクログラム以上となると検出限界を超えるため、正確な検査ができないくらい多いとされています。

この研究では、ピーナッツアレルギーの子ども381人に、1500マイクログラムのピーナッツのたんぱく質を摂取してもらいました。その結果、症状が出たのは2%ほどでした。

ハウスダスト中のたんぱく量と大きな差がある割には、実際に食べて症状が出現する可能性はそれほど高くはないと言えましょう。

我々も似たテーマの検討を行っています。

重篤なピーナッツアレルギーの予想される30人に、500ミリグラムのピーナッツを摂取してもらいました。その結果、約半数の人が症状を示しました。

さらに、症状が出た方に対して、100倍に薄めたピーナッツ、すなわち5ミリグラムを摂取してもらったところ、症状が出た方は1人もいませんでした[11]。

このことから、ハウスダスト中のピーナッツたんぱく質は少なく、実際にそれが口に入って症状が出現する可能性は高くないものの、その家の子どもがピーナッツアレルギーになるリスクは高まると考えられます。

そして特に、アトピー性皮膚炎を持つ子どもにとっては、食物アレルギーのリスクが高まる可能性があります。

この差が、ハウスダスト中の食物アレルゲンの認知があらわれにくく、リスクになりやすい理由なのかもしれません。

【参考文献】
[1]Sporik R, et al. Exposure to house-dust mite allergen (Der p I) and the development of asthma in childhood: a prospective study. New England journal of medicine 1990; 323:502-7.

[2]Lack G, et al. Factors associated with the development of peanut allergy in childhood. The New England journal of medicine 2003; 348(11): 977-85.

[3]Brough HA, et al. Atopic dermatitis increases the effect of exposure to peanut antigen in dust on peanut sensitization and likely peanut allergy. J Allergy Clin Immunol 2015; 135:164-70.

[4]Horimukai K, Kinoshita M, Shamoto Y, Inoue T, Tanida H. Food Allergens and Essential Oils in Moisturizers Marketed for Children in Japan. Cureus 2023; 15:e34918.

[5]Lovén Björkman S, et al. Peanuts in the air - clinical and experimental studies. Clin Exp Allergy 2021; 51:585-93.

[6]Trendelenburg V, Tschirner S, Niggemann B, Beyer K. Hen's egg allergen in house and bed dust is significantly increased after hen's egg consumption—A pilot study. Allergy 2018; 73:261-4.

[7]Bertelsen RJ, et al. Food allergens in mattress dust in Norwegian homes - a potentially important source of allergen exposure. Clin Exp Allergy 2014; 44:142-9.

[8]Kitazawa H, Yamamoto-Hanada K, Saito-Abe M, Ayabe T, Mezawa H, Ishitsuka K, et al. Egg antigen was more abundant than mite antigen in children's bedding: Findings of the pilot study of the Japan Environment and Children's Study (JECS). Allergol Int 2019; 68:391-3.

[9]Yasudo H, Yamamoto-Hanada K, Mikuriya M, Ogino F, Fukuie T, Ohya Y. Association of walnut proteins in household dust with household walnut consumption and Jug r 1 sensitization. Allergology International 2023; 72:607-9.

[10]Hourihane JO, Allen KJ, Shreffler WG, Dunngalvin G, Nordlee JA, Zurzolo GA, et al. Peanut Allergen Threshold Study (PATS): Novel single-dose oral food challenge study to validate eliciting doses in children with peanut allergy. J Allergy Clin Immunol 2017; 139:1583-90.

[11] Horimukai K, Kinoshita M, Takahata N. Low-Dose Oral Challenge Test in Pediatric Patients With Peanut Allergy: Tolerance Assessment of a Trace 5 mg Peanut Test After Symptom Induction With a 500 mg Test. Cureus 2023; 15:e42245.

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