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連載

#19 大河ドラマ「光る君へ」たらればさんに聞く

定子さまが残した辞世の歌 「いつも、いつも」と笑いあった清少納言

京都市にある定子さまのお墓。「一条天皇皇后定子鳥戸野陵」と看板がありました
京都市にある定子さまのお墓。「一条天皇皇后定子鳥戸野陵」と看板がありました 出典: 水野梓撮影

紫式部を主人公とした大河ドラマ「光る君へ」。最新回では、3人目の子どもを産んだ定子さまが亡くなる展開が描かれました。清少納言を推してきた編集者・たらればさんに、定子さまが残した和歌にまつわる清少納言の思いや、ふたりのあたたかいやりとりが描かれたドラマのシーンについて聞きました。(withnews編集部・水野梓)

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出産で命を落とした、定子さま

水野梓・withnews編集長:たらればさん、ついにこの展開がきてしまいましたね…。1000年、出産後に中宮・定子さまが24歳で命を落とすことに……。

たらればさん:はい……。もちろん覚悟はしていたんですが(千年前に亡くなっている人物なので)、大河ドラマで好きな役柄が亡くなるって、こんなに悲しいんですね……。
水野:出産で命を落とす女性が、現代に比べてとても多かった時代なんですよね。

たらればさん:出産のとき、母子ともに健康でいられるのが5割を切ったと言われる時代です。

定子さまは3人の子どもを立て続けに産みました。特に二人目の産後の肥立ちが戻る前に第三子を妊娠しておりまして、これは身体にいいわけがないよねと思います。

ただ、定子さまは父の道隆が亡くなって、兄の伊周と弟の隆家が配流となって、政治的に追い詰められていた時期です。

「家」を再興するには帝との子どもをつくるしか手立てがない、と周囲から言われていた時期でもありました。

水野:つ、つらい……。

たらればさん:ドラマでは父の道隆や兄の伊周に「皇子を産め、早く皇子を産め」と迫られるシーンがありましたけど、定子さまにとってこういう「呪い」がずっと効いていて、じわじわと苦しめていたんだな……と思ってしまいます。

運命を悟り、定子さまが残した歌

水野:定子さまは、亡くなるときに「御帳台の帷子」に文を結びつけていたそうですね。

たらればさん:第三子の出産に臨む際、すでに自らの運命を悟っていた、ということですね。

三首詠まれていた、と言われています。もっとも有名な「夜もすがら」は一条帝宛てとされています。
「夜もすがら 契りきことを忘れずは 恋ひむ涙の色ぞゆかしき」
一晩中わたしと過ごして約束したことを、もしもあなたが忘れずにいてくれるのであれば、(死にゆく)わたしを慕う、あなたの涙の色を見てみたかった……と……。

水野:うぅ……。

たらればさん:この定子の遺詠は、一般的に一条帝宛てだと解釈されています。もちろんわたくしも一条帝宛てだと思っているのですが、ただ、世界でただ一人だけ「これはわたし宛でもある」と考えた人物がいたのではないか…とも思っています。

ずっと定子のそばで仕えていた清少納言です。これこそが、「少納言が定子没後も菩提を弔い続けた契機だったのでは」という説を、わたくしが8年くらい前に勝手につぶやいています。
定子さまのお墓につながる小道から見えた、京都市街地
定子さまのお墓につながる小道から見えた、京都市街地 出典: 水野梓撮影
水野:たしかに、これが清少納言宛てでもおかしくないと思うほど、定子さまと清少納言の絆は強かったと感じます。

たらればさん:高価な紙を一条帝から賜った定子さまに「この紙は何に使えばいいと思う?」と尋ねられて、「(まさに夜どおし添い従う)枕にしてはどうですか」と答えた者こそ、清少納言ですしね。

誰よりも自分を評価してくれたお后さまが、辞世の句で「夜もすがら」「涙の色」と詠んだと知った時、『枕草子』の作者の心中はいかばかりか。その覚悟は、その決心は……と思いを馳せるわけです。

水野:そうですね……。

「いつも、いつも」と笑いあう二人

水野:でも、ドラマでの定子さまと清少納言のふたりの描かれ方を見ていても、定子さまの遺詠の宛先が清少納言……という説もうなずけます。

ドラマの中では、清少納言がお菓子を差し出し、定子さまが歌を詠み、ふたりでほほ笑むシーンもありましたね。

たらればさん:このお菓子トークは、『新訂 枕草子』二二四段「三条の宮におはしますころ」が元ネタですね。

「三条の宮」とは定子さまが出産のために移住した平生昌邸のことで、『枕草子』における明確な日付けがわかっている(長保二年(西暦1000年)五月五日)最終記事となります。

水野:このときに定子さまが清少納言に贈った歌は……。
「みな人の花や蝶やといそぐ日も 我が心をば君ぞ知りける」
たらればさん:私訳は、「人々が花だ、蝶だと、いそいそと浮かれているこの日(端午の節句)にも、あなただけはわたしの心を分かってくれているのですね」です。

この頃はすでに、中関白家(定子さまの一族)の政治的な凋落が決まりかけていた頃です。泣けますよね……。
水野:ドラマでは、ふたりが「いつも、いつも」と言いながら笑っていましたね。この後の「悲しい運命」と対比しているようでつらかったです。

たらればさん:定子さまと清少納言が声をそろえて笑っているのは、かつてこのフレーズ「いつも、いつも」で笑いあった過去があるからです。

こちらも元ネタがあって、『新訂 枕草子』二一段「清涼殿の丑寅の隅の」に出てくる、古歌「しほの満つ いつもの浦のいつもいつも 君をばふかく 思ふはやわが」(私訳/潮が満ちる、いつもの浦のように、いつもいつもあなたを深く思っている私なのです)です。

定子さまの父・道隆が「しほの満つ いつもの浦のいつもいつも 君をばふかく 頼むはやわが」と、「思う」を「頼む」に変えて、円融帝に詠んだとされています。
鮮やかな緑に囲まれた定子さまのお墓。静かな時間が流れていました
鮮やかな緑に囲まれた定子さまのお墓。静かな時間が流れていました 出典: 水野梓撮影
水野:それで「いつも、いつも」というフレーズで心が通じ合えるんですね…。

たらればさん:このシーン、高畑充希さん演じる定子さまが、本当に久しぶりに声を出して笑っているんです。

定子さまが声を出して笑えるのは、もう(ファーストサマーウイカさん演じる)清少納言の前だけなんですよ。それがもう泣けて泣けて……。

水野:ふたりだけの大切な時間があったんだろうな……と思います。

枕草子は定子さまのために書かれたものですが、これが後世まで残ってくれて、わたしたちが二人の大切な時間に思いを馳せられることがありがたいなぁと感じました。

清少納言、今後も出演し続けてほしい

たらればさん:ファーストサマーウイカさんが、インタビューで<清少納言としてはこの先あまり表舞台には出てこなくなりますけれども、これからも、「定子様を、あの輝かしい一族のことを忘れないで」という思いで『枕草子』と共に生き続けてまいります>と答えているんですが……。

そこをなんとか……毎回出てきてくれませんかね……と念じています。

水野:わたしも、これからも清少納言には出続けてほしいです。今後、彰子さまに仕えることになるまひろに、女房勤めを指南してほしいし、ふたりで文学トークをしていてほしいです。

たらればさん:先日ついに和泉式部(あかね)の配役(泉里香さん)も発表されました。
たらればさん:平安中期のスーパー三大才女が揃ったわけです。ぜひ三人で、軒先でお菓子でも食べながら道長への愚痴で盛り上がってほしいです。

なんなら三人で月を見上げながら「めぐり逢ひて見しやそれともわかぬ間に」と詠みながら、いろいろあったねえ……とほっこりしあってほしい。
◆これまでのたらればさんの「光る君へ」スペース採録記事は、こちら(https://withnews.jp/articles/keyword/10926)から。
次回のたらればさんとのスペースは、8月18日21時~に開催します。

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