連載
#51 イーハトーブの空を見上げて
「竹製しょいかごじゃなければダメだ」と… 割って編んで兄弟で制作
シンと静まりかえった15畳ほどの作業場に、兄弟が無言で腰掛けている。
兄の上平福也さん(71)が、ナタを使って青竹からスルスルと無数の竹ひごを作り出す。弟の敬さん(65)はそれを受け取り、手際良くカゴ状に編み込んでいく。
岩手県一戸町の「上平(かみたいら)竹細工店」。
兄弟が作っているのは、朝市などでいまも使われている竹製の「しょいかご」だ。
竹細工は竹割りから始まる。
長さ約8メートルの竹を縦に4分割し、ナタで徐々に細くした後、節を削って、幅約5ミリ、厚さ約1.5ミリの竹ひごへと仕上げていく。
「一見、編む方が難しそうに見えますが、実は竹を割る方が難しいのです。太さや厚さが一律でないと、きれいなカゴには編めないから」
弟の敬さんに褒められて、兄の福也さんが照れて笑った。
「均一に削れるようになって一人前。うまく削れるまでに3年かかりました」
店は先代の父が始めた。港町である青森県八戸市に修業に出て、しょいかご作りを学んだ。
一戸町に店を開いたのは1956年。
福也さんは中学卒業後に家業を継ぎ、敬さんはすし職人になった後、十数年前に竹細工の世界に戻った。
昭和の時代、しょいかごは飛ぶように売れた。
農家や漁師は竹製のカゴやザルを使って魚やワカメ、農作物を市場へと運んだ。
時代は変わり、市場で使われるカゴやザルはいま、ほとんどがプラスチック製品になった。
漁師は魚を発泡スチロールの容器に入れて、車に積んで市場へと運ぶ。
それでも、軽くて丈夫な日本古来の竹製品の魅力が再発見され、都内の有名デパートなどからの注文が絶えない。
弟の敬さんが言う。
「プラスチック製品を自粛する社会的な流れの中で、竹の良さを見直してもらえれば」
それを聞いて、兄の福也さんが笑う。
「実際、八戸の朝市なんかに行くと、まだ『竹製のしょいかごじゃなければダメだ』なんていう人がいるんだよね。そういうお客さんのために、うちらはいまも竹かご作りしているわけさ」
(2022年9月取材)
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