連載
#90 「きょうも回してる?」
クマムシだって「テディでいい」16年ごしで会えた〝最強かわいい〟
最強かわいい
微少だけど、生命力が強いことで知られる「最強生物」クマムシがガチャガチャになりました。しかし、ただのクマムシではありません。「テディ」をかけ合わせたのだといいますが、それって何? ガチャガチャ評論家のおまつさんが取材しました。
クマムシといえば、顕微鏡で見るとグロテスクな姿ながらも、その生命力の強さから「最強生物」として知られる微小な生き物です。
そんなクマムシが、妄想工作所の乙幡啓子さんの手にかかると、「キモい×カワイイ」となり、まるで愛らしいテディベアのような「ぬいぐるみ」として生まれ変わることをご存知でしょうか。そして、それがさらに「世界を面白くする」の経営理念で知られる ケンエレファントの「情熱プロダクト」シリーズの一つとして、ガチャガチャのフィギュア化されるとは……想像しただけで、すでにワクワクしませんか。
今回は、ケンエレファントが立ち上げた「情熱プロダクト」から第2弾として、昨年12月末に発売された「テディなクマムシ フィギュアコレクション(以下、テディなクマムシ)」を紹介します。
ケンエレファントは、実在するプロダクトを精巧にミニチュア化するメーカーです。これまで駅弁や昭和レトロな家電など、誰もが一度は見たことのあるアイテムをミニチュアにして世に送り出してきました。そんな同社が新たに挑戦しているのが、「情熱プロダクト」です。
ケンエレファントの担当者は、情熱プロダクトについて 「従来のリアルプロダクトのミニチュア化に加え、作家の独創的なアイデアを形にするための新ラインとして『情熱プロダクト』を立ち上げました。これは、私たちの会社の方針である『世界を面白くしていく』という目標に向けた挑戦でもあります」と言い、「従来のラインで培ったモノづくりのノウハウを活かして、それらをカプセルに詰め込む。私達の思いや作家さんの思いや熱量も含めてカプセルに詰め込む。そんな、熱い情熱が凝縮したレーベルが情熱プロダクトになっています」と教えてくれました。
その狙い通り、情熱プロダクトは作り手の熱い情熱が凝縮した商品として注目を集め、第2弾として選ばれたのが、乙幡啓子さんの「テディなクマムシ」だったのです。
乙幡さんといえば、ガチャガチャの企画や独自の工作やアイデアを発信するクリエイターです。以前、このコラムでも「税の書道展」のアクリルバッジを紹介しました。その乙幡さんが「クマムシ×テディベア」という奇抜なアイデアに辿り着いたのは、16年以上前のことでした。
「クマムシ×テディベア」のきっかけについて、乙幡さんは「もともとはウェブサイト『デイリーポータルZ』で連載していた企画の一つでした。毎月何かしらの工作ネタを出さなきゃいけなかったんですが、当時クマムシが『最強生物』としてネットで話題になり始めていて。それを見て、そのクマムシが、気になってしょうがなかったんです」
「クマムシって顕微鏡で見るとちょっと怖い生き物なんですが、脚が8本あり、丸っこいフォルムがどこか愛らしいんですよね」といい、そこに愛らしさの代表格ともいえるテディベアを掛け合わせるアイデアが浮かんだそう。
「クマムシだってテディでいいじゃないか。ここでは可愛くしてあげたい」と乙幡さんは話します。
乙幡さんがふと気になってしょうがなかったクマムシから誕生したテディなクマムシのぬいぐるみ。乙幡さんは「当時は型紙をウェブサイトで公開して『みんなも作ってね』みたいなノリでしたが、それっきり放置してました」と笑います。
このクマムシぬいぐるみが、乙幡さんの手を離れて16年。まさかフィギュアとして復活することになるとは、当時の乙幡さんも予想していなかったと言います。
ケンエレファントの担当者が「テディなクマムシ」を知ったのは、乙幡さんが過去に作ったテディなクマムシぬいぐるみの写真でした。その写真を見た担当者は「ぬいぐるみのモチーフとして『クマムシ』をセレクトされること自体が、『とても乙幡さんらしい独創的な発想だな』と感銘を受けた」といい、「ただただ可愛いものを作るのではなく、そこに面白さも加わって、かわいさとおもしろさが二極化するのではないかというワクワク感も『情熱プロダクト』ならではのもの」と感じたそうです。
こうして、情熱プロダクト第2弾として「テディなクマムシ」の企画がスタートしました。「テディなクマムシ」はもともとぬいぐるみとして作られたものです。それをフィギュア化するためには、細かな調整が必要でした。
乙幡さんは、ケンエレファントの担当者と作る工程で様々な課題があったと言います。
「フィギュア化するにあたって、『ぬいぐるみ感』をどう再現するかが課題でした。例えば、布の縫い目を表現するために“縫い目っぽいディテール”を彫り込んでもらったり、またはぬいぐるみの丸みを表現したり。担当者と打ち合わせしながら、フロッキー加工(表面をふわふわした質感にする加工)を採用したりしました」 (乙幡さん)。
テディなクマムシの足を一部稼働する仕組みを取り入れたことにも特徴があります。
これは、元となったぬいぐるみの特徴にある「すべての足が動くようにボタンを付けた」ものを踏襲したもの。これにより、可愛らしいだけでなく、遊び心も詰まったアイテムに仕上がっています。
「最初に完成品を見たとき、声に出して『かわいい!』って言っちゃいましたね。担当者さんと細かい調整を重ねた甲斐がありました」
商品化されたテディなクマムシに「なんと声をかけるか」と尋ねると、乙幡さんは「ほんと良かったなとしか言えない。16年ぶりにまた会えて……。クマムシの本来の姿を見たら目を背ける人がいっぱいいるのに、お前良かったな。こんなに可愛がられて……」と笑って教えてくれました。
こうして生まれた「テディなクマムシ」は、最強生物クマムシを「最強キモ可愛い」に変身させた乙幡さんの発想力と、ケンエレファントの高い技術力が見事に融合したガチャガチャとなりました。
これからも情熱プロダクトから生まれる、新たなアイデアとガチャガチャの可能性に期待が膨らみます。
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「テディなクマムシ フィギュアコレクション」は、BROWN、 IVORY、YELLOW、PINKの全4種。1回500円。
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