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連載

#8 U30のキャリア

「背水の陣」で発表した曲がヒット ボカロP吉田夜世さんのキャリア

「ゆくゆくは音楽で生活」…2年半で退社

DJ中の吉田夜世さん=本人提供
DJ中の吉田夜世さん=本人提供

目次

YouTubeでの再生回数が2000万回を超え、ニコニコ動画でも大きな話題を呼んでいるボカロP・吉田夜世(よしだ・やせい)さんの「オーバーライド」。吉田さんは会社員を経て、ボカロPの道を歩んでいますが、この曲は退職から1年以上が経った頃に「背水の陣で作った」ものだといいます。20代のボカロPのキャリア観について、聞きました。

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U30のキャリア
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2000万再生超え「オーバーライド」

出典: オーバーライド - 重音テトSV[吉田夜世]

ボカロPの吉田夜世さんが昨年11月に発表した「オーバーライド」は、アップテンポな曲調の一方で、サビ部分で「限界まで足掻いた人生は想像よりも狂っているらしい」と歌われるように、少しダークな雰囲気も漂う曲です。

YouTubeで「オーバーライド」と検索すると、替え歌にしたものや、ボイストレーナーによる「歌ってみた」、MVのイラストをアレンジしたものなど、二次創作が多く生まれていることがわかります。

吉田さんは20代。「オーバーライド」はボカロPとしての活動に専念し始めてから約1年後のヒットでした。

プログラマーとして一度は会社勤め

吉田さんは大学卒業後、2年半ほどプログラマーとして会社に勤務していました。
高校生の頃は軽音楽部、大学では軽音楽部およびアカペラサークルに所属し、大学4年生でDTM(パソコン上で行う音楽制作)を始めました。大学卒業後、すぐに音楽で生活しようとは思っていなかったといい、就職活動は「まっとうにしていました」。

「ゆくゆくは音楽で生活できるように、会社員としての収入を音楽で上回ることができたタイミングで退職しよう」と計画を立てた上で、IT系の企業に就職。プログラマーとして働き始めます。

一方、入社2カ月目に、音楽系の動画のアップロードを始めます。最初は歌のない楽器だけで作られたインスト曲や、「歌ってみた」を投稿してみたり――。

「ボカロPになることを見据え、始めたばかりの時期の投稿は、DTMのソフトの使い方に慣れたり、音楽知識を深めたりすることを目的にしていました」

音楽知識を深めるだけではなく、ボカロ界隈の分析も並行して行っていました。

「ビジネスも視野に入れていたのでので、トレンドもみていました」

会社員としても前向き「忙しいときは9割」

「忙しいときは9割、そうではないときは7割の力を仕事に傾けていました」と、会社員としての仕事にも前向きに取り組んでいた吉田さん。プログラマーとしての仕事は「楽しかった」と振り返ります。

一方、創作活動のために余力も残していました。「特に、入社したての研修期間は、あまりエネルギーを使わなかったので創作意欲が湧きに湧きまくりました」と笑います。

仕事と音楽活動を両立させる中で、吉田さんはボカロPとしての目標を立てます。「1年で1万回再生までいく楽曲が出なかったら音楽を仕事にすることはやめよう」

ただ、その1万回再生も1年経たないうちに達成します。そこからは、出す曲のうち、半分以上は1万回再生を超えることを目標にコツコツと制作を続けていました。

プログラマーとしての仕事は「楽しかった」と振り返ります。写真はイメージです=Getty Images
プログラマーとしての仕事は「楽しかった」と振り返ります。写真はイメージです=Getty Images

リーダー任され「いよいよ両立難しい」

会社員としては2年目を超えたあたりでプロジェクトリーダーを任されるなど、負担が大きくなっていったといいます。仕事内容のおもしろみが減ったとも感じ、「いよいよこれは両立が難しい」と考えるようになったといいます。

「仕事がおもしろければ、辞めずに続ける道もありましたが、結果としてボカロPを上回ってこなかった」

当初の目標だった、音楽活動での収入が会社員収入を超えることはありませんでしたが、2年半での退社を決めました。

会社員のうちは安定した収入が見込めた一方、音楽で生活をしようとすると、収入面での不安などもあったといいます。ただ、「貯金がなくなったらバイトしてがんばろう」と意を決します。

会社員を辞めたことで、音楽制作について考える時間や作品へのこだわりは深度を増していきました。一方で、ヒット曲はなかなか生まれず、1年ほどが経過。
そんなときに生まれたのが「オーバーライド」でした。

狙い的中も…爆発的な再生回数には時間

「これがうけなかったらまずいぞ、というタイミング。背水の陣でした」と、当時を振り返ります。

ボカロ曲がヒットするためには、リスナーによる二次創作意欲をかき立てることが重要な要素になります。「曲単体の力で伸びることは比較的珍しく、二次創作で広がる方が多いです」(吉田さん)

吉田さんはその点を鑑み「特徴的なMVとサビのインパクト」を意識した上で、最終的には「勢いに任せて書いた」といいます。「勢いで書いた曲の方がうけがいいということは往々にしてあります。自分の思いが色濃く出て、やりたいこともしっかり表現でき、さらには思いがある曲は聞き手にも伝わります」と、狙いが的中。

発表直後から反応は上々でしたが、なかなか爆発的な再生回数には至りませんでした。貯金も底をつきかけ、「来月からバイトを探そう」というタイミングで、再生数がぐんと伸びました。それも、リスナーによる二次創作が積み重なった結果でした。

吉田さんは「胸をなでおろしています」と笑います。

DJ中の吉田夜世さん=本人提供
DJ中の吉田夜世さん=本人提供

サビ聞いた人に「耳にこびりついてくれ」

会社員を経て、念願だったボカロPとしてのヒットを達成。今後については「がむしゃらにがんばっていくしかない」と気を引き締めます。
「一つのヒットにすがっていくわけにはいかないので、ここからは良いヒット作をまた生み出せるように楽曲制作をしていきたい」

その上で吉田さんは「EDM(電子音を使った音楽)を主体にしつつ、その中に効果的にロック要素を取り入れて、理想のポップソングを追い求めたい」と展望を語ります。

「自分のことをメロディーメーカーだと思っていて、そこに自信があります。楽曲のサビを聞いた人に、『耳にこびりついてくれ』と思いながら自己ベストをぶつけていきたい」

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連載「U30のキャリア」
コロナ禍を経験、オンラインコミュニケーションが増加、混迷を深める社会情勢――。
そんな令和の時代を生きる20代以下のみなさんは、人生をどう選択し、キャリアをどう考えているのでしょうか。
経験談やデータを元に、多様な側面から見つめます。

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