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「テレビで見てない」若年層に届くか〝スマホ向けコント〟配信の狙い

コントを「テレビで見てない」若年層が増えているとされるが……。※画像はイメージ
コントを「テレビで見てない」若年層が増えているとされるが……。※画像はイメージ 出典: Getty Images

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スマホ向けのショートコントコンテンツ『本日も絶体絶命。』の配信が開始された。テレビとSNSのクリエーターがタッグを組み、コンスタントにコントを投稿し始めた狙いとは? 50年以上前に流行したバラエティー番組との類似性と現在の課題について考える。(ライター・鈴木旭)

スマホ向けコントの配信がスタート

8日より、TikTok・Instagram・YouTubeアカウントで配信される縦型ショートコントコンテンツ『本日も絶体絶命。』がスタートした。

実力派コント師のハナコ、吉住、かが屋に加え、俳優・窪塚愛流と人気インフルエンサー・ウンパルンパがレギュラー出演。そのほか、俳優・田中美久といったゲストを迎えながら、スマホに特化したショートコントをコンスタントに更新していくという。

縦型の動画は、視野の狭さからセリフを話す人物を追ったカットが多くなる。壮大な景色や大人数の迫力を味わうのには向かないが、スマホ画面ならではのリアリティーが感じられるとともに、次々とスワイプできる操作性からテンポのいいコンテンツとは相性がいい。

『本日も絶体絶命。』に投稿されているショートコントはすべて1~2分だ。再生した瞬間に状況がわかり、スピード感のある展開でオチへと向かっていく。

例えば「面会室でそば食わす弟子」は、そば屋の弟子(かが屋・加賀翔)が穴の開いたアクリル板に1本の麺を入れ、留置されたおやっさん(ハナコ・岡部大)に「今食べて、店を任せられるか判断してもらいてぇんすよ」と訴えかける。

戸惑う岡部が「これダメですよね?」と看守(窪塚)に尋ねると、「私は何も見ていません」と首を振るばかり。意を決してアクリル板越しに1本の麺を食べ始め、弟子が「どうですか?」と迫るのだが、おやっさんは「わからん!」と首を振る。「ダメか!」と崩れ落ちる弟子におやっさんが「食べ方の問題よ」とフォローしてラストを迎える。

そのほか刑事モノの「熱量しかない捜査本部」、個室トイレを巡る「漏れそうで絶対絶命」、法廷モノの「大人気アイドルの裁判」、そば食わす弟子の続編「面会室でパスタ食わす弟子」、競技かるたの一戦を切り取った「百人一首の詠み手と浮気した彼氏」など、ユニークなラインナップが並ぶ。「絶体絶命」をテーマにピンポイントで笑わせる、まさに現代らしいコンテンツだ。
 

「テレビ×SNS」に相応しい布陣

スタッフの顔触れからも本気度がうかがえる。総合演出は、『有吉ゼミ』『有吉の壁』といったヒット番組を手掛ける日本テレビの橋本和明。監督はフォロワー数200万以上を誇る人気TikTokクリエイターコンビ「伊吹とよへ」の伊吹が務める。

加えて、日本テレビ出身でアメリカ発のSNS「DispoJapan」のカントリーマネージャーも務めた株式会社QREATIONの代表・米永圭佑がプロデューサーを担当。「テレビ×SNS」のコンテンツに相応しい布陣で臨んでいる。

テレビに引けを取らないクオリティーで制作されたスマホ向けの作品というと、俳優・のんが主演のLINE NEWSオリジナルドラマ『ミライさん』(配信は2018年)が思い浮かぶ。その後、2019年にLINEは縦型動画コンテンツ「VISION」を立ち上げ、2周年を記念したドラマ「上下関係」が米国アカデミー賞公認の国際短編映画祭『SSFF&ASIA2022』で特別賞を受賞した。

お笑いの分野では、2021年に同じ「VISION」で板尾創路が俳優や芸人と共演する縦型コント番組「板尾イズム」がスタート。好評を受け、翌年には「板尾イズム2」が配信された。シンプルな設定ながら板尾のシュールな世界観をじっくりと収めたもので、第1弾は1話約10分、第2弾は約5分という尺で披露されたのが印象深い。

もちろん、これまでにも若手芸人4人によるガーリィレコードチャンネルの「気配斬り」のように、彼らの真似をした一般ユーザーによる短い尺のミーム動画がTikTok上に多数投稿されることはあった。しかし、現役のいわゆる“テレビマン”がショートコントでSNSに参入するのは『本日も絶体絶命。』が初めてではないだろうか。

同コンテンツは今年9月までの3カ月間で60本~70本のコントを投稿する予定だという。この早いペースもSNSの更新頻度に寄せたもので、かなりの労力を要することは想像に難くない。

日本での広告収益プログラムは、TikTok、Instagram共にYouTubeに比べて10年以上も遅れている。テレビ側がSNSに本腰を入れられなかったのは、この点も影響したのかもしれない。
 

ショートコントは1970年前後にも流行

カラーテレビの世帯普及率が90%を超えた1970年前後にも、ショート映像で笑わせる番組はあった。放送作家出身の大橋巨泉と前田武彦がトーク・進行を務めるパートとショートコントやギャグのパートで構成された『巨泉・前武ゲバゲバ90分!』(日本テレビ系)だ。

コント55号のほか、宍戸錠、常田富士男、藤村俊二、朝丘雪路、うつみ宮土理、松岡きっこら俳優・歌手が多く出演。90分の間にナンセンスなギャグやショートコントが立て続けに流れる斬新な手法で高視聴率をマークし、ヒッピー姿で演じられるハナ肇のギャグ「アッと驚く為五郎」は流行語にもなった。

『ゲバゲバ90分!』は、教育番組を作ろうとしたことがきっかけで制作されている。当時NHKで放送されていた『セサミストリート』がテレビ関係者の間で「面白い」と話題になり、間もなく日本テレビのプロデューサー・井原高忠がアメリカ現地へ視察に向かった。

そこで、子どもを飽きさせないよう短い時間でいろんな映像を見せる手法が、『ローワン&マーティンズ ラフ・イン』(1968年~1973年に米NBCで放送されたダン・ローワンとディック・マーティンによるコメディー番組)からきていると知り、帰国後にその映像を取り寄せ視聴したことで番組の方向性が決まったという。

ディレクターとして携わった齋藤太朗は、日本テレビのプロデューサー・土屋敏男のYouTubeチャンネル『みんなのテレビの記憶』(2022年11月24日に配信された動画)の中で、初めて『ラフ・イン』を見た衝撃をこう振り返っている。

「『あー、こりゃあ面白ぇや』と同時に、この短いシークエンスでもってドンドコドンドコ笑いをとる、これを身に着けなきゃダメだよな。よし、『ラフ・イン』の日本版みたいなやつを作ろうかっていうのが、『ゲバゲバ90分!』をやろうというきっかけの始まりなんですね」

またプロデューサーの井原は、「誰もやらないことをやる」という方針のもと当時珍しかった90分番組を決行したという。あまりに労力を要するため長くは続かなかったようだが、短いネタを矢継ぎ早に見せる手法は『ザ・細かすぎて伝わらないモノマネ』(フジテレビ系)など、今のバラエティーでも健在だ。
 

若年層はコント番組を見ていない

テレビ離れが叫ばれて久しいが、そんな中でもコント番組はとくに減少の一途をたどっている。

その主な要因として挙げられるのが、スタジオコントは予算と手間がかかるという現実だ。コント台本を作り、美術セットを組み、リハーサルを経て本番を迎える。終われば基本的にセットは取り壊されるため、これを何本も長期的に行うのは非常にコスパが悪い。

一方で、ゲームやロケ企画はそれ1本で番組の見どころが作れる。『めちゃ×2イケてるッ!』や『はねるのトびら』、現在の『新しいカギ』(すべてフジテレビ系)に至るまで、コントから企画へとメインが移っていったのは、この点が大きいようだ。

しかし、それを工夫して走り切った『笑う犬』シリーズ(同、1998年~2003年レギュラー放送終了)のような番組もある。番組の作家を務めた内村宏幸は、著書『ひねり出す力 “たぶん”役立つサラリーマンLIFE!術』(集英社クリエイティブ)の中で、「ある日、予算がないという事態」となり、自販機の前でどうでもいいような会話を続けるギャル男とギャルのコント「トシとサチ」が生まれたエピソードを綴っている。

コント番組は20年以上前から「予算がない」問題と向き合っていて、演者やスタッフの情熱によって完全な消失を免れてきた。とはいえ、単発や不定期放送が多くなり、レギュラー化されたとしても消滅するか形を変えるかのいずれかになった。この一番の問題は、「コント番組を見ていない若者」が増加したことにある。

前述の『新しいカギ』は、ユニットコントが中心の番組だったものの視聴率が低迷。レギュラーメンバーらが全国の学校を訪れ、開催される企画「学校かくれんぼ」が若年層、とくに小中学生にヒットし、今年の『FNS27時間テレビ』のメインを張る人気番組となった。

今も少ないながらコントは差し込まれているが、「企画が終わり、コントに移った瞬間に視聴率がガクッと落ちる」という声を番組関係者から聞いたことがある。つまり、ターゲットである若い視聴者は、企画だけを見てスタジオコントはスルーしているのだ。

『本日も絶体絶命。』の配信は、そんな状況下でスタートしている。今も昔も若年層から支持されるコンテンツが時代を作るのだとしたら、「スマホでコントの面白さを知れば、やがてテレビにも還元されるはず」という狙いも少なからずあるだろう。

ともあれ、まずは若年層が利用するSNSのプラットフォームでショートコントが支持されることを願うばかりだ。
 

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