連載
#25 #令和の専業主婦
介護で制限、体力ギリギリ…〝106万の壁〟撤廃、反対理由に「時間」
「働き損」の回避、難しい人とは
「年収の壁」について、国での議論が進む中、「壁」を意識して労働時間を調整してきた人たちはいま、どのようなことを考えているのでしょうか。人材系の企業が700人以上の主婦に実施した意識調査では、「106万円の壁」の撤廃に49%が賛成しているという結果に。一方、「反対」と答えた22%の理由とは――。
パートタイム労働などをする主婦・主夫層への調査を行っているしゅふJOB総研では、昨年11月末から12月初旬にかけて、「106万円の壁」についてのインターネット調査を実施。715人が回答しました。
106万円の壁とは、従業員数(厚生年金保険の被保険者数)が51人以上の企業で、週20時間以上勤務し月収8万8千円以上の従業員に対し、健康保険や厚生年金保険などの社会保険への加入義務が発生するもの。8万8千円に12(カ月)をかけると、およそ106万円となるため、「106万円の壁」と呼ばれます。
106万円を超えて社会保険に加入し、その分の手取りが減少するのを避けるため、従業員側は就労時間を調整している現状もあります。
調査では、「規模要件や収入要件を撤廃し、社会保険の適用範囲を拡大することについてどう思うか」と質問。「大いに賛成」と「どちらかといえば賛成」を合わせて49%が「賛成」の意思を持っていることがわかりました。
一方、「どちらかといえば反対」と「大いに反対」を合わせると、22.4%が「反対」と答えました。
調査では、社会保険の適用範囲が拡大し、年収の壁の中でも「106万円の壁」が撤廃された場合に想定される、働く状況の変化(複数回答可)も質問。
拡大に「賛成」と答えた人の中で、最も多く挙げられたのが「いまより年収を上げたくなる」(47.3%)、2番目に多かったのは「いまより労働時間を増やしたくなる」(37.9%)、3番目に多かったのは「仕事をする際の希望に影響はない」(24.5%)でした。
この結果について総研の研究顧問・川上敬太郎さんは「賛成の人は就業へのポジティブな影響がより顕著になったものの、反対の人は『働きたいと思わなくなる』『今より労働時間を減らしたくなる』など就業へのネガティブな影響がより顕著になり二極化する様子がくっきりと表れています」とコメントします。
社会保険の加入条件をめぐっては、106万円の収入要件をなくすことが検討されている一方で、現状ではこれまでのところ「週20時間以上」という時間要件の変更については議論が聞かれません。
調査で「撤廃に反対」と答えた人の自由回答の中には、20時間以内での働き方を重視していると想像できる回答もありました。
「年収に制限をかけて働く人にはいろいろな理由があると思う。介護とか、わずかな時間しか働けないなど」(40代)
「子どもを産んでほしいのか働いてほしいのかはっきりしてほしい。両方は無理!」(40代)
「壁があったから、就業時間を減らすことができた。これからは子どもの学校行事などで休みたくても休めなくなるかもと不安に思います」(50代)
このことについて川上さんに聞くと、「主婦・主夫層の前には年収の壁以外にも、家のオペレーションに費やさなければならない『時間制約の壁』という強固な壁もそびえています」と指摘します。
最低賃金が上がり続けている現状で、「20時間働けば106万円の壁を自ずと超えることになる人が増えました」と川上さん。
「106万円の壁を超えて社会保険料の支払いが発生すれば手取りは減りますし、それによって一定水準以上まで収入を増やさないと、壁を超える前よりも却って手取りが減ってしまうという『働き損』も生じます」とし、「『時間制限の壁』による制約が、週20時間のラインとあまり変わらない人は労働時間を延ばしにくく、働き損の回避が難しくなります」と解説します。
自由回答にはこんな声も。
「体力的にぎりぎりなのに経済的にぎりぎりにしないでほしい」(40代)
川上さんは「生活費を確保するために週20時間未満に抑える選択をする人がいることも考えられる。ご家庭の事情は様々です。物価高で家計がずっと圧迫され続けている中、106万円の壁が撤廃されることで、より厳しい状況に置かれる人たちがいる可能性にも配慮した上で、丁寧な制度設計と説明が求められるのだと思います」と話しています。
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