MENU CLOSE

エンタメ

バカリズム脚本ドラマ、ヒットの理由 百戦錬磨の俳優陣から見た特徴

バカリズムさん=2018年5月23日、東京都内、迫和義撮影
バカリズムさん=2018年5月23日、東京都内、迫和義撮影 出典: 朝日新聞社

目次

バカリズム脚本の連続ドラマ『ホットスポット』(日本テレビ系)が好評を博している。これまで数々の話題作を手掛けてきたバカリズムだが、“ドラマ脚本家”としての特徴はどこにあるのか。俳優陣、これまでの本人の発言を参考に、バカリズムが生み出すドラマの魅力を考える。(ライター・鈴木旭)
【PR】互いに支え合い将来を選べる社会を目指し、ろう者として挑戦を続ける

のどかな町に潜む宇宙人

今年1月にスタートし、初回からSNSを沸かせているテレビドラマ『ホットスポット』(日本テレビ系)。市川実日子主演、バカリズム脚本による物語は、ほかのドラマにない独特の魅力を放っている。

舞台は、富士山の麓にある山梨県の田舎町。ビジネスホテルのフロント業務をこなす遠藤清美(市川)は、健康のため自転車で通勤するシングルマザーだ。ある日の帰宅時、車にはねられそうになる直前に、職場の同僚である高橋孝介(角田晃広)に助けられる。

後日、感謝の思いを伝えると、高橋の口から「本当、誰にも言わないでね。あの……実は俺、宇宙人なのね」と予想だにしなかった発言が。清美は、それを隠しきれず、地元の幼馴染である日比野美波(平岩紙)、中村葉月(鈴木杏)に話してしまう。

そこから、奇跡的に3人と高橋との“特殊な関係性”が築かれ、ありふれた日々に少しずつ変化が訪れるストーリーだ。

本作は、“地元系エイリアン・ヒューマン・コメディー”と銘打っているように、SFの要素を持ちながらも、実に素朴な日常の機微をあぶり出している。高橋は、宇宙人の父と地球人の母のもとに生まれ、すっかり人間に馴染んだ地元民。そのため、「宇宙人なのね」と伝えられた清美は、「はぁ……わかりました」と真に受けず愛想笑いする。

そこから、高橋が宇宙人であることを証明しようと能力を披露するわけだが、指で10円玉を曲げたくらいで清美、美波、葉月は信用しない。むしろ、「いかに高橋から突飛な言動を引き出し、笑いに耐えるか」を半笑いで競い合う“変わり者を囲む会”のような様相を呈する。

微妙に人間と骨格が違う、能力を使うと副作用で痒みが生じたり発熱したりする、冷たい物を口にすると歯がしみる……。高橋が話す宇宙人の特徴は、ほとんど人間と変わらない。だからこそ、3人の疑いと興味は増し、能力を信じるようになってからも秘密を持つ中年男性を翻弄するような展開が目立っていく。

あくまでもドラマの軸は、のどかな町に暮らす人々の日常。そこに「もし宇宙人と地球人のハーフが潜んでいたら?」という視点が、これまでにない新鮮さを放っているのだと思う。

ドラマ制作前から備わる下地

『ホットスポット』は、同局のヒットドラマ『ブラッシュアップライフ』の制作チームが再集結した新作だ。いずれも脚本はバカリズムで、前作では「Asian Television Awards」で日本人初となる最優秀脚本賞のほか、数々の賞を受賞してる。

そもそもバカリズムは、お笑いコンビとして活動していた時代からネタを書いており、コンスタントに開催される単独ライブも軒並み評価が高かった。

2005年のコンビ解散後は『R-1ぐらんぷり』決勝に4度進出、大喜利チャンピオンを決める『IPPONグランプリ』(フジテレビ系)で圧倒的な強さを誇るなど、類い稀なセンスと発想力を持つピン芸人として知られていく。

2011年には、観覧客を前に一発本番で収録されるシチュエーション・コメディー『ウレロ☆未確認少女』(テレビ東京系)の第8話で、東京03・飯塚悟志とともに脚本を担当。

2012年公開のオムニバスコメディー映画『バカリズム THE MOVIE』(ソニー・ミュージックエンタテインメント)では監督・脚本・主演を務めた。この時点で、すでにお笑い芸人の域に止まらず演者・作家としてコメディーの下地は備わっていたことになる。

初めて連続テレビドラマの脚本を手掛けたのは、2014年に放送された竹野内豊主演の『素敵な選TAXI』(カンテレ・フジテレビ系)。この作品で「市川森一脚本賞」奨励賞を受賞後、2015年の『かもしれない女優たち』(フジテレビ系)、2016年の『黒い十人の女』(読売テレビ/日本テレビ系)といったドラマに携わり、着実にキャリアを重ねていく。

2017年には、連続ドラマ『住住』(同系)、『架空OL日記』(読売テレビ/日本テレビ系)の原案・脚本を担当。特にこの2作品は、後の『ブラッシュアップライフ』、『ホットスポット』にも通じるバカリズムらしさが感じられる。

例えば『住住』は、同じマンションに住む芸能人(「シーズン1」は、バカリズム、オードリー・若林正恭、二階堂ふみ)が本人役で出演し、お互いの部屋を訪れては何気ない会話が展開される。

若林が「僕の部屋で僕の本読むのやめてもらえますか?」と言えば、バカリズムは平然と「何でですか?」と返し、「嫌じゃないですか?逆の立場だったら」「俺は嫌ですよ(笑)」「じゃやめてくださいよ」「若林さん、なんかそういうの、ありなタイプかなと思って」「いや、ありじゃないですよ俺」などと続くやり取りには、プライベートを垣間見ているようなリアリティーがあった。
 

「自然なセリフ」俳優陣の感想は

俳優陣はバカリズムの脚本をどう見ているのか。Tverで配信されている日本テレビの動画『脚本バカリズム!新日曜ドラマホットスポット 宇宙人の正体に迫る!見どころSP!』の中で、ドラマのメイン出演者である市川、平岩、鈴木はこう語っている。

「狙って面白いこと言ってるわけじゃないじゃないですか、登場人物の人たちは。普通に自分の意見を言ってるだけなのに、すごくおかしいっていう。それぞれちゃんと個性があるんだなって」(市川)

「セリフ覚えるの大変だなと思いつつ、だけどやっぱ『これ言いたい!』っていうセリフがたくさんある」「体は脱力してなきゃいけないけど、意識ははっきりしてなきゃいけなくて、なかなか高度なことをしている気がします」(平岩)

「ちゃんとギアを入れてないと、あのセリフ量ってしゃべれないけど、ギアを入れすぎちゃうと違うから、その力の入れ加減の塩梅がまだぜんぜんわかんない。なんかマニュアル車を運転してるみたい」(鈴木)

2023年に放送された『お笑い実力刃presents 証言者バラエティ アンタウォッチマン!』(テレビ朝日系)の中で、バカリズムは自身が生み出すセリフについてこう語っている。

「『サブいから言いたくないよ、このセリフ』みたいな感じで(笑)、やっぱ人から渡されたセリフってあるじゃないですか。極力、そのストレスを自分が感じたことがあるから感じさせたくないっていう。(中略)最優先は、台本の存在を見えなくすることだから」

また、コントとドラマで共通するのは、非日常的な設定でありながら、日常と地続きのおかしさが広がっていることだ。その世界(or人物)特有のルールをベースに物語を進行し、途中で展開を崩したり、腹落ちするちょっとした要素を加えたりして見る者の意表を突く。
 

バカリズムに影響を与えたもの

その根底には、1985年公開のSF映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』、そして幼少期に「ドラゴンクエストⅢ」の発売が待ちきれずノートでゲームを自作するほど熱中したテレビゲームの影響があるようだ。

2024年12月に放送された『スイッチインタビュー』(NHK Eテレ)の「バカリズム×堀井雄二」EP2の中で、「ドラゴンクエスト」の生みの親であるゲームデザイナー・堀井から『素敵な選TAXI』はタイムスリップものでいろんな選択をしていくところが「ゲームっぽい」との指摘を受け、バカリズムはこう答えている。

「セーブしたところからやり直そうっていう、セーブ機能の考え方じゃないですか、あれって。けっこうそういうゲームあるじゃないですか、選択によってエンディングも変わっていくみたいな。そういうのも好きなので、(筆者注:『素敵な選TAXI』は)完全にゲームの影響ですね」

セーブ機能以外にも、ユニークで親しみやすいキャラが持つ特性、情報を小出しにしつつ視聴者が想像する斜め上をいく展開のさせ方などは、ゲーム的な発想を感じさせる。

かねてお笑い芸人が映画やドラマの脚本を担当することはあったが、単に話題作で終わらず高いクオリティー、人気、実績を誇る“脚本家”として確固たるポジションを築いたのは、バカリズムが先駆けと言えるのではないか。

その後、かもめんたる・岩崎う大、シソンヌ・じろう、空気階段・水川かたまり、吉住ら後続たちも次々とドラマ脚本を手掛け、最近ではヒコロヒーが漫画原作の連続ドラマ『トーキョーカモフラージュアワー』(ABCテレビ/テレビ朝日系)の脚本を務めている。

文才がある芸人の可能性を広げ、若手にチャンスをもたらした意味でも、バカリズムがドラマ界に進出した影響は大きいだろう。
 

関連記事

PICKUP PR

PR記事

新着記事

CLOSE

Q 取材リクエストする

取材にご協力頂ける場合はメールアドレスをご記入ください
編集部からご連絡させていただくことがございます