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花粉症の時期…目のまわりのケアは?アトピー性皮膚炎のまぶたの炎症
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花粉の飛散期に、目の周りの湿疹がひどくなってしまう方がいらっしゃいます。特にアトピー性皮膚炎の方は悪化しやすいものです。そして目をこすっているうちに目の障害を起こすことがあるため、治療は重要です。アトピー性皮膚炎の方の、まぶたの炎症「眼瞼(がんけん)炎」を解説します。(小児科医・堀向健太/ほむほむ先生)
スギ花粉症の時期にはいりました。
アトピー性皮膚炎は、他のアレルギーを悪化させたり、発症させやすくなることが知られています。そして花粉が多く飛散している時期は目のかゆみのために、こすって目の周りの湿疹をひどくしてしまう方も多いです。
目をいつもこすっていると、視力が下がったりするような問題を起こすこともあるのです。
アトピー性皮膚炎に関連した眼瞼炎、つまり目の周りの湿疹をひどくしないようなケアとは?眼瞼炎が起こってしまったり、ひどくなってしまったりしたときにどうしたら?解説します。
アトピー性皮膚炎自体が他のアレルギー、例えば食物アレルギー、気管支喘息、アレルギー性鼻炎だけでなく、アレルギー性結膜炎を起こすリスクを上げることはよく知られています。
ですので、アトピー性皮膚炎を持っているひとは、アレルギー性結膜炎も持っている方が多いです。
アトピー性皮膚炎があると、血液検査をしたときのIgE抗体が上がりやすくなり、例えば花粉に対して感作されてやすくなるということです。
目をこすったり、叩いたりを繰り返す……というのは、繰り返し物理的な刺激を目に起こすことになります。ボクサーが顔を叩かれるような、そんな刺激を目に起こします。
ボクサーは、網膜剥離といって目の後ろ側のスクリーンに当たるところがはがれてしまう疾患になることがあると聞いたことがないでしょうか。それ以外にも、白内障のリスクが上がったりするのです。
ウィーン大学における、ボクサーとして活動しているアマチュアボクサー 25人と、年齢が一致するボクサーではない参加者 25人と比較した研究があります。
すると、ボクサーの76%にあたる19人に打撃による目の異常があり、角膜の異常や、目のレンズである水晶体の透明度が下がっている人は5人(20%)に認められたそうです[1]。
アトピー性皮膚炎があると、目をこすったり、叩いたりします。すると、小児でも白内障とか網膜剥離を起こすことがあるのです。
昔は、といっても、10年、15年くらい前まで、小児でも見ることが時々ありました。
韓国の麟蹄(インジェ)大学において、20歳未満の韓国人2万1994人を解析した研究があります。
網膜剥離の患者3142人と対照群1万8852人を比較し、アトピー性皮膚炎と網膜剥離の関連を評価すると、アトピー性皮膚炎の患者は網膜剥離を持っている人では高頻度だったことが示されています(10.47% vs 5.53%)[2]。
目の周囲の湿疹が起こってしまうとなおさらですよね。目のまわりの湿疹治療は大事なのです。
ただ目の周りにステロイド外用薬を塗りつづけると、眼圧が上がることがあります。眼圧というのは、目の中の圧ですね。
眼圧が上がりすぎる病気を緑内障といいます。
つまり、目の周りの治療は、治療しなければ、白内障とか網膜剥離のリスクが大きく上がりますし、一方でステロイド外用薬による治療をすると眼圧を上げることがあるという問題を、それぞれ考えないといけないということです。
そして、1998年に成人で、2003年から小児で「タクロリムス外用薬」という、免疫抑制薬の外用薬が登場しました。
タクロリムスや免疫抑制薬を成分とした点眼薬も使えるようになり、目のアレルギー治療がずいぶん改善されたのです。
これらは眼圧を上げません。特にタクロリムス軟膏はアトピー性皮膚炎の方への保険適用ですので治療がぐんと楽になりました。
東京医科大学において、1991年から1993年に受診された方と、2012年から2015年に受診された方を比べて網膜剥離の合併率が大きく減っているという結果があります[3]。
「ずいぶん治療が良くなってきたな」という一端を感じられるということです。私も最近、そこまでその網膜剥離や白内障のお子さんを見ることがなくなったなあと感じています。
目の周囲の外用薬による治療は良くなってきたのです。しかし、タクロリムス外用薬に関しては欠点もあります。
湿疹があったり、目に入ったりすると刺激感があるのです。
「灼熱感」って言えばいいでしょうか、熱くなる感じです。そして、目の周りの湿疹がとってもひどい状況からいきなり塗ると特に刺激が強くなりますしみるんです。
16歳以上の中等症以上のアトピー性皮膚炎患者60人に対する研究があります。顔にタクロリムス軟膏を2週間塗布すると、刺激感は50%(30人)に起こりました。
そして刺激感のある30人のうち13人(21.7%)がタクロリムス外用薬の使用を中止することになりました。それ以外の17人は徐々にタクロリムス外用薬に耐えられるようになったそうです[4]。
湿疹がひどいほうが刺激感が悪化しますので、ステロイド外用薬を数日から1週間くらい目の周りにしっかり塗ってから切り替えていくと、刺激感がかなり和らぎます。
でも、目のまわりにステロイド外用薬を塗ると眼圧が上がるのでしたね。
京都府立医科大学から、眼圧がどれくらい上がるか、いわゆる緑内障という状況がどれくらい起こるかに関する報告があります。顔面にステロイド外用薬を使用し、眼圧を2回以上測定したアトピー性皮膚炎患者65人のデータです。
この研究では、複数回眼圧を測り眼圧が上がった人はほぼいなかったそうです[5]。
ただ、眼圧が上がったという症例報告はたくさんあります。そして、コロンビア大学からの研究では、もともと眼圧が高めの方は、目の周囲へステロイドを塗ると眼圧が上がりやすくなるという結果を報告しています[6]。
頻度は高くはないかもしれないけれど、配慮を十分しないといけないということですね。
なお、目の周りに眼軟膏という、本来は目の中にぬる軟膏を目の周囲に使う医師も多いです。
そこには一つ落とし穴があって、よく使われる「ネオメドロールEE眼軟膏」は、フラジオマイシンという抗菌薬が含まれています。そのフラジオマイシンはかぶれやすいのです。
ステロイドで炎症を抑えながら、もしかすると抗菌薬でかぶれて、訳がわからなくなってしまうことがあります。
日本人で多い接触皮膚炎(かぶれ)を起こしやすい物質に対して、皮膚科などで検査をおこなう標準的な検査キットのなかに、フラジオマイシンが含まれています。
ですのでネオメドロールEE眼軟膏を長期塗っている方は、タクロリムス軟膏に切り替えなどを考えながら使わなきゃいけないということです。
タクロリムス外用薬は、刺激感がありました。それに対するいくつかの対応策があります。
例えば、ステロイド外用薬である程度で良くしてから使うのがまず一つの方法でしょう。ほかにも、冷蔵庫などで冷やしてから使うと少し刺激感が軽くなることが知られています。
あとは抗ヒスタミン薬を併用すると、すこし刺激感が和らいだりすることがあるという報告もあります。
その方に合ってるかどうかタクロリムスがよく扱えるかどうかを様子を見ながら使っていうことになるのですが、まずタクロリムス外用薬が一つの方法です。
最近小児でも生後6ヶ月から使えるようになっている「デルゴチシニブ軟膏(商品名コレクチム軟膏)」という「JAK阻害薬」であるお薬があります。その薬もアトピー性皮膚炎に保険適用があります。
デルゴシチニブ軟膏は眼圧を上げることもありませんし、タクロリムス外用薬に比べて刺激感が少ないです。
つい最近、大阪はびきの医療センターからアトピー性皮膚炎に伴う眼瞼炎に関する症例報告がありました。一つの選択肢になるのではと考えています[7]。
それ以外にも、生後3ヶ月からのアトピー性皮膚炎に使用できるようになったジファミラスト(商品名モイゼルト)軟膏も、使用できるかもしれません。
さて、アトピー性皮膚炎に伴う眼瞼炎をざっくりまとめましょう。
まずアトピー性皮膚炎があるとアレルギー性結膜炎を起こす人が増えてきます。そして目をこすったりとか叩いたりとか、物理的な刺激に応じて白内障であるとか、網膜剥離の発症リスクが大きく上がるため、目の治療が必要です。
ただし、ステロイド外用薬を目の周りにぬり続けると、眼圧が上がることがあります。
ですので、どこかでそのステロイド外用薬を切り替えていかないといけないのですね。また、ステロイド眼軟膏にはかえってかぶれる成分が含まれている場合があります。
「タクロリムス外用薬」という、免疫抑制薬の外用薬に切り替えることを考えながら使っていくとよいでしょう。しかし、タクロリムスは刺激が強くでる場合があるので、工夫をして使う方法があるという話もさせていただきました。
そしてつい最近使えるようになった「デルゴチシニブ軟膏」や「ジファミラスト軟膏」は刺激感が少ないので、うまく使うための方策になってくればいいんじゃないかなということです。
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